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第六章 ハイティーの招待客

ブラックウィドゥ質問会 月はなぜあるのだろう

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「なかなか人の心理を読まれておられる、フッカー、レディ・アリアンロッドの言われる通り、どう取ろうとこちらの勝手なのだよ」
 ギャラリーから、声がかかりました。

 誰かと思えば、ハーバート・スペンサー――イギリスの哲学者――さんですね、この時代の叡智といってもいいかもしれませんね。
 社会進化論の親分ですかね、適者生存の造語は、この方が作ったのです。

「私からも一つお聞きしたいのだが、よろしいかな?」

「どうぞ」

「アマチュアとして、興味本位で聞くのだが、月はなぜあるのだろうか?」

 私はくすくすと笑いました。
「また、これは想定外のご質問ですね」
「チャールズ・プリチャード――イギリスの天文学者、北極から赤緯約-10度までの2784個の恒星の相対光度を測定したことで有名、月の秤動も研究していた。――と親交があって、その時、このことを呟いたのが、印象に残っていたものでしてな」

「最も有力で、多分間違いないと思われるシナリオがあります」
「約43億年前に、この星ができたのですが、できて間もなく、直径が半分程度の、別の原始惑星がぶつかったのです」

「ぶつかられた方は、かろうじて持ちこたえたのですが、かなりの部分を、宇宙空間に放り出してしまいます」
「そしてぶつかった方は粉々になり、この破片たちが、残った原始惑星の周りを回り始めます」

「土星のリングを想像してください」
「やがてその破片の中から、月がうまれたのです」
「月が誕生した当時は、テラの自転速度は5時間から8時間、できた月がブレーキをかけてくれたおかげで、一日24時間になったのです」

「証拠はあるのですか?」

「月の岩石と、この星のマントルの酸素同位体比と呼ばれるものが、ほぼ同じなのがその証拠ではありますが、分かりますかね」

「わからなくても私は構わない、そのシナリオはとても興味深い」

 この後もいろいろありましたが、概ね『Xクラブ』の方たちは満足していますね。

 最後に、招待された方の中には、超大物が一人いたのです。
 この方が口を開いたのです……
 チャールズ・ロバート・ダーウィン、言わずと知れた進化論の親分さんです。

「さきほど、私の説を正しいとおっしゃられたことに感謝いたします」
「私からも、一つ質問させていただけないか?」

「私のような者が、貴男に質問をいただけるとは光栄です、何なりとどうぞ」
「人という種は、この先どう進化するのか、それだけです」

「プリンセス・リンダ、マッケンジー夫人、ご婦人方を別室に、ご案内してくださいませんか?」
「サー・ディズレーリ、ここからは本当に非公開、よろしいでしょうか?」

「ここにいる者は、紳士と自負するものばかりのはず、名誉にかけて、今から知りえたことは他言しないはず」
「女王陛下、アレクサンドル2世陛下、その他の随員の方々は、少し座をはずしていただけないか?」

「招待状の本人だけの秘密会としたいのだが?」
「編集者の諸君も、沈黙の約束をしてもらうことになる、誓えないなら、ここからは退室願いたい」
「私も何が話されるかは、把握していないのだが」

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