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第五章 黒い未亡人(ブラックウィドゥ)

英雄、色を好む?

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 リンダさんは、二日に一回はやってきます。
 どうやら、叔母様もマーガレットさんも、公認しているようです。

 クリスティンさんにも懐いて、まんざらでもないようなクリスティンさん。

 この頃は、二人一緒に、私は勉強を教えています。

 算数は、分数ぐらいは解けるようになりましたね……
 リンダさんにも、クリスティンさんにあげた文具一式をあげました。

 この頃、マッケンジー夫人も、リンダさんが来ることには何もいいません。

 私とクリスティンさんが、ふしだらな仲というのは、マーブル・ヒル・ハウスの使用人で、知らぬものはいません。

 あまりに堂々としているので、またしている程度に、なってしまったようです。
 そのふしだら女の中に、プリンセスが混じってはいけないのでは?

「ねぇ、マッケンジー夫人、私たちはふしだらな女ですから、プリンセスはこの屋敷に、来ないほうがいいのでは?悪い評判が立ちますよ?」

「女王陛下のご指示ですから構いません、そのおっしゃっておられる、『ふしだら』はご承知です」

「そうですか……」
 そんな会話の後、急にマッケンジー夫人は真顔になると、
「……レディ・アリアンロッド……マーガレット様に、冷たくなさらないで、いただけませんか……」

「でも、あちらが冷たいのですよ……私は鏡みたいなものです、親しみを示してくれる方には、そのように接しますし」
「レディ・クリスティン・ハワードとは、鏡の関係というわけですか?」
 私は苦笑いするしかなかったですね……

「辛辣ですね、でもそうですよ……互いに求め合っているのですからね」
「……でも、主従関係がおありのようですが?」
「まぁそうですね、すべてを預けてくれていますので、守らねばならないのです、代価は互いに支払っているわけです」

「代価?」
「代価です、これ以上は聞かないでくださいな、私は嘘はつけないのです」
「言葉には魂が籠るもの、濁るのは避けたいのです」

「……」

「レディ・アリアンロッドは、そのように云ったのですか?」
「はい」

「……私もリンダと一緒に、お伺いいたしましょう……」
「向こうは嫌っているのでは?」
「鏡と云ったのでしょう、嘘はつけないとも……」
「こちらが親しく頭を下げれば、ということですね」

「それはどうかと……」
「どういうこと?」

「レディ・アリアンロッドは、とにかく人を近づけられません」
「親しくされているのは、レディ・クリスティン・ハワードさんを除けば、リンダ様だけです」

「私が思うに、お屋敷を砦となされているようです」
「私たちが人を近づけさせないのを、利用しておられるような気がして、ならないのですが」

 !

「かかわりを持ちたくない……そうです……かかわりを持たせなくてはならない……」
「向こうは嫌がっているのだから……これは向こうの思惑通り……」

「マッケンジー夫人……突破口が分かった……お母様の喪服時代を終わらせたように、黒い未亡人(ブラックウィドゥ)のヴェールを、取ってもらいましょう……」

「良くわかりませんが、逃げようとするレディ・アリアンロッドを、引き留めればいいのですね?」
「そうです」

「レディ・アリアンロッドを、女と考えるから難しいのでは?」
「私がお側近くで観察させていただくと、女々しいところはなく決断も早い」

「しかも言葉に二言は持たれないようです、さらに女性がお好き……美女には少々だらしない……」
「冷酷と優しさを、公私で使い分けられておられます」

「このタイプ、英雄といえるのではありませんか?」
「ただ、スケールが把握できませんが」
「スケールは多分、桁が違うでしょう、しかし……そうです」
「たしかに貴女の言うとおり……英雄、色を好む……」

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