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第三十七章 戦場にて
01 決戦状
しおりを挟む私たちがシビル郊外で、決戦の軍議を開いている頃、もうひとつの軍議が、ホッパリアにある北方列島軍の、総司令部でも開かれていた。
各軍団長と海兵隊長にむかって、参謀が状況分析をしている。
「フィンのハイドリッヒが、とうとう巫女様の軍に合流した。」
「半分ぐらいはこちらになびくかと思ったが、配下の王国をまとめ上げて、全軍を率いて北上し、シビル郊外に集結している。」
「ハイドリッヒの軍は、フィン国内を治安部隊に任せて、二十四万の正規軍の全軍。」
「神聖守護騎士団以下、巫女様の軍、十一万も合流して総兵力三十五万、決戦する覚悟だろう。」
「良いではないか、相手がその気ならば、こちらもその気になろうではないか。」
「わしはこれをまっていた、堂々と大軍団で雌雄を決することができるなど、男子の本懐というもの。」
「こうなれば小細工は無用、参謀、それでよいだろう?」
と第一軍団長が発言した。
「俺も賛成だ、相手はハイドリッヒ、良くも悪くも武人、我らも武人、参謀には悪いが、不器用な者同士の命がけの決戦には血が騒ぐ。」
「肉弾戦、良いではないか、どうだろう、決戦状を送ってやろうではないか。」
「海兵隊長、貴様まで云うのか!」
「参謀、良いではないか、ここにいるものはすべて同じ思い、血が騒ぐのだ。」
と他の軍団長も同じように云った。
「……仕方ないか、わからないこともない……」
「よろしい、主席には決戦で決着をつけると報告しておく。」
「堂々と決戦するならガルダ草原しかないが、第一軍団長、よろしいか?」
「同意する。」
「海兵隊長の云う通り、相手はハイドリッヒ、堂々と決戦状を送れば、それに乗ってくるだろう。」
「諸君、望み通りの決戦とする、互角の相手とガルダで決戦する以上、策は無用、諸君の武勇が勝敗を決する。」
「勝利の栄光は我らの上に輝く、相手を一人残さずあの世へ招待してやろう!」
参謀は決戦状をしたためて、ハイドリッヒに送った。
それには次のような文面だった。
貴軍と雌雄を決するため、ガルダ草原でお待ちする。
貴軍に異存はないと確信する、陣は横陣、我らは小細工しないとお約束する。
日はそちらが指定していただいて結構、時は戦場にて決めようではないか。
参謀と各軍団長の連名である。
「で、だれが届ける。」
「俺が届けよう、巫女様のお顔も見おさめになるからな。」
第一軍団長が、
「そんなに美女か?」
「会えばわかる。」
「ならば行って来い。」
と第一軍団長が笑いながら云った。
私たちはシビルをたって、ガルダ草原への途中で夜営していました。
そしてハイドリッヒさんの天幕に軍使がやってきました。
ハイドリッヒさんからの連絡で、軍議のメンバーが集められました。
あの男が悠々とお茶を飲んでいます。
「ヴィーナス様、そして諸君、こちらはホッパリアから来た海兵隊長、敵の軍使、彼はこの決戦状を届けてくれた。」
「では軍使殿、しばらく席を外してくれ、返事を相談しなければならない。」
「ヴィーナス様に、もう一杯お茶を入れてもらえますか、よいでしょう。」
私はため息をつきましたが、
「その肝っ玉に敬意を表しましょう。こちらへどうぞ、ハイドリッヒさん、後は任せましたよ。」
「お酒にしますか?」
「お茶で結構、戦いの前に酔うのは武人ではない。」
この人は張飛ではないですね。
「一言、死ぬかも知れないので、詫びを云っておく。」
「そうですか。」
後は一言もいいません、ただ黙って座っていました。
「貴方、変わった人ですね、戦場であったら、必ず命をもらわなければならない人ですね。」
「光栄です。」
「そろそろ返書をいただけそうです、ではお別れです。」
海兵隊長を呼びに、シャルル隊長がきました。
「野戦警察のシャルル殿か、良き敵だ、戦場でお目にかかろう。」
「望むところだ。」
日を決めた受諾の返事とともに、海兵隊長は去って行きました。
「シャルルさん、どう見ました。」
「良き敵です、命をかけるのにふさわしい相手。」
男はやはり好戦的ですね。
決戦の時は十日後だそうです、そして私たちも横陣で対峙すると、返事したそうです。
敵も味方も馬鹿ですね、男って馬鹿ばかり、私もそんな立派な馬鹿だったかと、一瞬考えました。
そうあればよかったでしょうに、私は逃げてばかり……
私は逃げません、こんどばかりは、たとえ一人になっても、踏みとどまってみせましょう。
立派な馬鹿になれるように……
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