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第三十一章 キリー攻防戦
03 サマータイムを響かせて
しおりを挟む「いま一つ、ヴィーナス様にお教え願いたい、この場合、騎兵には何が必要なのですか?」
「騎射と乗馬術、つまり弓騎兵、それと騎兵用の槍を持ち、胸甲をつけて敵の第一列を突き崩す、槍騎兵が必要でしょう。」
「勿論、敵と白兵戦を演じることもありますので、剣は持たなければなりませんが。」
「それと弓は長射程の大型で、騎射できる物が必要となります。馬に乗り、馬上で弓を扱うためには、乗馬術が優秀でなければ務まりません。」
「神聖守護騎士団の方は、乗馬術は優秀と聞いていますが?」
「乗馬は騎士たる者、後れをとるはずはないと自負していますが、馬上で弓を引けるのですか?」
「弓の職人に優秀な方はそろっていますか?」
ジジさんが、
「それは大丈夫です。」
「では明日、神聖騎士団の練兵場で、私が見本を持って来ましょう。」
「そして騎射、流鏑馬というのですが、それを披露いたしましょう。」
「ついでですが、移動トーチカとバリスタは作れますか?」
「それは大丈夫です、特にバリスタは大至急で作りましょう、キリーの防衛に必須ですから。」
「それまでに、できればジャバ王国からいくつか持ってきてもらえますか。」
私はアポロさんを見ますと、頷いてくれましたので、
「アグネス隊長、奉仕の魔女団全員で大至急、アポロ執政の指示のもと、運べるだけのバリスタを持ってきてください。」
アポロ執政とアグネス隊長は急いで取りかかりました。
トール隊長も、イシュタル突撃隊を戦時体制に切り替えるために、共にジャバ王国へ帰りました。
「イワン団長、お聞きの通りです、緊急にバリスタを、どれほどかはわかりませんが持ってきます。」
「受領したら、すぐに訓練にかかってください。」
「また今日から、このキリーも戦時体制に入ります。あとでアナスタシア皇女には知らせておきますので、すぐに戦時体制に入ってください。」
「エレン団長、麗しき女騎士団にも臨戦態勢を命じます。」
「貴女たちはこのキリーの予備兵力となります、もし敵がこのキリーの城壁を破りそうになったら、秘密兵器の魔弾を使用して応戦しなさい。」
「万一、キリーの町へ敵が侵入したら、この館からできるだけ多くの人を、奉仕の魔女団が脱出させますので、その間、防衛をしてください、もしそれでも支えきれなくなったら、魔弾を処分してください。」
「しかし絶対にキリーの町は守り切りますので、その様なことはないはずです。」
「本来、麗しき女騎士団は私の親衛隊で、私と一緒に戦場に出るのですが、このキリーはそれほど大事なのです。」
「私もできうる限りこの町へ来ることにします、よろしいですね。」
「ただし四日に一日は、シビルで休養を取ってください、その……大事なところの問題がありますから。」
私とダフネさんとジジさんが残りました。
「巫女様、お疲れでしょう?」
「確かに疲れましたが、ここで私がへこたれていては示しがつかないでしょう?」
「そう言えば、お昼はまだでしたね。軽く内々で食事をしませんか。」
「そうですね、本当はリリータウンでゆっくりしてもらいたいのですが、そうもいきませんね、私が皆を呼んできましょう。」
そう言ってダフネさんは席をたちました。
「では、私はマリーさんにお昼の件を言ってきます。」
私は亡霊の館にある、イシュタルの間で、いま一人です。
ふと、いつも肌身離さず持ち歩いている、ハーモニカに手が触れました。
クロマティック・ハーモニカ、ホーナー社のロングセラーモデル『SUPERCHROMINICA270』というものだそうです。
なぜこんなハーモニカを、父がもっていたのか、不思議でもあります。
私はなんとなく、サマータイムをふいてみました。
このブルースは、オペラの『ポーギーとベス』の第一幕で歌われた、ガーシュウィンの名曲です。
漁師ジェイクの妻クララが、赤ん坊に対して歌う子守唄です。
オペラの内容は、とても暗くて好きではないのですが、この曲は好きです。
どうしようもなく悲惨な境遇の中でも、我が子を愛し、子供が成長し旅立っていくまで、両親は守っていくと歌うこの曲は、いまの私の心境にピッタリです。
それを父の形見のハーモニカで……
私が守っていこうとする、私の愛した世界のために、ふいているのも、何かの縁なのでしょうか。
私は時々、神様がいると感じる時があります。
いまこの時も、そう感じました。
そして、私自身も癒され勇気を振り絞ろうと、決意できたひと時でした。
なにも怖くない、父も母もいる……
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