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第二十八章 アムリア帝国の崩壊

05 教え子たちの逃避行

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 その頃、キリーの町を目指す一団がいました。
 カルシュのジャバ王国公館長が率いて、教団領公館長も合流しています。

 彼らは、北方列島軍の第三軍団に、カルシュが降伏した隙を見て脱出したので、その後の惨劇に合わずに済んだようです。

 この時、学園長とヴィーナス先生の教え子たちの一部も行動を共にし、総勢三十名たらずの女学生と学園長を、ジャバ王国公館付きの、少数のイシュタル突撃隊と警備兵、それにさらに少ない、教団領公館の騎士が守っている。

 学園長がジャバ王国公館長に、
「私たちが合流したばかりにスピードが遅くなって、申し訳ありません。」
「学園長、そんなことより生徒たちの心配をしてください、身内を亡くした子たちがいるのでは……」

「いいえ、この子たちには親しい身内はいません。私の保護下にいるものばかり、親のいない、身内に疎んじられた子供たちです、私の子供と思ってください。」

「しかし、大胆な行動ですね。学園長がヴィーナス先生と呼ぶ方は、どのような方が御存じですか?」
「ジャバ王国の侯爵家の御令嬢と聞いています、公館長がおっしゃったのですよ。」

「確かにいいましたが、いまなら本当のことが言えます。ヴィーナス先生とは仮の姿で、我らの主君、イシュタル女王陛下のことです。」

「しかもイシュタル女王陛下も仮の姿、本当の本当は神聖教の至高の存在、黒の巫女様のことです。」
「だから我らは、教団領公館と親しくしていたのです。」

 学園長は驚愕の顔をして、隣のもう一人の公館長を見ました。
 教団領公館長も頷いています。

「とこかく何とか無事に、キリーの町にたどり着きたいものです。」
「そうですね。」

 ジャバの公館長は巧妙です。
 兵士を先行させ、少しでも危険な兆候があると道を変え、獣道を調べ、そこを通ります。
 一人の落後者もなく、ガルダ街道までやってきて、ピタと歩みを止めた。

「どうしたのですか?」
「学園長、お静かに、ものすごい兵士の数です。」
「ここは早く立ち去りましょう、巻き添えはごめんです。」

「確かここの近くから、峠道があると聞いたことがあります。」
「まずだれも知らない道で、雪が積もっているそうです。」
「その峠を越えると、ガルダ村の近くの湖畔の、古びた教会にたどり着くそうです。」

「だれから聞いたのですか?」
「ヴィーナス先生、いや黒の巫女様です。」
「とにかくその道をいきましょう、いまはここから逃げることが先決です。命が大事ですからね。」

 一行はその道を行きます、夜は火を使いません、麓から見えることを避けるためです。
 そうしてやっと峠にたどり着きました。

 だれかが「見てみろ!」と叫びました。
 眼下には小さくではあるが、ガルダ草原が良く見えています。

 そこに豆粒のような兵士の一団が対峙しているのが見え、片方はもう片方の五倍はいるようです。
 そして今まさに、決戦の火ぶたが切られるように見えました。

「あれではアムリア帝国の圧勝だな。」
「多勢に無勢、アムリアが負けるわけはない。」
「これで我らの逃避行も終わりですね。」

「この結末を確認してから行動を決めるとしよう、しばし休養だ。」
「寒いので暖を取るが、火は岩陰で燃やせ、煙はできるだけ出さないように注意をせよ。」

 今後の行動を決めるためにも、一行は注目していました。
 結果は恐るべきものでした。
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