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第二十八章 アムリア帝国の崩壊
03 避難民を守りながら
しおりを挟むリゲルの難民を守りながら、総長は教団領を目指しています。
盗賊や山賊が襲ってきますが、数は少ないが歴戦の軍団です。
総長は自ら指揮して、そのような集団を蹴散らしながら、教団領をひたすら目指しています。
「総長、少しお休みになられては、このままではお身体がもちません。」
「かまわないよ、私は死んでもいいのだ、私には荷が重いが、今までの人生の罪滅ぼしにはなるだろう。」
「それよりだれか教団領へ行って、アナスタシア様へ我らのことを伝えに行ってくれないか、急に五万の民が身を寄せられても困るだろう。相手の意向を聞かねばならぬ。」
「総長、私がいきます、そして必ず帰ってきます。」
帝国騎士団の、数少ない生き残りの騎士が申し出てくれました。
「すまないが頼む、君からみれば私など唾棄すべき人間だろうが、このリゲルの罪なき人々のために、頼む。」
帝国騎士は最敬礼して、
「総長、過去はともかく、今は御立派な総長です。」
と言い残して、シビルを目指して出立しました。
騎士が出て行ったあとも、兵士たちは奮戦を続け、外敵を蹴散らしながら、じりじりとシビルへ近づいていきます。
難民間のトラブルなども多発していますが、なんとか抑えています。
しかし女子供や老人が多く、その歩みは遅く、帝都の民を守る、最後のアムリア帝国軍は、徐々に疲労していったのです。
「総長、兵の疲労が激しく、このままでは持ちません。しばし休憩を取りましょう。」
「それはできない相談だ、食料が乏しいのだ。」
「まだ人々の体力があるうちに、できるだけ教団領へ近づきたい。」
「我らがここで倒れることは許されないし、立ち止まることも許されない、私が兵に話をしよう。」
「兵士諸君!」
と、総長は兵士たちに語りかけ始めた。
「いまここにいる兵士諸君が、アムリア帝国の最後の軍人である。」
「兵士諸君はこの約五万の民を守り、無事に目的地まで送り届ける義務がある。」
「私は恥ずべき人間であった、本来、貴方たちに命令すべき人間でないことは、十分に承知している。」
「しかし、いまここにいるリゲルの民は、我ら最後のアムリア軍人を頼りとしている。」
「私は倒れ魂魄となっても、この民を守り抜く覚悟である、諸君が疲労しているのは承知の上でお願いする。」
「諸君の軍人の誇りにお願いする、この罪なき民を守るため、命を捨ててくれ。」
「私と一緒にここで死んでくれ。」
死相が出ているような、総長の青白い顔を見て、兵士たちは泣いた。
「総長、お供いたします」と、一人が云うと、皆、声をそろえた。
守られる民の方は、総長の苦労などはどこ吹く風で、不満が続出しています。
中には、敵の保護のもとでもいいから、リゲルに帰りたいという者まで出る始末。
しかし総長は皇帝の最後の命令を、守り抜くことに決めていました。
「皆さん、お聞きください、皇帝陛下は目が覚めたがもう遅いといわれ、最後の最後に私にこう言い残されました。」
「いよいよなら敵に降伏するのもよかろう、彼らは頼りになる、しかし敵の下で生活はしない方が良いと思う。」
「もし大陸が敵に支配されたら、ジャバを経由して海の彼方に新天地を求めよと。」
「人の最後の言葉です、私は陛下のお言葉を信じます、とにかく教団領まではついてきていただきます。」
「その後は皆さまの自由です、ここでバラバラになれば山賊の餌食です。」
総長には何かがとりついたような雰囲気があります。
行程の八割ほどさしかかったところで、先発した騎士が戻ってきました。
「総長、アナスタシア様にお目にかかり、現状を報告しました。」
「黒の巫女様も直々にお会い下さり、受け入れてくださると、お言葉がありました。」
「私はすぐに戻ってきましたが、後から神聖守護騎士団が、物資を持って駆け付けてくれるはずです。」
報告を受けて兵士たちから歓声が上がり、困難な逃避行も、終わりを迎えることになったのです。
兵士は多大な犠牲を払いましたが、五万の民には、ほとんど死傷者はなかったのです。
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