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第二十八章 アムリア帝国の崩壊
01 アムリア帝国最後の軍
しおりを挟む逃げてきた皇帝は、帝都の民の代表を集めて、
「残念だが敗戦である、アルジャに続きホッパリアも陥落した、アムリアはもう終わりである。」
「余は、最後の皇帝らしく終わるつもりである、余の失政で幾多の命を失った、ことここに至って目が覚めたがもう遅い。」
「帝都リゲルはもう終わりである、まだ南の街道は開いているので、頼れる者がいるものは脱出してくれ。」
召集兵はここで召集を解除し、
「御苦労であった、諸君も早く家族のもとへ帰ってくれ、すまなかった。」
「これからは戦火が続くだろうが、無事に生き残ってくれ。」
帝都の住民の大半は脱出しましたが、あてのない貧しい民が五万名ほど残ったのです。
身寄りのない孤児や、蔑まれていた娼婦など、社会の弱者がほとんどです。
この人々に向かって、皇帝は約束しました。
「貴方たちの安全は、私ができる限りのことをする、すぐに脱出の準備をするように。」
皇帝は、残った元正規軍の兵士を集めて軍を再編成、約六千名の部隊であるが、アムリア帝国最後の軍です。
「兵士諸君、我らは見事に負けた、しかしこの敗戦は余の責任で、諸君の責任ではない。」
「余はここで帝都と共に終わる覚悟である。諸君は残った帝都の住民を守って、避難させてくれ、頼む。」
そのように云うと、兵士たちに頭を下げたのです。
「ロマノフ騎士団総長はいるか?」
「ここにおります。」
「余は汝のことはよく知っている、余も汝も参謀に踊らされた仲だ。」
「余はここで終わるつもりだが、汝には頼みがある。」
「汝も最後は男らしく、余の頼みを聞いてくれ、最後の命令である、帝都の民を守れ。」
「いよいよなら、敵に降伏しても構わぬ、彼らは見事なまでの戦士であった、彼らは頼りになる。」
「しかしこの戦乱で賊徒がのさばるだろう、六千の兵士が一団となって行動すれば、なんとか民を守れると思う。」
「この宮殿の備蓄食料を、持てるだけ持って行け、金貨などには目をくれるな、荷物が重くなる。」
「陛下!」
「まずは教団領を目指せ、かなわぬ時はキリーへ逃げよ。」
「それが無理ならフィン連合王国へ行け、ホラズムへは決して行くな。」
「ホラズムは必ず、アムリアと同じく蹂躙されるだろう。」
「もし、この大陸が奴らに支配される時は、ジャバを経由して、どこか海の彼方に新天地を望むしかない。」
「先程の余の言葉とは矛盾しているかもしれないが、できるならかの敵の下では、生活しない方がよいとは思う。」
「途中で余の臣民の難儀に出会ったら、できるだけ手助けしてやってくれ。」
「教団領を目指すのなら、ピエールを頼め、昔、殺そうとした男だが、こうなっては彼を頼りにするのも良いだろう。もし会えたら、詫びをいっておいてくれ。」
「また黒の巫女様には丁重に詫びてくれ、巫女様はその一言で意味がわかるはずだ。」
「そしてできるなら、姉上へこれを渡してくれ、詫び状と帝国の後見就任要請と全権委任状だ。」
「言いたいことはこれだけだ、さぁ、もう行け。」
「皇帝陛下、私はいままで私欲で生きていましたが、ここに命にかけて誓います。」
「必ず帝都の民を落ち延びさせて見せます。」
「苦労を掛けるが頼む、私の最後の願いだ。」
「わかりました、では陛下、おさらばです。あの世で首尾を御報告できるとおもいます。」
そう云うと、ロマノフ総長は笑ったのです、乾いた笑いでした。
「そうか、後はよろしく頼む」と、言って皇帝も笑いました。
覚悟した人の笑いは美しく見えるものです。
「総長、この人々を守って教団領までいくのですか?」
「皇帝陛下の大事な民である、軍人は民を守るために存在するのだ。」
「私は先のガルダ街道の会戦で、逃げ出してしまった、またその前も、人とは思えない卑怯な行いをしてきた。」
「散々人を蹴落として生きてきた、なのに皇帝陛下は私を信任された、死に場所を与えてくださったのだ。」
「私は一人になっても、この方たちを守り抜く。」
帝都の最後の民、五万はこうして脱出しました。
皇帝が残した六千の兵に守られて、一路、教団領を目指したのです。
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