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第二十六章 動乱前夜

08 治療の報酬は無用ですよ

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「少し落ち着いた?」
「はい。」

「じゃあ、これから貴女たちの怪我の治療をします、まず、イリーナさんからはじめましょうね。」
「アナスタシアさん、服を脱がしてあげてください。」

 裸になったイリーナさんを見て、アナスタシアさんが、
「私の弟は鬼です、どうしてこんな酷いことを……」
「アテネさんはもっとひどかったのです、でも今はその話は後です。」

 私は治療を始めました。

 イリーナさんの、身体の悪い所を探すイメージを持ちます。
 すると次々と、身体の悪い所が頭に浮かんできました。
 この場所を、片っ端から復活するイメージを強く持ち、治療していきました。
 昼過ぎまでかかりましたでしょうか。

「イリーナさん、目を開けて私を見てください、見えますか?」
 イリーナさんが恐る恐る目を開きます。

「見えます、良く見えます、ものすごく綺麗な方が見えます、私、見えるのね、嬉しい、私見える!」

「イシュタル様、見えます、もうこのまま見えないかと思っていました、嬉しい、とても嬉しい、でも……」

「大丈夫、次はエリーナさんを治しますから。」
「エリーナさん、服を脱げますか?」

 エリーナさんは頷きました。
 私は同じ要領で治療を始めましたが、こちらの方が重傷ですね。
 かなり苦労しましたが、終わった時は夜が訪れていました。

「エリーナさん、なにか喋ってくれますか?」
「イシュタル様?喋れます、イリーナ姉さん、私、喋れる!」
 姉妹は抱き合って泣いています。

「アナスタシアさん、私、くたくたでぺこぺこです、なにかありませんか?」
 アナスタシアさんが、台所へ駆けて行きました。
 私はトーストに蜂蜜を塗りたくって食べています、ミルクをお供にして。

「今夜はお泊りになりますか?」
「ありがたいのですが、小雪さんと約束がありまして。」
「イシュタル様も大変ですね、愛人が多くて。」

 イリーナさんが、
「アナスタシア様は、イシュタル様の愛人なのですか?」
と聞いています。

「イシュタル様に購入していただいたのです、私はイシュタル様の物なのです。」
 どうしてもなじめない、エラムの風習です……

「アナスタシア様、このお礼に、私たちもイシュタル様に御奉仕したいのですが。」
 イリーナさんが、危険なことを云い出しています。

「イリーナさん、お気持ちはわかりますが、とりあえず身体を健康に戻してください。」
「そして、その気があるなら、女官になって私を助けてください、お願いします。」
 と先手を打たせていただきました。

 治療の報酬に御奉仕なんて無用ですよ。
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