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第二十六章 動乱前夜

04 褒美

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 三日後、参謀は総長と二人で、皇帝に呼び出された。
 上機嫌の皇帝は、「二人とも、良くやった。」と声をかけた。

「総長、取り潰した者の領地から、好きな所をやろう。参謀はなにが欲しいか?」
「私はお役に立てれば、それで満足ですが。」
「私は疑い深いぞ、褒美の欲しくない者はとくに……」

「わかりました、では一つ欲しいものがあります。」
「陛下御寵愛の側室の中より、お一人いただきたく思います。」
「ほう、参謀も女が欲しいのか?」
「私も男、美女は嫌いではありません。」

「しかし、余も美女は大好きでな、汝の希望はかなえられないが……参謀には褒美を取らせたいし、そうだ、余に逆らって、明日殺してやろうと、楽しみにしていた女をやろう。」

「余の楽しみをくれてやるのだ、文句はあるまい。心配するな、たしかに美女ではある、折り紙つきの。」
「ただし余が賞味してしまったので、汝が気に入らねば殺しても構わぬ、勿論売り飛ばしてもよいぞ。」

 そして、「連れてこい」と侍従に命じた。

 連れてこられたのは、十二歳ぐらいの双子の姉妹で、たしかに皇帝の云う通り、美しい少女たちであった。

「汝も知っていよう、アナスタシア皇女の、叔母の娘たちだ、余とは血がつながっていないが。」

「陛下、私も男、このような美少女を戴きまして、ありがとうございます。」
「しかし、私は女を抱くと、高ぶりのあまり首を絞める癖があります。」
「折角、陛下の下賜された者を、その様にしてもかまわないでしょうか。」

「構わぬ、余も散々楽しんだ者たちだ、もし生き残ったら、売って報償とせよ。」

 二人を館へ連れ帰った参謀は困惑していた。
 あの場合、いたしかたなかったが、困ったことになったぞ……
 とりあえず二人の話を聞くか……

 一人が一人の手を引いてやってきた。
 ひかれてきた少女が、
「貴方様が私たちの主となる方ですか、どうぞ私たちを早く殺してください。」
「先程、皇帝との話は伺いました、首を絞めて殺してください。」

「このような身体になっては、この先、生きてはいけません。」
「ご覧のように、私は目を潰されました、妹は喉を潰されました。」

 参謀は無言で聞いていましたが、
「殺しはせぬ、後はまかせよ、とにかく今夜は食事を取り、風呂に入り、ゆっくり休め。」
 そして、「食事は取ったか?」と聞いた。

「ここ二日ほど取っていません。」
「私の館では贅沢な物はないが、とにかく食事にしよう、少し待ちたまえ、君たち、名前は?」

「私がイリーナで妹はエリーナ。」
「エリーナ、手伝ってくれ。」
 エリーナに食事の準備を手伝わせて、三人でテーブルについた。

「とにかく食事をしなさい。」
「主様はお一人でお住まいですか?」
「あぁ。」
「今日はお客様がおいでなのですね?」
「どうして、そう思う?」

「お隣の部屋から、男の方の匂いがします。」
「そうか、それ以上は云うな、よいな。」
「申し訳ありません。」
 参謀はイリーナとエリーナが食事を取ると、部屋に下がらせ、風呂に入るように命じた。

「参謀殿、どうするね。」
 隣の部屋から、海兵隊長が出てきた。

「頭が痛い。」
「殺してしまえばよいではないか?鬼も震えあがる参謀殿だろうが?」
「覚悟を決めた少女の首を、絞める気にはならなかった。」

「長いナイフの夜の首謀者とは思えないな、あんたの秘密にも、気が付いているようだし。」

「大したことではない、しかし困った。」
「俺に任せるか?あんたのためだ、身内に送りつけてやるが。」
「……」
「海兵隊長は、侵攻の準備のために帰還するが、途中二日ほど休暇をもらう。」
「侵攻まで後十日ある、間に合うさ。」

「すまんが頼む。」

 次の日、参謀はイリーナ姉妹を呼んで、
「私はお前たちとの交合の途中、つい首を絞めて殺してしまった、よいな。」
「この薬は一時的に仮死状態になる薬だ、怖がることはない。」

「その後、所要で使いにでる部下の者に、ついでに女の死体を埋葬させるために、死体を袋に入れて渡す。」
「その袋はシビルへ向かう、中央神殿の前で、お前たちは身内の者に起こされるはずだ、よいな。」

「そしてその身内の者の主人に、傷を治してくれと頼め、たぶんお前たちの傷を治してくれるだろう。」

「ここで見聞きしたことは、たとえ身内のものでは喋らない、固く誓えるか?」

「はい」

「良い子である、もう会うことはないであろう、無事であることを祈る。」
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