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第六章 コルネリアの物語 モルダウ居館

05 特設浴場

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 モルダウ居館に新設された浴室は、浴槽が幾つもあり、装飾はなく質素な物だった……

 ただ浴槽には、変わった物がおかれていた。
 箱のような物で、何でも温泉成分を出す石が、入れてあるそうだ。

 しかしコルネリアは、その箱自体にも、驚きを禁じ得なかった。
 ステンレスと呼ばれる、その不思議な金属は腐食しないのである。

 コルネリアは、旧知になった女官にいったものだ。
「しかし凄いものですね、私はイーゼル温泉を知っていますし、時々入りに行きますが、あそこよりは少し効能が低いようですが、それでも身体がいつまでもあったかい、湯冷めしませんね。」

「それに、調合入浴剤の作り方も教わりましたし……」
 重曹3、あら塩3、クエン酸1、の比率で混ぜれば、あとはお湯に入れるだけの即席入浴剤……

 ただ材料は特別に支給されるもので、第一野戦病院で、天然ソーダと柑橘系の皮で代用できるように、研究せよとのことです。

 これは戦時に出動した時、兵士たちの疲労回復、健康の観念から、第一野戦病院の備品とし、設営した時の浴室に入れるためのものです。

 あとモルダウ居館専用として、粉末ミルクも支給され、ミルク湯も出来るようになっています。

 コルネリアはここで、アイデアがひらめいた。
 モルダウ居館には、一般の市民ははいれない、まして男は、特別許可を持つ者以外は厳禁です。
 うっかり入ると命を落としかねません。

 しかし、モルダウ居館の外ならば……
 第一野戦病院勤務の女官たちには、特別通路を通るために、ペンダントが支給されている。
 そのペンダントには、コルネリアたちが身につけるチョーカーとは比べ物にならないが、しかし身を守るようにヴィーナスの魔力が主を守っている。

 だったら訓練を兼ねて、十日に一度ぐらい特設浴場で、市民にお風呂を公開してもいいのでは……
 隣のホラズムでは、入浴の習慣は根付いており、一般市民も普通に入っている。

 しかしフィンやアムリアでは、入浴という習慣はなく、身体を拭くだけで……
 このフィンの南、モルダウあたりでは、貴族階級は湯あみという事はするが、市民にはそんな習慣はない。
 というより、そんな贅沢は許されないのだ。

 四人の中でも、コルネリアはこの一般市民階級の出身、入浴のありがたさを、一番実感している。
 まして、調合入浴剤を入れれば……
 すこしは貧しい人々にも、疲れを癒す事が、出来る手段を提供できる。

 コルネリアはこの考えを、オルガに相談してみようと、オルガが来るのを待ち構えて、やっと捕まえた。
 オルガは憔悴した顔をしていた。

「どうしたの?」
 コルネリアは、オルガを見て、相談事を飲み込んだ。
「ヴィーナス様の治りがおもわしくないので……」

 その時、コルネリアは初めて、内乱の時、腕をヴィーナスが切断される重傷を負った事、何とかその絶大な魔力で回復したが、それでも直後のタリン進駐の無理がたたって、かなり治りが悪いと知った。

「ヴィーナス様が……」
 絶句したコルネリアであった。
 真っ青な顔をしたのであろう、オルガの方があわてていた。
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