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第六章 コルネリアの物語 モルダウ居館

02 葬儀の女主人の涙

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 コルネリアたちは、半狂乱になりそうだったが、何とか気持ちを抑え込んで、葬儀に出席した。
 そこで、コルネリアたちは衝撃を受けた……

 ハイドリッヒの名誉のために、コルネリアたち側室は、黒の巫女に王妃の位置に立ってもらったのだが、こっそりと覗き見た黒の巫女が、ハイドリッヒの為にひっそりと涙していたのだ。

 さらにその夜、コルネリアたち四人は聞いていたのだ。
 月明かりのバルコニーで、黒の巫女は嗚咽していた。
 そこへ同道していた、元アムリア帝国大公の妾であったマーシャにいったのだ。

 「私も女ですね、本当は死んだ兵士の為に流さなければならない涙を、一人の男の為に流してしまって……」
 と……
 そしてさらに涙をこぼしていた。

 その時、コルネリアには、黒の巫女の脇腹あたりに、血が滲んでいたのが見えた……
 ヴィーナス様は激痛を押して、葬儀に出席されていた。

 次の日、コルネリアたち四人の側室は、話しあっていた。
「私は殉死したい、このまま生きていたら、ウィルヘルム様に御迷惑がかかる。」
「必ず、私達の親戚がのさばるのはたしか、亡きハイドリッヒ王は、ウィルヘルム様の事、モルダウ王国の事を、あの黒の巫女様に、託されたと聞いた。」

「あの方なら。モルダウの事は大丈夫と思う、しかし私達がのうのうと生きていれば、大丈夫な物も大丈夫でなくなる。」
「私は黒の巫女様が、ロンディウムを去られたら、命を断つつもりだ。」
 リーダー格のシャルロッテがこう切り出した、それに他の三人も同意した。

 しかし運命は死を選ばせなかった。
 ハイドリッヒの財産として、彼女たちは黒の巫女の所有となり、ウィルヘルムの願いにより、黒の巫女の寵妃となった。
 つかの間の平和、つかの間の幸せだった。

 ヴィーナスから下賜された館、モルダウ居館の一室で、コルネリアはそんな思い出に浸っていたのだ。
 いや逃避していたといってもいい。

 いま、ヴィーナスは出陣した。
 ハイドリッヒが犠牲になり、やっと掴んだエラムの平和なのに……
 フィンは二つに割れ、内乱が始まったのだ。

 ヴィーナスに味方する、モルダウ王国が属する南部は極めて劣勢、しかもヴィーナスの直属部隊も、ほとんどは再編途上、唯一といってもいい無傷の部隊、ロマノフ名誉騎士団も、西部辺境諸侯領平定に駆り出されている。

 ヴィーナスは少数の直属兵団を動員して、決戦に出ていった、それが昨日……

 四人は、
「お帰りをいつまでも待っています、万一の事があれば、私達もお供いたします。」
 といい、その返事としてヴィーナスは、
「私は死にませんよ、この大きな皆さんのお乳は、だれにも渡すつもりはありませんから、死神にもです。」
「だから帰ってきます、その時は夜の奉仕を強要しますからね。」

 そんな返事を聞いても、モルダウ居館に住まう四人の寵妃は、それぞれ泣きそうな思いで、各自の部屋にこもっているのだ。

「ヴィーナス様……御無事で……もう嫌!もうこれ以上愛する方がいなくなるのは!」
「帰ってください、ここでなくてもいい、だれかのもとへ、帰ってください。」

 隣の部屋の、クララの呟きが漏れてくる。
 そう、私もそう思う、帰ってきてください、私も叫ぶ……

 昼、四人で食事となったが、皆、食欲などはなく、無言のままだった。
 あのしっかり者のシャルロッテさえも、目が赤く、泣いていたようだ。

 コルネリアはある決意をする、そしてそれを言葉にした。
「私、行くわ、ヴィーナス様のお役にたちに。」

「行くといっても何処へ?」
「決まっている、戦場です。」
「コルネリア!お邪魔です。」

「いえ、ナイチンゲール看護婦人会に入って、少しでも、お役にたちに行くつもり。」
「……」

「私も行く!」
「そうです、ここで待っていても苦しいばかり、もしヴィーナス様が敗れる事が有れば、私が盾になる。」
「矢ぐらいなら、私の身体で代われる。」

 次の日、四人はナイチンゲール看護婦人会の制服を身につけていた。
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