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第五章 ビクトリアの物語 西部辺境諸侯領平定戦

10 血まみれのプディング

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 ダニエラが部屋を出て行ったのを確認して、グレンフォード侯爵はすぐに、一族の主だったものを集めた。
 ただ反旗を翻したブレイスフォード子爵などは除いたが。

「皆、この部屋でビクトリア・グレンフォード様をしのぶ夕食会を行う、ただしお客が一人ある、献立は血まみれのプディングだ。」
 驚いたような顔が並んでいます。

 血まみれのプディングとは、ビクトリア・グレンフォードが、側室を守りトレディアを脱出して、側室のお腹にいた初代グレンフォードの為に、血だらけの身体で作ったといわれるプディングのこと。
 ビクトリア・グレンフォードは、この簡単なプディングが、好物だったと伝えられている。

 このプディングは、グレンフォード一族だけで食する決まりがある。
 それを破る、と当主が云うのであるから、驚くのも無理はない。
「皆のいいたい事は理解している、しかしお客が、本人とするなら別であろう。」

 ……

 一人が、
「ご当主は確信をお持ちか?」
「持っている、300年前の人物ではあるが、なぜかは判らぬが、確信が持てるのだ。」

「たしかに、ご本人なら、血まみれのプディングはお懐かしいでしょうな、たしか、あのプディングのレシピは我らしか知らないのですから……」

 ビクトリアは申し出を受けて、夕食にやってきた。
「良くおいで下さいました、ここにいる者どもは、グレンフォードの主だった者ども、ぜひビクトリア殿に、お目にかかりたいと集まりました。」

「感謝の意味も込めて、グレンフォード一族の歓待をお受けしてください、ただこのような状況ですので、豪華な食事とはいきませんが。」

「お気持ち、痛み入る。」

 そして、問題の物が出てきた。
 ビクトリアは懐かしかった、このプディングは、トレディアを出てから食べていないのだ。
 自分で作ろうかとも思ったが、何となく料理をする気にならなかったのが、理由ではある。

 うまそうに食べて、思わず感想を漏らした。
「懐かしい、昔は良く食べた、肉のローストの下においての焼き具合が絶妙……ソーセージが良く合う。」

 血まみれのプディングというのは、テラのヨークシャー・プディングの原型ともいえるドリッピング・プディングに近い。
 ビクトリアの頃には、ソーセージとともに、食べるものだった。

 居並ぶグレンフォード一族の面々は確信した。
 ビクトリア・グレンフォード様と会食しているのだと……
 バーナード・グレンフォードが代表して云った。

「ビクトリア殿、我らはビクトリア殿を一族と思い、いつでもビクトリア殿を歓迎いたします。」
 その時、ビクトリアの横に、初代グレンフォードが立ち、跪いたのがグレンフォードの面々には、はっきりとみえた。

 以来、ビクトリアはトレディアに良く滞在することになる。
 ヴィーナスがはっきりと、グレンフォード侯爵に対して、ビクトリア・グレンフォード本人と云ったのが、表向きの決め手ではあるが、この会食でグレンフォード一族は、ビクトリアがだれかを知ったのだ。

 西部辺境諸侯領も収まり、グレンフォードは公爵になり、ギッシュ家もホラズムの伯爵領を返還され、特別にダニエラの功績が認められ、加増され侯爵になった。
 そしてトレディアの領地、これは男爵領なのだが、ヴィーナスへ献上となったが……

「ビクトリア様、私に男爵領を預けると?」
「そうだ、この新しく成立した、アッタル騎士団領にお前は必要だ。」
「グレンフォード公爵は、私と同じで戦うことしか知らぬ、サリーがヴィーナス様にお前を勧めたのだ。」

 ポッと赤くなったダニエラに、ビクトリアは云った、
「バロネス・ダニエラ・ギッシュ、女官に任命、即日に退官して、ハウスキーパー付の事務官に採用される。」
「これが任命証だ。なお、アッタル騎士団領事務官も兼務とする。」

 これで退官しても、女官だった事で、ダニエラもヴィーナスの保護が掛かる。
「さて、いくか、サリーやアリスへも、赴任の挨拶をしなければなるまい。」

 ビクトリアの言葉に、ダニエラは嬉しそうに頷いた。

    第五章 FIN
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