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第五章 ビクトリアの物語 西部辺境諸侯領平定戦

08 ダニエラ

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 ビクトリアの脳裏に、一人の女が浮かび上がった。
 「そうだ!あの女だ!」

 ダニエラはギッシュ伯爵家で、両親たちとくつろいでいた。
「それでサリーさんはお変わりなく?」
 と、伯爵夫人が聞いています。

「相変わらずお美しくて……サリー様より美しい方っているのかしら……噂ではアナスタシア皇女も、大層お美しいと聞いてはいますが……」

「そうだな、私もあの方より美しい方など想像出来んな。」
 伯爵も同意しています。
 やっとトレディアの町でも、平和な会話が交わされている。

 とにかく、トレディアの人々は、戦勝をささやかに祝っている。
 その中に、ギッシュ伯爵家も混じっている訳で、
「ダニエラ、よくやってくれた、グレンフォードにも借りを返せた、私もこんな怪我などしなければ戦えたのだが……」

 伯爵は狩りの時の怪我で、右足が不自由になっていた。
 この恩あるトレディア城の危機に、なにも出来ないのを悔んでいたのだが、ダニエラが、自ら働くといってくれたのだ。
 そこでギッシュ伯爵家としても、グレンフォードに対して、顔向けが出来たというわけである。

 久しぶりの家族団欒のギッシュ伯爵家に、グレンフォード侯爵がやってきた。
 そして、
「すまぬな、ダニエラは良くやってくれたのに、今少し働いてくれないか?」

「娘になにをせよと?」
「ビクトリア殿に仕えてくれぬか。」

「グレンフォード!それは出来ぬ、ダニエラは女だぞ、ビクトリア殿に仕えるとは!」
「違う違う、ビクトリア殿はヴィーナス様の愛人、おいそれと、他の者を抱いたり抱かれたりはせぬ。」
「ではなにゆえか!」

「ビクトリア殿は、西部辺境地域の軍政を命じられている、しかしだれも近寄らない……何故かはわかるであろう。」
「赤毛の死神使い……恐怖の使い……」
「私も事務能力という点では自信がない、という自信はある。」

「しかしな……」
「ビクトリア殿の指名なのだ、ダニエラを副官にしたいといわれた。」
「難儀な話しだな。」
「すまぬ。」

 伯爵は執事を呼ぶと、
「ダニエラをここに呼んできてくれ。」
 しばらくしてダニエラがやってきた。

「お父様、御用とか?」
 伯爵は事の顛末を説明して、娘の気持ちで決めるつもりのようだ。

「いいわよ、私を見込んでくれたのでしょう。」
 あっさりと返事した娘に、
「相手は赤毛の死神使い……いいのか?」
「構わないわ、ビクトリア様って、サリー様のお友達ですから。」

 ビクトリアが見込んだ通り、ダニエラは素晴らしかった……
 トレディア城、および西部辺境領の軍政は、ダニエラの貢献のおかげか、見事な物だった。

「ビクトリア様、戦火のおかげで、食糧不足が懸念されます。」
「とくにこの度の戦いで、戸主が死亡している家では、家族の者を売るような家が出るでしょう、いかが成されますか?」

「何とか避けられるか?」
「反旗を翻した諸侯の領地にある、備蓄食糧を全て放出しても、予定の八割、どこからか、残りを調達しなければなりません。」

「しかし大陸全土で、食糧が不足すると予測がされています。そこで今年度は食糧を配給とし、海岸地方には魚が取れた場合は魚を配給、腐らないように、効率を最優先に考慮すると、予定の九割は何とか出来ます。」

「さらに野草など、いままで食糧としては、顧みられなかった物の中でも、なんとか食糧の代用に出来る物があり、有効活用すれば九割八分は行けます、しかしその為には、かなりおいしくない食事となりますが。」

「うまいまずいはいわせておけ、一家離散などは、決して起こしてはならない、皆で少しばかり空腹を我慢すれば、良い話しなのだろう?」
「そう思います。」
「では実行してもらおう。」

 ビクトリア様……人々に対して思いやりがあるのに……損をしていますね。
 心の中で、そう思ったダニエラであった、そしてこうも思っていた。
 ビクトリア様って、グレンフォード侯爵にどこか似ている……

 だれもが、恐れ近づかないこの女傭兵に、ダニエラは親近感を抱くのだ。
 サリーに抱くような、姉を慕うような感覚ではなく、言葉は悪いが、仕事仲間に持つ親近感といえば良いのか……
 そう大先輩に対して抱く、憧れのような親近感といえばいいのだろう。
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