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第五章 ビクトリアの物語 西部辺境諸侯領平定戦
06 アリスの戦い
しおりを挟む「アリスはどうしている?」
「いつもの通り、はしゃいでいるわ。」
と、サリーが答えた。
そう、アリスにとっては、このような戦いなど、何ほどの事も無い。
アリスと小雪の力がどれほどなのかは、本人たち以外は、ヴィーナスしか知らないだろう……
「ところで順調なの?」
「拍子抜けするほど順調だ、イワンは有能だ、そろそろ城外の敵へも、状況が伝わるころだろう。」
「籠城もそろそろ終わり、ホラズム王国軍も、明後日には敵の背後の地点に進出する。」
「明日一日、グレンフォードに攻勢に出てもらう、ホラズム軍は、軍と呼ぶには錬度が低い、うっかりすると敵に気付かれるからな。」
「そこでビクトリア司令官が、トレディアで一暴れする訳ね。」
「まあな、しかし敵がいなくなりそうだな。」
「貴女の魔弾も打ち込んだら?」
「あれではかなりの敵が逃げおおせる、私は殲滅を意図している。」
「あるじ殿は、ぐうの音も出ないほど、叩いて来いとお望みである、それに今回は死神をだす。」
さすがに、サリーが蒼ざめた。
「本気?」
「出し惜しみはせぬ。」
死神とは、ヴィーナスが繰り出す地獄の魔法……
人という種族が、太古から普遍的に持っている、恐怖を具体化したもの。
それに出会うと、生きとし生きるものに明日はない。
過去、幾度となくエラムの大地に呼び出され、おぞましい死をまきちらした魔物、北の蛮族相手に放たれたそれは、万余の死体の山をつくり出した。
それも恐怖に歪んだ死体、半分ほど腐り溶けた姿で……恐怖と絶望……
それも生きながら腐って死んでいく……
ビクトリアは、それを出すという……
ヴィーナスの愛人の中で、死神を出せるものは二人だけ、小雪とビクトリア……
精神的にタフでなければ、発動した者もただでは済まない。
この恐怖に対面しても、動じない胆力が必要なのだ……
ビクトリアは間違いなしに、アリスは使えると確信はしている。
そんな話しをしていると、爆発音が連続的に聞こえ、兵士たちが南東の城壁付近に集まり始めた。
グレンフォードが陣頭指揮をとり、盛んに反撃しているが、爆発音は止まらない、ついに敵が弱点を探し出したようだ。
「どうやらビクトリア殿のいっていた、城の弱点に気付いたようです、魔法士の集団で爆裂を集中しています。」
何事かとアリスがやってきて、状況を把握したのか、
「あのあたりの丘を、えぐればいいのでしょう?」
と、指差して……云ったがすぐに、巨大な魔力を発動、丘が窪地になってしまう……
「アリスさん、限度というものがありますよ。」
とサリーがたしなめるが、アリスは、
「お姉さまに逆らうなんて、息を吸うのも許せない!」
どうやらアリスにとって、ヴィーナスに逆らう者は敵、それ以外の何物でもないようで、この辺りは小雪と良く似ている。
敵は殲滅する相手、ある意味、非常に判り良いシンプルな考えである。
有機体アンドロイドとして製造されたアリス……
純粋培養されたような所が痛々しい……
慌ててダニエラが走ってきて、
「アリス様、お力はもっと違う場所でお使い下さい。」
と、云います。
「でも、敵ですから、禍根は断たねば!」
「敵でも人なのですよ、このトレディア城を守るためとはいえ、人が死ぬ時は、少しぐらい敬意を表しても損はないですよ!」
「でも……お姉さまは……」
「ヴィーナス様はきっと悲しまれます、心ではつらい思いで戦われているのでしょう、決して虫を殺すように、殺しているのではないと思います。」
ダニエラか……いい女だ……
しかし戦には向かない……
ビクトリアは口を開いた、
「アリスが正しい、負ければ何をいっても戯言に過ぎぬ、戦いとは非情な物、能書きとは勝者に許される特権、人の死を悼むなら、戦場に出ない事だ。」
「必要なのは狂戦士、血に狂う者ども、ダニエラ、ヴィーナス様は戦いの最中には、何も考えておられない、人の死を悼むのは、戦場から引き揚げてからだ。」
歴戦の戦士、ビクトリアはいい放った。
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