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第三章 アメリアの物語 特別急行 氷結の魔女号

01 見習い動力魔法使い

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【第一短編集 第三章 口上】

 大陸馬車鉄道の見習い動力魔法使いジューンは、初めて憧れの『特別急行 氷結の魔女号』乗務を命じられた。

 しかしそれは臨時運行、パリス連合王国の寵妃アメリアが、商業施設団を率いて、ホッパリアへ向かうために乗りこんできたのだ。
 絶対に遅延が許されないのに、山岳区間で雨風が激しくなり、動力輪は空転……その時、寵妃アメリアはある決意をするが……

     * * * * *

 大陸馬車鉄道の見習い動力魔法使いのジューンは、その日、上司であるパリスステーションの駅長、ルートピッヒより、呼び出しを受けました。

 動力魔法使いというのは、惑星エラムの世界の中で、ただ一つの動力機関、圧縮空気エンジンを動かす事の出来る、魔法使いの事。

 惑星エラムでは魔法動力といわれ、これを動かす事の出来るのは、エラムの至高の存在である黒の巫女、ヴィーナスが設立した、魔法学校の動力魔法課程の卒業生だけ。

 この魔法学校は女学校で、基本的にヴィーナスの女官だけが通える学校。
 神殿都市シビルの、ヴィーナスのハレムの中にあります。

 一応女奴隷として、購入される形になりますが、入学と同時に購入された代金を、供託金とすれば卒業と同時に、自身を解放できることになっています。

 ただこの場合、女官に支払われる給料はなく、女官補としての労働が学費、食費、家賃などとの相殺となり、放課後から、女官補としての仕事をすることになります。

 つまりタダで、魔法学校に通えるシステムになっているのです。

 本来女官というのは、容姿端麗が最低条件ではありますが、魔法学校だけは、その才能が認められれば、容姿端麗の条件は、かなり緩和されることになっています。

 ジューンのように、すこし可愛いい程度でも、入学魔法テストに合格すれば、道は開かれるのです。

 とてつもない才能があれば、さらに条件は緩和され、とても可哀想な娘でも、何ら問題はないし、その場合、遺伝子上の許される範囲内で、綺麗になれる。

 つまりヴィーナスの女官で在る以上は、美女でなければならない。

 惑星エラムは女の立場は非常に弱く、保護者により、売買されることも許容される世界。
 その様な世界でも、ヴィーナスの女官となれば話は別、誇り高い騎士団員といえど、それなりの敬意を表します。
 それは女官退官後でも、続く事になるのです。

 したがって、ヴィーナス直属の実業女学校卒業生で、女官に成らなかった者でも、その知識により、女一人でも生きていく道が開かれています。

 ヴィーナスの女官の退官者には、アンクレット、つまり足枷が贈られることになっています。
 彼女たちはこれを右足首につける、つまり独身、恋人募集中という意味で、もし婚姻すれば左足首、つまり所有されている証となるのです。

 アンクレットをつけている女に対しては、ヴィーナスの保護がそれなりにあります。
 その為、皆そんなに無茶をしない。
 たとえ人さらいとしても、アンクレットをつけた女には手を出さない。

 過去にヴィーナスの女をさらった者が、どうなったかは裏の世界では有名な話。
 ヴィーナスは裏では、ルシファーと呼ばれている事が、全てを物語っています。
 
 もっとも惑星エラムの、広域治安機関である特別高等警察が、黙っているはずは無いのですが。
 この治安警察は、裏社会に対しては容赦がないことで有名なのです。
 
 勿論、ジューンもこれ見よがしに、右足首に付けています。
 すれ違う娘の。羨望の眼差しが心地よいからです。

 先ごろ、五年の課程を何とかこなして、かなり下の方ではあるが、卒業もできました。
 念願の大陸馬車鉄道の、動力魔法使いになれたのです。

 見習いではあるが、孤児であるジューンとしては感無量、ただ残念なのは、ヴィーナスの寵妃にはなれなかった事……
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