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第六十八章 『天候予定表』は雨

テントの一日 其の一

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 ……クインク様なの?……

 目の前の黒髪の少女に、ライラはその昔、母が云っていた言葉を思い出したのです。

 ライラの母は、その美貌ゆえにクインク神殿に仕え、巫女をしていたことがあります。
 あるとき大事な食器を割ってしまい、ユニに落とされ、農園に追放されたのです。

 農園支配人は、ライラの母の美貌を引き継ぐ、『奴隷』を繁殖させたいと考え、母親を出産教会に出向かせ、『夜の奴隷』だけの子として、ライラを出産させたのです。

「クインク様って黒髪なのよ、私たちと違い小柄でね、とても綺麗なの」
 
 母は昔を懐かしむように、ライラにクインクのことをよく話してくれました。

「あら、もう朝なのね、二日酔いかしら、頭が痛いわ」
 美子さん、目が覚めたようです、ちらっと外の様子を見たようで、
「雨風がひどくなっているようね、今日はここで一泊するしかないわね」
 と、暢気な事を言っています。

「ティアマト様、もうお目覚めですか?」
 ライラが声をかけると、
「貴女は寝れたの?足はどうなの?トイレは大丈夫でしたか?」

「余り寝れなくて……でも足のほうは動きます」
「歩ける?」
 ライラは恐る恐る立ってみました。

 少し痛みがありますが、何とか立てるようです。
 そして歩いてみました。

「まだ足を引きずるみたいね、少し痛いでしょう?」
「はい」
「なんとかトイレは行けそうですね、オムツをはずしなさい」

 ライラはオムツを自ら外します。
 そして、
「ティアマト様、身を清めたいので、外に出ても良いでしょうか?」
 と言ったのですが、
「何を言っているの!外は暴風雨なのよ!」
「でも、汚物で……」
 
「そうね……テントヘルプ起動、シャワーまたは浴槽などは可能か?」
「浄水装置を利用する、簡易なシャワー機能がありますが、通販カタログにある浴槽も設置できます」

「超小型核融合電池が、設置されているので可能です、出入り口に、設置することになりますので、この間の出入りは天井からになりますのでご了承ください」

「時間をかければ、大気中の水分を集めて、水を確保できますが、幸い外は暴風雨ですので、これを集水して使用してもよろしいでしょうか?」
「衛生状態はどうなっているか?」

「濾過フィルターで十分と判断できます、時間がかかりますが、沸騰滅菌も可能です」
「排水はどうなるの?」

「今のところ、排水ホースを出入り口にある、銃眼兼用の穴に接続していただきます」
 設定できるのは、通販カタログにある、極めて簡単なエアー式ビニール浴槽らしいのですが、ポンプでふくらますわけです。

「まあいいわ、ライラさん、とりあえずシャワーを浴びていてね」
「シャワーを用意して、雨水を濾過フィルターで通して、温水でお願い、後で簡易浴槽を設定するわ」
 しばらくして、
「用意できました、組み立て式、簡易防水カーテンの設置をお願いします」
 
「とりあえずシャワーを浴びてね、シャワーってわかる?裸になってお湯を浴びるの、裸になってこちらに来なさい」
「そうそう、これを押してね、もう一回押せば止まるわ、どう、湯温はこれでいい?後でお風呂に入れてあげるわ」

「とりあえず体を洗ってね、あったまったら声をかけてね」
「それからまだ歩きにくいでしょうから、これを使いなさい」
 折り畳み式の自立杖を渡されたライラ。
 とにかく言われたとおりにします。

 その間に、
「ペルペトゥアさん、朝ですよ、起きなさい」
 と、ペルペトゥアに声をかけ、
 二人でビニール浴槽を膨らましています。

 ペルペトゥアさん、何をしているのか理解できないようです。

 ライラさんが、「ティアマト様、身を清めました」と声をかけてきました。
「ちょうど湯船ができたわ」
 
 今度も美子さんが指示しています、ペルペトゥアさんもそれを聞いています。

 まず湯船にはいり、体と髪を洗い、そのままシャワーで湯船を軽く洗います。
 そして肩まで湯を張るのです、そして十分あったまったら湯を抜くわけです。

 湯上りのライラに、バスタオルとバスローブを渡しています。

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