上 下
40 / 108
第六十六章 アスラの末裔

貴女はクインク……なのか?

しおりを挟む

「親切にしていただき、ありがとうございます」

 美子さんの返事に、振り返ったペルペトゥアは唖然としました。
 その少女の髪は黒髪だったからです。

「……その髪は染めているのか?だったらすぐにやめろ、不敬に当たる……」

「この髪は、父母からいただいたものですが、いけませんか?」

「……貴女はクインク……なのか?」

「……」
 少女はなにも答えなかった。
 
 ……この方はクインク様ではないのか?
 黒髪はクインク様の象徴……しかし、なぜ……
 いや、聞くまい、なにか理由があるのだろう……

「分かった、何も聞くまい、人それぞれに、言いたくないことがあるだろうから」
「しかし黒髪はやめたほうがいい、鬘でもかぶったらどうか?」

「鬘ですか?そうですね、たしか持っていましたね」

 少女は持っていたかばんの中から、ストロベリーブロンドの鬘を取り出しました。
「おしゃれしたいので、いつも持っています」

 ……かばんの中に?
 最初に手を入れたときには、空に見えたのだが……

「とにかく食事をしよう、そうそう、明日にはここを引き払うので、荷物はほとんど処分してしまっている」
「寝具も一つしかないが、お前がつかえばいい、暖炉の前で寝れば家の中だ、なんとか寝れる」

 寝具といっても薄い毛布ですが、ペルペトゥアはそれを少女に譲ったのです。

「ありがとうございます」
 固いパンに、暖炉で炙り溶けたチーズをつけ、これまた焼き上げたソーセージとともに、質素な食事をとると、二人は寝たのです。

 ペルペトゥアが朝起きると、部屋の中は暖かく、 暖炉の火はまだ燃えていました。

「お早うございます、朝ご飯ができていますよ」
 昨日と同じ夕食が、用意されています。

 ……これは……

 ペルペトゥアが不思議そうな顔をしたとき、宿舎の外がなにやら騒がしくなります。
「門番、ここか?『夜』に門を通った、ペルペトゥアの宿舎は」

「間違いありゃしません、あいつ、どこからか子供を抱えてきて、『夜』に門を通ったので、私は止めようと思ったのですが、なんせ相手はペルペトゥア、通すしかなかったのでさぁ」

「奴は私に小青銅貨など与えたんで、何かしら後ろ暗いことで、子供をさらったに違いありませんぜ」

「ご苦労、衛兵、こいつを牢に放り込んで置け、賄賂をとり、門を通した罪だ」
「そんな!」
「うるさい奴だ、早く連れて行け!」

 宿舎の中ではペルペトゥアが、
「悪いがティアマト、送ってはいけなくなった」
「あいつは私と農園支配人を争った者だ」
「こうなったら、何が何でも私を亡き者とするはず」

「何とか私がここから逃がしてやる」
「お前も捕まったらただではすまないだろう、すまなかったな」

「ペルペトゥアさん、私を守ってくださるの?」
「其のつもりだ!」
「では一緒に逃げましょう、言いませんでしたが、私はちょっとばかり役に立ちますよ」

 少女は手に持っていた杖を二三回振り、ペルペトゥアに向かって
「ついてきなさい」と、命じたのです。

 ペルペトゥアは苦笑したが、このとき少女を包む、威厳のようなものを感じたのです。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。

町島航太
ファンタジー
 かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。  しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。  失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。  だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。

そよ風と蔑まれている心優しい風魔法使い~弱すぎる風魔法は植物にとって最高です。風の精霊達も彼にべったりのようです~

御峰。
ファンタジー
才能が全てと言われている世界で、両親を亡くしたハウは十歳にハズレ中のハズレ【極小風魔法】を開花した。 後見人の心優しい幼馴染のおじさんおばさんに迷惑をかけまいと仕事を見つけようとするが、弱い才能のため働く場所がなく、冒険者パーティーの荷物持ちになった。 二年間冒険者パーティーから蔑まれながら辛い環境でも感謝の気持ちを忘れず、頑張って働いてきた主人公は、ひょんなことからふくよかなおじさんとぶつかったことから、全てが一変することになる。 ――世界で一番優しい物語が今、始まる。 ・ファンタジーカップ参戦のための作品です。応援して頂けると嬉しいです。ぜひ作品のお気に入りと各話にコメントを頂けると大きな励みになります!

片翼を君にあげる③

☆リサーナ☆
ファンタジー
毎週金曜日更新です(^^) 主人公ツバサは18歳の誕生日1週間前に不思議な夢を見る。 それは10年前に別れた幼馴染み、レノアと「将来夢の配達人になって必ず会いに行く」と約束した時の夢。 だが、約束と異なり彼は現在ただの学生。 15歳の時父の死を境に、夢の配達人への夢を遮られてしまった為だ。 しかし、レノアの20歳の誕生日パーティーで二人は再会。 それをキッカケに本当の気持ちに目覚め、再びあの日の約束と自分の夢を叶える為に動き出す。 この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。 2022.9.2(金) 連載開始予定

2nd Life

seven
ファンタジー
急な事故に巻き込まれ、死んだ女の子が、2回目の人生を別の世界で生を受けるファンタジー! 目標はみんなが幸せになれる世界を夢見て色々な事に挑戦し影響を与えて行くそんなお話。 戦闘あり!頭脳戦あり! あざとい女の子のドタバタファンタジー! 会話多めで、進めて行きます! ゆっくりですが面白い作品にするので感想等どしどしお願いします。 マンガみたいな感覚で妄想しなが読んでくれるとありがたいです。 極力読みやすく文字少なめで作成してますので、文字が苦手な方も入りやすいと思います。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

オタクな母娘が異世界転生しちゃいました

yanako
ファンタジー
中学生のオタクな娘とアラフィフオタク母が異世界転生しちゃいました。 二人合わせて読んだ異世界転生小説は一体何冊なのか!転生しちゃった世界は一体どの話なのか! ごく普通の一般日本人が転生したら、どうなる?どうする?

スキル「糸」を手に入れた転生者。糸をバカにする奴は全員ぶっ飛ばす

Gai
ファンタジー
人を助けた代わりにバイクに轢かれた男、工藤 英二 その魂は異世界へと送られ、第二の人生を送ることになった。 侯爵家の三男として生まれ、順風満帆な人生を過ごせる……とは限らない。 裕福な家庭に生まれたとしても、生きていいく中で面倒な壁とぶつかることはある。 そこで先天性スキル、糸を手に入れた。 だが、その糸はただの糸ではなく、英二が生きていく上で大いに役立つスキルとなる。 「おいおい、あんまり糸を嘗めるんじゃねぇぞ」 少々強気な性格を崩さず、英二は己が生きたい道を行く。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

処理中です...