惑星エラムより愛をこめて 第二部 大和撫子編 【ノーマル版】

第十九章 娼妓解放特別規則

我妹子(わぎもこ)ってなんなのさ

　足をねんざした婦人士官さん、しゃがめないのでは？
　どうして用を済ますの？

　皆さんと目を合わせました……

　結局、物凄く恥ずかしがりましたが、背に腹は代えられず、私がこの婦人士官さんを抱えこんで、子供に用をさせるように……

　半分泣きそうな顔をしていましたね、すこしサドっ気が出そうな私でした。

　この後が大変でした。
　私の背中で婦人士官さんが、「もう、お嫁にいけない……」とか、「どうしよう……」とか、ええい鬱陶しい。

　気持ちはわかりますが帝国軍人でしょう、操を穢されたわけではないし、トイレを見られたぐらいで、何をめそめそと……
　誰でも入院したら、経験するでしょうが！

「見たのは私だけ、気に病むことはないでしょう？」
　声をかけたのが敗因でした。

「そうですね、見たのは吉川様だけですよね……」
「……」
　嫌ーな予感が背中に発生します。
　これはチトまずい事になるのでは……

「吉川様……責任とって下さいね、見たのですから……」
「でも不可抗力ではないのですか？それでも私が悪いのですか？」

「そうです、こんなに恥ずかしい姿を見られたのですから、手籠めにされたような物、私はもう吉川様について行くしかありません！」
「でも、私は女ですよ？」

「吉川様はアメリカの方でしたね、日本では我妹子(わぎもこ)は法的に認められています」

　我妹子(わぎもこ)？何ですか。
　万葉集では、わが妻という意味ですが……

　しかし雰囲気的にまずい、非常にまずい……訳もなく冷や汗が出てきました。
　私はあわててエールさんを、頭の中で呼び出しました。

「あれ、ミコ様はご存知と思っていましたが……」とエールさんが云いました。
「御存じではありません！」

　説明によると、なんでも昭和の大恐慌の時、娘の身売りが多発し、社会問題になったそうです。
　その娘さんたちを、ボランティアで買い戻す運動が盛んになりました。
　つまり身請けですが、苦界に沈むより、お妾さんの方がましという理由です。

　この時、野郎だけでは金子もお大尽も足りなくなり、女性が身請けも出来るように、法的に整備されたようです。
　これがそのまま、公娼制度と抱き合わせで、現代まで生き残っているのです。
　昭和６年の内務省令による、娼妓解放特別規則と呼ばれるものだそうです。

　通称我妹子(わぎもこ)制度。
　当時は、女性が女性を身請けする場合、侍女として身請けすることがほとんどでしたが、時代が代わり、変質していきます。

　今では女学校の『Ｓ』の風習が、徐々に認知されだした結果、我妹子(わぎもこ)は、この女学校の『Ｓ』と融合していきます。

　約８０年の歳月の結果、堂々と百合が認知されるようになっています。
　ただしです、娼妓解放特別規則といわれるように、あくまでも身請けなのです。
　建前上は娼婦さんが対象なのです、つまり、証文が必要となります。

　しかもホイホイと我妹子(わぎもこ)さんを、持てるわけではありません。
　我妹子(わぎもこ)さん身請けした場合、身請け女性は『姉』になります。
　この『姉』は、夫のような責任が発生するそうです。

　その上かなりの制限もあります。
　『姉』に当たる者は独身であること、つまり夫持ちが我妹子(わぎもこ)を持つと、結局は夫の側室になってしまい、我妹子(わぎもこ)の人権が守られない……

　変な理由です、我妹子(わぎもこ)本人の意思が、確認されなければなりませんが、それでも形としては売買婚、人権の話しが、どこをつっつけば出るのでしょうね。

「日本独自の制度ではあります、しかしアメリカやヨーロッパでも、同性婚は認められるようになってきています、この世界の流れでしょう」
　とエールさんが云います。

　エールさん、なんで云ってくれなかったのですか？
「当たり前のことですから……計算の対象にもあたりませんでした」
　そうなのですか……

「当初我妹子(わぎもこ)は、娼妓が許される年齢、十八歳と同じでしたが、今では一つの婚姻形態として、結婚出来る年齢からとなっています」
　道理で智子さんの時、鈴木順五郎さんが証文と云ったわけです。

　で背中の方に、
「とにかく良く考えて、たしか我妹子(わぎもこ)には親権者の同意が必要でしょう」
「ご両親に事態を説明して、それからのお話ということで……」

「親権者の同意があればいいのですね」
　まぁ、そうですね、大事な娘さん、承諾なんてするわけないし……と、思いますが……