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第三十八章 日本の決断
難民の圧力
しおりを挟む十二月の半ば、私は久しぶりに、オディール女学館の学園生活をまったりと過ごしています。
日本からも順調に、火星へ移住を始めだしています。
まだヨーロッパ、北米を優先しているので、小笠原ステーションも、外人さんたちで一杯ですが……
ただ日本海軍は日本海、及び東シナ海を中心に、臨戦態勢となっています。
米軍がついに、世界の警察の座を放棄したものですから、お友達がいなくなり、大陸からの難民?に、手を焼き始めているのです。
事実、海賊まがいの者たちが発生しています。
問答無用で発砲しているようですが、なんせべらぼうな数、海岸線も長い日本は、かなり苦しい状況です。
帝国陸軍も、かなりの師団を動員して、海岸線に展開していますが……
徐々に日本自体が疲弊し始めています。
戦火の日本というところです。
いま先進国として、無傷で残っている北半球の国は日本だけ、しかも国家として機能しています。
難民さんも押し寄せるわけです。
華宮公爵が、面会を申し出てきましたので、グランドプリンスホテル赤坂旧館で会う事にしました。
近衛師団のお迎え車がやってきて、物々しい護衛部隊に囲まれ、会見の場所につきますと、時の総理を中心になんと最高戦争指導会議の構成メンバーが並んでいます。
参謀総長、軍令部総長、国防大臣、それに外務大臣、しかも参謀次長、軍令部次長までいます、そしてやんごとなき方も……
「ナーキッドオーナーに、日本政府としての要請があります」
大体は判りますし、何とかしようと腹は固めています。
「日本は難民の圧力に、国力が疲弊しています」
「このままこの状況が続けば、あと一年が限度です」
「出来る限り、日本国民を火星に移住させていただけませんか」
そうでしょうね……
国家がつぶれるぐらいの圧力なのは理解できます。
大陸の生き残った人々が、押し寄せているのですから……
しかも受け入れるわけにはいかないのは確か……博愛で共に滅亡するわけにはいきません。
しかし兵隊さんは苦しいでしょうね、助けを求める人に発砲するのですから、しかも民間人に……
冷たいことをいいますが、いま押し寄せている人は、ほとんどは難民ではありません、難民なら済州島か、海南島を目指していただいています。
自らの国家が崩壊、その責任はこの方たちにもあるのです。
他国が繁栄しているからと、アリがたかるように、寄り付くのを私は許容いたしません。
したがって、私は発砲命令を是としています。
「ナーキッドは協定国に対して、義務を負っています、何故とはここでいいませんが、日本国のその配慮がここに来て力を発揮するとお考えください」
「当初日本国の移住人員は、五千万人と試算されていましたが、日本国籍を持つ有資格者全員、一億二千万人を対象とし、どうしてもテラに残りたい方もおられるでしょうから、小笠原シティは大拡張しましょう」
「小笠原ステーションは、本来日本の為に作ったもの、ヨーロッパ方面は、マン島ステーションが年明けには完成しますので、そちらで賄えるでしょう」
「幸いアイスランドのステーションも稼働していますので、小笠原ステーションを日本の為に使いましょう」
「さらに北米のデヴォン・ステーションも、少しは日本の為に能力を割けられると考えられます、毎月五百万人をマルスへ移住させる事ができます」
「とにかく今月は先発隊を移住させて、日本へ割り当てられているシティで、受け入れ準備に入ってください。ただ軍関係は、最後まで残って殿(しんがり)を務めていただきますが」
私のこの一言で、日本政府の方針は決まりました。
また国内のどの港にも、高速輸送船ナグルファル号の上陸シャトルを、入港させる許可も得ました。
とにかく移住計画を大急ぎでたててもらいます。
先発隊は総勢一万人ほど、各地の行政責任者たちです。
この人達は今月中に準備をして、来月には小笠原ステーションに向かいます。
東京湾の第一海保、第二海保、第六台場、長崎の端島、大阪湾の友ケ島が、小笠原ステーションに繋がっていますが、東京からは第六台場が一番便利でしょう。
その夜、私の代理として高倉雪乃さんが、私の言葉を読み上げました。
華宮洋子さんはまだ学生なので、発表を控えました。
高倉雪乃さん、チョーカーをつけての出演です。
ヨーロッパではナスターシャさんが着けて、マスコミに出ましたが、チョーカーが私の我妹子(わぎもこ)の証と、世間は認識していますので、ナーキッドの本気度がわかるでしょう。
日本は全面的に、マルス移住を決めたのです、ドイツ、カナダについで三番目です。
順調にいけば一年で六千万人ですが、高速輸送船ナグルファル号を動員しますので、一億二千万の内の有資格者は二年以内で運べるでしょう、でも目標は一年です。
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