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第三十七章 母なる大地

ニューヨークハウスの閉鎖

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 私が宇宙でウロウロしている頃、テラではナーキッドに対する雲行きが、悪くなりつつあります。
 アメリカではホットスプリング・ステーションからどんどんと人が出て行きます。
 中産階級、つまり良きアメリカの人々が出て行くのです。

 もともとアメリカは開拓の国、火星を開拓するという意気込みが、この人々を突き動かしているようです。
 このおかげでアメリカの親ナーキッド派、は目に見えて減少しているのです。

 お隣りのカナダでは、政府の要請で私たちはステーションを建設中です。
 カナダ政府は太っ腹です、クイーンエリザベス諸島のデヴォン島をナーキッドに提供すると云ってきたのです。
 このデヴォン島は100年間の租借契約にカナダ政府は調印してくれました。
 カナダ政府は国家として移住計画を立てています。

 デヴォン島は世界一の無人島といわれており、カナダの北極圏に浮かぶ、面積約55,000キロ平米の世界第27位の島です、九州より三割ほど大きいかも……

 冬はマイナス50度になる島ですが、別にかまいませんよ、トロントに置いた事務所から、連絡シャトルを走らせますから、それに大規模な飛行場も作りましたからね。

 本当に大規模ですよ、生活施設は地下シェルターになっており、地上部分は飛行機の格納庫だけです。
 しかもここには、ルナ・ナイト・シティへの、専用連絡宇宙船も着陸できます。
 500メートルクラスはあろうかという宇宙船ですが、楽々と着陸できます。

 ルナ・ナイト・シティからは、フォボスステーションに惑星鉄道の支線が走っていますので、ピストン輸送すれば、今の月800万人体制は1000万人体制に向上させる事ができます。
 勿論フォボスステーションへの、直通連絡列車も走っています。

 このデヴォン・ステーションは防衛体制も万全、ナノマシンでの防御以外にも、かなり強力なバリアなども完備しています。

 アメリカでは、セレスティアさんの危惧したとおり、人が去り国力低下が顕著です。
 その原因はナーキッドにある、などとの意見が議会で台頭してきますが、止める者がいなくなってきています。

 中産階級が去り、クッションを亡くしたアメリカ、それでも上流階級は、ナーキッドを擁護していますが、彼らも台頭するナショナリズムに嫌気がさしてきたのか、生活の本拠を火星の方に置き始めています。
 つまり移住してアメリカに単身赴任、そのようなスタイルを取り始めています。


 それがさらにナショナリズムに火をつけ、残っていた上流階級、それにアメリカに骨を埋めようとしていた中産階級も、見切りをつけ始めます。
 アメリカは変質していきました。

 ニューヨークは、治安がさらに悪化し始めています、そしてナーキッドの事務所が、焼き打ちにあう事態になりました。
 もちろん警備は万全ですが、大事な清女さんたちに怪我でもさせるわけにはいきません。

「ジョンさん、デヴォン・ステーションももうすぐ完成しますので、ニューヨークハウスも潮時かと思います、引き払いなさい」
「ケンブリッジ・オフィスも口惜しいですが、閉鎖します」
 次の日、ナーキッドのニューヨークハウスは閉鎖されました。

 それからが大変でした、危機感を持ったのでしょうね。
 大量の人々がホットスプリング・コロニーへ、殺到し始めました。
「どうしたのですか!」
 と、アリシアさんがてんてこ舞い……

 ニューヨークハウスの閉鎖が、ナーキッドのアメリカからの撤退が始まった、そう人々には思えたようです。
 初めて足元を見つめた時、核戦争の結果の深刻さに、きずいたのでしょう。

 ジョンさんがテレビに出演して、ホットスプリング・コロニーは健在で、ナーキッドは機能を集約しただけ、と云っていますが、火に油、疑心暗鬼を呼び起こすだけです。
 まあ確信犯ではありますが。

 もっともこの騒動は、カナダのデヴォン・ステーションが完成、稼働を始めたと発表したので、落ち着きを取り戻しましたが、確実にアメリカは人口減少が起こっています。

 そしてさらに親ナーキッド派は減り、相対的に反ナーキッド派は力を増し、ついに、ナーキッド協定から離脱する動きが出始めました。

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