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第三十二章 ココさんのお友達

糸引き娘

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 私がすこし中庭より離れたベンチで休憩していると、糸女(いとじょ)さんがやってきます。
「あの……ミコ様……」
「踏ん切りはつけなくてもいいです!」

「……いえ、何としても……私を代価としていただきます、私たちは、忠誠を誓うことは出来ますが、それでは不安が……」
「私は口に出した事は、何としても守りますよ」
「わかっていますが、しかしミコ様を知らない者は、不安をぬぐい切れません、弱い者は臆病なのです」

「例えればどういう事ですか?」
「私たちを集めて消去するとか……人は私たちを忌み嫌っています、ミコ様も人、疑う者も多いのです」

「それが貴女を代価として受けとめる事で、不安が解消されるのですか?今一つ理解できませんが……」
「自分たちの仲間が、ミコ様の女になれば、女の為にそう無茶はしない……」

 なんか腹立たしい話しです。

「ご不興とは思いますが、弱い者はそうして生き抜いてきたのです、卑屈と云われようが、生まれた以上は生きなければならない、そうではありませんか?」

 ……

「嘲りを受けても、それしか道がなければ、悔しくても選択の余地はなく、いつしか自らもそれが当然と思ってしまいます」
「なるほど強くなれば良いのでしょうが、努力しても強くなれない者もいるのです」

 ……たしかにそうですね……

「糸女(いとじょ)さん、貴女はなぜ、その弱い者に肩入れするのですか、貴女は弱い者でもないでしょう?」

「弱い者にも優しさは持ち合わせています、臆病でびくびくしていますが、中には最後のパンを共に分けてくれる者もいるのです、多くは善良なのです、そのようなささやかな優しさに触れると、何とかしてあげなくてはと……」

「私には綺麗事にしか聞こえません、それは例えれば一隅を照らす明かりを見て、明かりに浮かびあがる者を、救おうとしているだけ」

「平時にはそれもいいでしょう、しかし今は種族が生きるか死ぬかの瀬戸際です」
「幸運に照らされる者よりは、自ら努力する者が生き残れるのです」
「そしてその上で、最後のパンを分けれる、心強き者が必要なのです」

「貴女は照らされていない場所に、うずくまる者たちにもささやかな優しさが無いとは、云わないでしょう?」
「たとえ極悪愚劣な人間としても、何らかの優しはある物です」

「貴女がいった、努力しても強くなれない者もいる、その事はある意味において私も認めます」
「努力とは、成果が見えない場合の方が多いのです、しかし努力することにより、悪くはならないとは思いませんか」

「見えない努力が、階段を転げ落ちるのを支えている場合も多いのです、見えない努力の第一は忍耐でしょう」
「明日が見えない日々を、じっと膝を抱えて耐えているのを、努力の第一とすべきと考えています」

「これはつらい事です、これが出来る者は、弱き者ではありえません、心強き者、称賛に値する者、貴女はその様な心強き者を弱き者として、そのとんでもなく立派な行為をささやかと云う」

「なお且つその行為一つで、見える範囲の者を救おうとする、なにか公平の天秤が傾いていませんか……」
「いや、失礼しました、貴女はそれでいいのですから……千里を照らし、明日を作り上げるのは、どうやら私の仕事のようですから」

 ……どうしたのでしょうね、何をムキになっているのか、糸女(いとじょ)さんの思いは、崇高なのですから……

 ……そう、縁なのです、横一線、上も下も同じなら、縁を選択基準とすべきなのですから……

「縁があるのですね、いいでしょう、貴女を私の采女とします」
「取りあえず、この指輪をさしあげましょう、この先少しゆとりが出たら、愛し合いましょう、献上品、確かに受け取りました」

「糸引き娘、老婆になるのは許しませんから、それから言っときますが、私が命じればどのような恥ずべきこともしてもらいますよ」

「御約束いたします」
 突然ひれ伏して、私の靴に口づけをしました。
 阿波の糸引き娘を、貰う事に決めました。

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