惑星エラムより愛をこめて 第三部 化野(あだしの)編 【ノーマル版】

第三十一章 女地獄なのよ

ボルバキア菌

　世界は大騒動になりました、失礼なことにルシファーと名付けるのですから……
　で、小惑星ルシファーの軌道が計算されました、かなりの確率で５６年後に衝突すると判りました。

　ここでユリウス五世聖下と、私との会談の結果が法王領から発表されました。
　シャルル枢機卿との話し合いにより、小惑星ルシファーは破壊することになったのです。

　九月最後の日、小惑星ルシファーは消えました。

　その頃、南アジアのベンガルあたりの破壊を逃れたスラム街で、女児ばかりが生まれている問題について、本当の原因が判明しました。
　当初、愚かな核戦争による放射能の影響と考えられていましたが……

　ボルバキア菌……しかもどうやら放射能の影響で突然変異、人に寄生するものが発生しているようです。
　ゆゆしき事です。

　ボルバキアとは、昆虫などに寄生する細菌で、卵巣には感染し精子には存在できない。
　つまりボルバキアに感染したメスだけが、ボルバキアの子孫を残すことができる。

　したがって様々な方法で、宿主の性を操作することにより、子孫を残そうとする。

　現象として『オス殺し』、『メス化（性転換）』、『単為生殖』の三つが知られていますが、どうやらオス殺しのものが、突然変異したようです。
　一番厄介な奴かもしれません。
　結果的には種が絶滅するかも知れないのに、今日を生き残ろうとする奴ですから。

「いいではありませんか、丁度いい」
　マレーネさんが云ってのけますが、しかし男がいなくなれば、人は種族として残れません。

　調べた結果、マレーネさんがもっていた、アスラ族女性体の創った薬を服用すれば、感染を防止できるということですが、副作用があるそうです。

　つまりＹ染色体の力というか、卵子までたどり着く力が弱くなるのです。
　一旦飲めば、抗体が遺伝子の中に組み込まれます。

　女性にも副作用は起こります、つまり子宮までの道中がＹ染色体に優しくないということです。

　つまり、こちらでも女が多く生まれることになります。
　でも男がいなくなるよりは、ましでしょう。
　ヴァンパイア族も例外ではないと判明しました。

　ちなみにエラムの人間に対しては、なぜかボルバキア菌は感染しません。
　どうやらもともとエラム人は、遺伝子操作の結果生まれた人種なので、この抗体が組み込まれているようです。

　男はもし感染しても、服用すれば命は助かりますが、不妊になってしまいます。
　でも感染して飲まなければ、間違いなしに男は死ぬ事になります。

　女は感染しても何も起こりませんが、服用しなければ非服用の男と性交すれば、間違いなしに男は死にます。
　また男子を妊娠すれば、流産し命の危険があります。

　惑星エラムの性差の異常は、バンアレン帯の弱さと思っていましたが、この抗体が最大原因だったのです。

「ナノマシンで退治できませんか？」
　可能とのことですが、個別には出来ないとのことです。
　しかも宿主まで死んでしまう可能性があり、テラの昆虫類は、ある意味絶滅してし。
　昆虫がいなくなれば、生態系が維持できなくなるのは必須……

　国連の世界保健機構が、この事を発表しました。
　そして希望者には、この薬をナーキッドは無償で配布すると……

　ナーキッドはこの抗ボルバキア薬を、大量に製造を始めます。
　ナーキッドの社員には、これを服用することを義務として、拒否する者には仕方ないので、高額な退職金を支払うことにしました。

　火星に行くには、絶対に飲んでもらいます。
　抗体の無い者は行かせません、幸いナーキッドの社員には、拒否する者はほとんどありませんでしたが……

　当初協定各国でも、対応はまちまちですが、南インドの状況が判明し始めると、国民に配り始めました。
　ナーキッド協定以外の国には、国連の世界保健機構が配布していますが、サービアの国々は拒否しています。
　また戦争中の中国も拒否しています。

　概ね東アジアなど、男子が必要な国は拒否が多いようです。
　こればかりは各自の判断を尊重しています、結果は自身で受けとめていただくしかありません。

　しかし大量製造した抗ボルバキア薬も、持ちが悪く今回拒否されると、次の予定は無いと公表しておきました。
　後でくれ、というのは無理ということです。

　ナーキッドは緊急に、ネイサンさんが記者会見して、この事をはっきりと示しました。
　ここで拒否して次にくれと云っても、製造が間に合わないし無償供与は出来ないと……

　日本は国民全員に配布、飲む事になりました。
　なんといっても命が大事ということです。

　嫌でもテラはエラムのようになっていきます。
　あれほどテラを残そうとして、努力しているのに……