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第3部 邪神乱舞

【9章】105話 戦闘なのですが……

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「イルマタル様、ノースランド側と交渉してきましたが、はかばかしくありません」
「そうなの」
「どうやら我らの兵力が女ばかりと侮っているようで、指導者が耳を貸しません」

「指導者?」
「『骨なしのイーヴァル』と呼ばれる者で、非常に残酷な男です」
「女は全員慰み者にしてやると……」
「それだけ?」

 ツェルプスト男爵、非常に言いにくそうに、
「イルマタル様を嬲り者にしてやるので……その……」
「ほう、私を嬲り者にすると?」

「まあ、いいわ、『骨なしのイーヴァル』とか言ったわね、その言葉をそのまま返してあげましょうか」

 『バルディッシュ』を取り出しました。
 うちのドワーフ族の戦闘奴隷さんが使う戦斧、人間を両断出来るほどの威力です。
 そもそもドワーフ族の馬鹿力だから、使えるのですが、イルマタルさんは軽々と片手で振り回しています。

「さて、首でももらい受けにいきますか」
 『骨なしのイーヴァル』さんが天幕で踏ん反り返っているところへ、一人でのこのこ出かけるイルマタルさんです。

 ……ヴァイキングみたいな連中なのでしょうね、力を見せつけるには、首を一つ、いただきましょうかね……
 珍しく、怒っているようなイルマタルさんです。
 ……私を嬲り者にする?『骨なしのイーヴァル』を『首なしのイーヴァル』にしてくれるわよ!

「『骨なしのイーヴァル』ってのは、どいつ?」
「俺だ!」
「私はイルマタル、なんでも私を嬲り者にするとかほざいたようね、だから『躾』をしてあげようとやってきたのよ、感謝しなさい」
「俺に『躾』?笑わしてくれるじゃないか、俺がお前を『躾』てやるよ、なあ手前ら?」
 ゲラゲラという笑い声がおこります。

「いいわよ、できるならね、私の『躾』は痛いわよ、いや、痛くないか?なにせ『骨なしのイーヴァル』は『首なしのイーヴァル』になるのですからね」
「ほう?いうじゃねえか、ならよ、俺の『躾』は気持ちよいぜ、なにせ、俺のものは『デカくてよ、その上硬いからよ』」 
 再びゲラゲラという笑い声がおこります。

「楽しみね、じゃあ『首なしのイーヴァル』の前に、『玉なしのイーヴァル』にしてあげるわ♪」
「ごたごたいう間にかかってこんかい!」
 今回は超ガラが悪いイルマタルさんです。

 『骨なしのイーヴァル』は戦斧を振りかざし、突進してきます。
 しかしイルマタルは軽くこれを躱し、石突で股間を直撃します。
 イルマタルさんの『バルディッシュ』は、石突が鉄で覆われ、尚且つ尖っているので……
 玉どころか……

「これで『デカくてよ、硬い』物は約に立たなくなったわよね、私を嬲る?ふざけたことを言った以上は、その口も閉ざしてもらいましょうか」

 『バルディッシュ』を一閃、コロッと首が胴から離れたわけです。
 
 首を足蹴にしながら、
「次は誰?先ほど笑ったのは誰?文句のあるものはかかってきなさい!」

 静寂だけがあります。
 誰一人、声も立てないのです。

「では私に従うと思ってよいのですね?返事は!」

「我らはイルマタル様に従います……」
「では、誰か、ツェルプスト男爵を呼んできなさい。」 
「そうそう、この首の身内を呼んできなさい。」

「いません……『骨なしのイーヴァル』に身内はいません、攫ってきた妾がおりますが……」
「まぁ、とにかくその妾を呼んできなさい」

 ツェルプスト男爵がやってきますと、イルマタルさん、椅子に座りながら、血まみれの首を足蹴にしています。
「ツェルプスト男爵、終わりましたよ、ノースランドの指導部は私に従ってくれるそうです。」
 ツェルプスト男爵、震えあがっています。

 しばらくすると、『骨なしのイーヴァル』の妾が連れられてきました。

「この首、返してほしいか?」
 黙って首をふりました。

「汝は妾と聞いたが、これからどうするのか?」
「私はルネと申します、ノースランドの出身ではありません、フラン帝国の国境の町エスケルムの出身です。」
「では、そのエスケルムに戻りたのか?」
 ルネはここでも首をふりました。

「私が『骨なしのイーヴァル』に攫われたのは十三の時、その時、両親と兄は殺されました」
「もう帰る家はありませんし、エスケルムに戻っても、『骨なしのイーヴァル』の女にされていた以上、よくは云われないでしょう……」
 十三で女にされたの?やはりこの『骨なしのイーヴァル』、殺しておいてよかったようね。

「また『骨なしのイーヴァル』の妾であった以上、ノースランドにいれば殺されます、もう死ぬしかないかと……」
「ルネはいくつになる?」
「もう十九です……」
 十九の未亡人ですか……おいしそう?

「ルネ、貴女は戦利品ですから、私の奴隷とします。」

 ルネさん、すこし嬉しそうな顔をしましたね。
「ありがとうございます、精いっぱいお仕えいたします♪」

「ツェルプスト男爵、貴男がノースランドにおける私の代理人、このむさぃ男どもと交渉しなさい」
 そして、『むさい男たち』に向かって、
「ところで、貴男たち、食料などは足りないと思うけど、海で大規模に漁などしないか?」

「……この地の海は、時化てばかりの上に……沖合には巨大な海の魔物がうようよしており……」
「時化は何ともならぬが、海の魔物は払ってやれるぞ、そうだろう?ツェルプスト男爵」

「さようです、イルマタル様の『御髪』を一本、船に積めば、魔物は恐れて近づかないでしょうな」

「それは、本当ですか?」

「本当だ、しかしその目で見なければ信じられないだろうな……」
「イルマタル様、『魔物除け』として『御髪』を一本、この者たちにお授けして、一艘、海に出漁させてみては?」
「それは構わぬが……『女神奉賛協会』がなんというか……まあ、しかたないか……」

 イルマタルさん、自ら髪を一本抜き、それをツェルプスト男爵が恭しく、自らのハンカチで受け取り、折り畳み袋にいれています。

「ノースランドの方々、今、海は時化ているのか?」
「今日明日は大丈夫だが、時化ていないときは魔物が海上に出てくる……」
「船を一艘、出してもらおうか、私が乗船する」

 ツェルプスト男爵、案外に肝が据わっているようです。

「わかった、我らも乗船する」

 で、船を一艘出すことになりましたが、水夫がびびって集まりません。

「情けない!では我らが櫂をとろう」
 生き残っていたノースランドの指導者の一人、『眼中の蛇シグルド』が声をだしたのです。
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