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第2部 嵐の前の平穏な日々

【4章】47話 小ざかしい悪党は成敗してくれます。

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「ところでカノーヴァ子爵殿。貴領の農村の魔物除けだが、効果はいかがですか?あれは私の髪、私の一部、気になるのでね?」
「大変よく効いておりますな」

「そうですか、あれは先ほどもいいましたが、私の髪、どこにあるか分るのです」
「貴領の農村にあるはずの数がない、というより移動しているように感じるのです、だから聞いたのです」
「効力がなくて農村が壊滅したのかなってね、でもおかしいわね、なぜ移動しているのかしら?」

 私の問いかけに、顔が少しゆがんだように思えますね。

「お答えいただける物と、確信しているのですが?」

「魔物除けは……盗難に遭いまして……その……ただいま取り返すべく努力中なのです……」
 盗難?努力中?笑いそうになりました。

「王国軍に任せればいかがですか?」
「ラテラノ王との取り決めで、魔物除けを悪用すれば、厳罰に処分するわけですから、メンツにかけて捕まえるでしょう」
「泥棒さんの首は、確実に胴から離れますよ」
「それは……」
 子爵殿、顔色が蒼いように見えますが?

「そうですよ、ぜひおすすめします!」
「何なら、今すぐ伝書鳩便で知らせたらいかがですか?」
 ベンヴェヌータさん、絶妙なタイミング!やはり聡明ですね♪

 ベンヴェヌータさんに乗りましょうね♪
「ベンヴェヌータのいうとおり、今すぐに王に知らせれば、叱責もないと思いますよ」
「何といっても悪いのは盗賊、カノーヴァ子爵殿は、いささか管理責任を問われるだけ」
「といっても、農村の担当者が管理責任を問われるだけで、カノーヴァ子爵殿にはなんの責任もないはずですよ」
「さあ、今すぐ伝書鳩便を」

 エヴプラクシヤさんが、さらに追い込んでいます。
「イルマタル様、カノーヴァ子爵殿も領主なのですよ、そうそう国軍に頼るのは、体面もありましょう」

「そうですね、いわれるとおりですね、どうも私は気短でね」
「いっそのこと、イルマタル様が泥棒を処罰されるのはいかが?」

「いわれればそうですね、だんだん腹が立ってきました」
「私、あんまり怒ると、見境がなくなってしまいます、悪い癖です」
 カノーヴァ子爵の顔色がさらに蒼くなるのですよ♪

「この間なんて、無礼を働いた東方の蛮族の長を捕まえて、拷問したのよね」
「三日で死んでしまったわ、もっと頑張ってくれれば、楽しかったのにね」
「あの族長、泣いてわびていましたが、そんな事許すわけはないのですよね、だって拷問って楽しいじゃないの♪
「あぁ誰かなにかしないかしら、色々と試してみたいのに♪おっと失礼しました」
 カノーヴァ子爵、見ていて面白いですよ♪。

「イルマタル様、目出度い場所で少々無粋ですよ」
「それよりアーヴェの祝いに、その泥棒を捕まえてあげてください、ね、カノーヴァ子爵様」
「捕まえたら、イルマタル様のご自由になされればいいのですよ」
 こんどはベンヴェヌータさんが、追い込みをかけています。

「そうですね、なにかやる気が出てきました、実はね、とても素敵な案があるのよ、聞いてくれる?」
 案というのは、ルーマニアのヴラド3世をまねて、お尻から串刺しにして、さらすというのですよ。

 この後の私の案を聞いていたカノーヴァ子爵、いよいよ真っ青な顔になり、
「イルマタル様!貴女はこの私を侮辱するのか!」
「侮辱?心外な、私は魔物除けを泥棒した不届き者を、どうして懲らしめようか、話しているだけですよ?」
 
「それは……」
 もう少しですかね……この男、本当に小物、遠回しに煽っただけで、我を忘れかけていますね。

「そんなにお怒りになるなんて、まさかやましいことはないでしょうね、王国貴族たるカノーヴァ子爵殿ともあろう方が」

「まぁいいわ、ベンヴェヌータさん、直ぐに近くの国軍の駐屯地に出向き、伝書鳩便を飛ばしてくださる?」
「これで子爵の名誉は守られます、いいのですよ、王様へは、私が上手く申し上げてあげます、やましくないのですから♪」
 もう一押しですかね、おぉ、顔色が赤くなったり蒼くなったり、点滅信号のようになっています。

 それにしても正妻さんも第一妾さんも、私たちの遣り取りに何も云いません、ただ成り行きを見守っているだけです。

「ここから王国軍駐屯地は近いのですよね、伝書鳩便は私が送りましょう、カノーヴァ子爵殿の無実を晴らすためにね、少し待っていてください」
 さりげなく無実を晴らす、なんていいましたが、頭に血が上っているのでしょうね。

「そんな事、させるか!」
 飛びかかってくれたのですよ♪

 エヴプラクシヤさんの素早いこと、棒手裏剣を握って立ちふさがってくれます。
 そんな事しなくてもいいのにね、『不可侵の加護』って凄いのですからね、あれ、カノーヴァ子爵がうずくまっています。
 エヴプラクシヤさんにも『不可侵の加護』がかっているようですね。

 この屋敷の警備兵が飛びかかってきましたが、私たちが何をしなくても吹っ飛んでしまっています。

「無駄です、私は女神とも呼ばれているのですよ、これ以上の抵抗は、貴方たちの為にもなりませんよ」
「経緯はラテラノ王に、手紙でご報告申し上げます」
「その手紙に、貴方たちが処罰されないように嘆願しておきましょう、だから反抗はここまでにしなさい」
「だれか、急ぎ王国軍駐屯地に走り、責任者を呼んで来てください、この魔物除けを持っていけば、襲われることもないでしょう、私が呼んでいることも疑わないはずです」

 警備司令に私の髪を一本、ハンカチに包んで渡しました。
 このハンカチ、ラテラノ王の正妻、つまり王妃さんから送られたものです。
 当然、王国の紋章が刺繍されています。 

 今まだ十一時、馬を潰す勢いで走らせば、2時間ほどの所に王国軍駐屯地があるそうです。
 午後四時に、王国軍駐屯地の責任者が、息を切らせながらやって来ました。

 私は顛末を伝えますとともに、魔物除けの札の件、その場所が移動している件を伝えました。

 カノーヴァ子爵、魔物除けの札を、三大国以外の勢力へ貸し出していたのです、とても法外な値段でね。
 そして取り上げられた農村は、魔物によって甚大な被害を被っていたのです。

「でもアーヴェ・ヴェーナはどうなりますの?」
 ベンヴェヌータさんが心配そうに聞いてきました。

「妾の話はご破算です、カノーヴァ子爵からのアーヴェさんの代金、私が立て替えてあげます」
「ヴェーナ男爵は、その資金でお商売を始めればいい」
「なんならターニャ商会のように扱ってもいいですよ、それでいいでしょう?」
 
「ありがとう…ご…」
 アーヴェさん、言葉の途中から泣いていました。

 さて後は王国に任せましょう、ただ結果は知らせて欲しいと、国軍駐屯地の責任者に伝えておきました。
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