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シリーズ002

005 市場調査と別行動

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「未だに痛い……」
「おにぃ、なんでまたフィルと喧嘩したん?」
「泥水ぶっかけた火縄銃もん修理に出したから、さすがにあいつもブチ切れたんだよ」
 首都へと向かう為、再び三輪電気自動車を駆るユキ達。今回は四人旅な上に運転できる者が増えたので、ユキとカナタは今、同時に荷台へと乗ることができたのだ。その分総重量が増えて速度が落ちるかとも思ったのだが、あまり大差はなかった。
 上り坂が出た時は男手で押し上げ、運転とその間の護衛は女性陣が受け持つ。人数と共にできることが増えた為、全体的な移動速度に変わりが出なかったのだ。その代わり、荷物の増える復路は遅くなることを覚悟しなければならないだろうが。
「また一週間で帰らなきゃならないから、一泊位しかできないか」
「まあ、前回みたいなことにならなきゃ大丈夫だろう」
 荷台の端に腰掛けたまま、ブッチは周囲を警戒しながらそう告げた。



 そして『オルケ』から旅立って二日後のこと。首都近くの森に一度立ち寄り、三輪電気自動車を荷台ごと小さな洞窟内に隠した。以前盗賊に襲われた場所だが、他に適当な場所を見つけていないので、今回もまたここを利用することにしたのだ。
トラップはそのままやな。一応大丈夫みたいやけど……」
「近いうちに場所を変えた方がいいな。その辺は俺が調べとくよ」
 下手に情報屋を頼れば、それが盗賊にも流れる可能性がある。
 なので新しい隠れ家の調査は、情報屋の利用に慣れたブッチに任せた方が安全だろう。
「お願いします、ブッチさん」
「それにしても、もったいないわね……」
 初めておとずれるシャルロットから見ても、ここは隠れ家に丁度良いことが分かる。人目もなく、隠すのに便利な洞窟もあるのだ。できれば同じ条件で三輪電気自動車をはじめとした荷物を置ける場所があればいいのだが、簡単には見つからないだろう。
「ここにも火薬を隠し置いとってんけどな……」
「これもいずれ、処分しないとな」
 とはいえ、今回はこの火薬を持ち帰ることになるだろう。
 前回の盗賊騒ぎで作り置いた火薬の大半を使い、新しくできた分もあまり多くないまま水魔ケルピー討伐に挑んだのだ。別に戦争をするわけではないので量はいらないが、有事に備えて用意だけはしておかなければならない。
一先ひとまず帰るまでには、ここにある物は全部片付けるぞ。詰められるのは先に載せていくか」
 とは言うものの、荷物はそこまで多いわけじゃない。
 弾を銃口に突き詰める為の朔杖かるかを含めた火縄銃マッチロックの予備部品に、少しずつ余らせては入れ替えて貯めた保存食。ユキが試作し(て断念し)た水の濾過ろか装置に、カナタの悪戯いたずら道具等だ。予備の衣服や盗賊からの戦利品である武器や防具といった装備も少しは残っているが、大半はここに置かずに持ち帰るか売り払っている。
 前回ここに来た時に退治した盗賊達の装備は今回の首都入りで売り払う為、すでに入り口付近に固めて置いていた。
「おにぃ試作の濾過装置これどないするん?」
「そのまま捨ててくよ。どうせ中身は砂利と炭だけだ。どこでも手に入る」
「資源の無駄やなぁ……」
 言い返せないので、あきれて肩をすくめるカナタを引っぱたきたくてもできない。内心大人げない誘惑を振り切りつつも、ユキは最後に火縄銃マッチロックの入った包みを三輪電気自動車の荷台に仕舞い、小太刀を鞘に差した。



 入国手続きもつつがなく進み、先に換金しようと冒険者ギルドへと足を向けた。
 水魔ケルピーの核を換金することもそうだが、盗賊の装備は正規に販売するとなると、別の証明が必要となる。
 今までは鉄に溶かしてからフィルの工房におろすか、首都の裏通りにある武器屋に安く買い叩かれていた。諸々もろもろの経費を差し引いたとしても、それでも十分、黒字にはなるからだ。
 それに一般人が魔物に掛けられた懸賞金を受け取るとなると、手続きが冒険者のそれよりもかなりの手間が増えることになる。
 今回はブッチが手続きすることになるが、今後のことを考えると、冒険者として登録しておいた方がいいかもしれない。手数料や依頼達成率の維持等、多少の義務は発生するが、換金しやすくなるのは大きな利点メリットだ。
「換金してきたぞ」
「じゃあ、まずは宿を押さえましょう」
 冒険者に関する説明を受けながらユキやカナタ、シャルロットはブッチが換金の手続きを終えるのを待っていた。
 職員に礼を言ってからギルドを出、ユキ達の通いつけの宿屋へと移動した。
 今回は四人なので二人部屋を二つ取り、男性陣と女性陣に別れて滞在することとなった。荷物を置いてきたカナタとシャルロットを部屋に招き入れ、ユキ達は今後の予定を話し合い始めた。
「用事はもう片付いた。とりあえず晩飯まで解散するとして……俺は情報屋と会ってくるが、お前達はどうする?」
「私はまたギルドに行ってくるわ。冒険者として登録してくる」
 シャルロットは愛用の杖を片手に、そう宣言した。しかし拠点は首都に移さず、再び『オルケ』に戻ってくるらしい。
「依頼とかはどうするんだ? たしか、最初の内は定期的に依頼を受ける義務があっただろう?」
 しかし町には銀行の支店はあれど、冒険者ギルドの支部はない。すでにベテランで引退し、完全に依頼を選べる立場にあるブッチはともかく、登録したてのシャルロットには冷やかしで登録したわけではないことを証明しなければならなかった。でなければ依頼を選べる立場の冒険者の中には、一切の依頼を受けない者も出てくる。
 特に命懸けの依頼を受けて殉職じゅんしょくしたのと、直前に怖気おじけづいて実家にこもるのとでは事情が変わってくる。冒険者ギルドという、依頼を斡旋あっせんする側の信用にも関わってくるからだ。
 だから、たとえ簡単な依頼でもこなさなければならない。依頼を受けることすらしない、勤労意欲のない者まで管理する余裕は、冒険者ギルドにはないのだ。
「その点は心配ないわ」
 シャルロットは紙の束を片手に、ブッチに心配ないことを告げる。
「『オルケあの町』近くで目撃された魔物の手配書を一通り貰ってきたのよ。依頼を受けなくても、期間内に手配中の魔物を狩るだけで義務は果たせるわ」
「最近は規約ルールも緩くなったんだな。昔は選べなかったんだが……」
 腕を組み、あきれた口調でそう答えるブッチ。それが冒険者ギルドに対してなのか、それとも別のものに対してなのかは分からない。
(少子化と同じだな……)
 ふと、なり手が少ない為に規約ルールが緩和されたのだろうと、ギルドで説明を受けている時に内心思ったユキだが、どちらにしてもこの世界の出生率や生存率を正確に把握しているわけではないので、あえて口にはしなかった。
「そうか、じゃあお前等はどうする?」
 ブッチは未だ答えていない、ユキとカナタの方を向いて問い掛けてきた。
 しかしユキとカナタも、買い出しと情報収集以外に用事はなく、当てすらなかった。
「俺はいくつかの店を食べ歩きしてきます。カナタもついてくるか?」
「う~ん……今日はええわ」
 なんとなく、行動を同じくするのではと考えていた周囲とは異なり、カナタは個人行動を選択した。
 しかし誘ったはずのユキは特に気にすることなく、カナタに対して小言を漏らすだけだった。
「……問題トラブルだけは起こすなよ」
「おにぃ……自分、うちのことなんやと思うとるん?」
問題児トラブルメーカー
 蹴りが放たれたはずだが、カナタのスカートは彼女の下着を周囲の視界から完全に守り抜いていた。



「まだ何か仕込んでるのか……」
「あのスカート、ちょっと欲しいわね」
 ブッチがあきれたようにつぶやく中、未だにカジュアルドレスしか持ち合わせていないシャルロットは、冒険者ギルドでの用事を済ませてから服を買いに行こうと内心で考えていた。その間中、ユキは蹴られた腹をさすっていたが、誰も心配する様子はなかったという。
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