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リナ、それっぽく旅立つ
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朝焼けが空を染めるとともに、一行は朝の国を出立した。
聖女サクヤ、リナ、オーランド王子、ドラコス、リーナスの四人は中の国を目指して、船で明けの川を渡ることになった
川の上流は竜の山である。急峻な山間を抜けてくる川も、朝の国に至る頃には、向こう岸が見えないくらいに川幅を広げている。
朝靄の中を、ドラコスが船頭になって船が進む。
リナは頭からすっぽりとマントのフードを被されている。尖った耳を隠すため。
髪の毛はきつく編み込んで、フードからはみ出ないようにされた。
それを指示した当のサクヤは、船首に立って川面を吹き抜ける風にポニーテールをたなびかせている。
あからさまに制服のまま。
「すっごい目立つと思うんだけど……あれでいいの!? きゅーちゃん」
「きゅー?」
リナは竜の幼生を抱いて座っている。隣にはリーナスが座っていた。
「聖女として旗印に……ということではないでしょうか。……言い伝えに則って聖女を召喚する儀式を執り行ったのは私ですが、彼女は召喚された時から、何もかもを知っていました。そして、強い意志でなすべきことをなそうとしている……というように私には感じられます」
リーナスの柔和な美貌は、リナからすれば「きれいなお姉さん」という印象だ。
(きれいなお姉さんは好きですか? ……大好きです!)
てかてか顔のリナに、リーナスははんなりと微笑む。
船首に立って前を見据えるサクヤと対照的に、オーランド王子は後方に目を配っていた。サクヤとオーランドは丁度背中合わせに立っているように見える。
オーランド王子の長いマントがはためいて、リナは気づく。
(オーリさまは、あたし達に風が来ないように立ってくれてるんだ……)
オーランドと目が合って彼はにこりと笑った。リナは慌てて小さく手を振ってから顔を伏せた。心なしか熱い。
(あのロイヤルスマイルはあかん……)
リーナスはリナの恥じらいを好ましく取ったようだ。
「オーランド王子は、公明正大な人柄で国中の民から慕われていますよ。もともと、朝の国の民は、王室が大好きですが」
「そうなの?」
「ええ、何と言っても、彼は当代の竜騎士ですからね」
オーランドの竜と、ドラコスのグリフィンは、ともに旅には目立ちすぎるとのことで同行していない。しかし、竜と幻獣であるグリフィンは、主の求めに応じて瞬時に移動することができるとのことだから、支障は無かった。
「お、そろそろ陸地だぞ。お嬢ちゃん、降船の準備はいいか!?」
すっかり船頭気取りのドラコスは、船尾からリナに呼びかける。
「うん!」
フードから仰ぎ見るドラコスは、逞しい筋肉を盛り上がらせて、櫓を操っている。しかし、ちっとも息を乱すことも、汗を浮かべることもない。
川面を見ると、表面はまるで凪いでいるかのように銀色だ。それでも船底はごうごうと水に撫でられている。
その不気味で重い振動が、川の流れが穏やかで無いことをリナに知らせる。
相当な力、知識と経験が船の操船には必要だ。ドラコスはやすやすと船を岸に運ぶ。
「明けの川には橋がかけられん。昔からこうして渡る。船屋は儲かる商売だ」
からからとドラコスが笑う。
ざあざあと川は流れ続けている。遠い河口へと向かって。
『……り……な……』
どこからか呼ばれた気がして、リナはあたりを見回す。
朝靄の立ち上る川の上。一行の他に誰かいようはずもない。
『……ぃ……なぁ……あ……』
(川……?)
やはり声がする。それは船べりの向こう。リナは船から身を乗り出した。
「リナ、危ないですよ」
「あ、あのね、誰かが呼んで……」
「リナ!」
鋭く叫んだのはサクヤだった。リナが振り向いた瞬間、リナの顔に水のしぶきが飛んだ。
『見つけた……リナ……』
どん、と波が船の橫腹に打ち付ける。船が大きく傾いだ拍子に、リナの身体が大きく前のめりになった。
水が笑った。
「フロリナ!」
「お嬢ちゃん!」
ドラコスが櫓を落とす。リーナスが捕まえたリナのマントの端が、彼の手から滑り抜けた。
「きゃ、きゃああっ!」
どぶん! と大きな音とともに、リナの身体が川面に落ちる。リナの背中に乗って同じように川面を覗き込んでいた竜の幼生も落水に巻き込まれた。
「わっ、ぷっ! う」
助けを呼ぼうとした口に水が入り込んでくる。
川の流れは上から見ていた時の想像よりも、遙かに荒々しかった。冷たい水にもみくちゃにされながら、リナは必死に手を伸ばして、同じようにもがく竜の幼生の尻尾を掴む。
「きゅーちゃ……! うぷっ!」
また水を飲む。
ばしゅん! と水を割って、オーランド王子が川に飛び込んだ。
「……くっ! リナ! こちらに、手を!」
オーランド王子は急な流れを掻き分けてリナに向かって泳ぐ。リナもオーランド王子に向かって手を伸ばした。
「オーリさ……っ!」
片手に竜の幼生を抱き、片手をオーランド王子に伸ばした瞬間、リナの足が渦に掴まる。
川底に向かって――。
(引きずり込まれる!)
リナの危惧はその通りになった。急速に肺がしぼみ、気泡が慌ただしくリナの口から出ていく。
(助けて……)
明るいはずの水面、下から見上げたリナの視界が徐々に暗くなる。
「リナ! 必ず助ける!」
薄くなる意識に、オーランド王子の声が響いた。
川下の岸に、オーランド王子はリナを抱えて泳ぎ着いた。
「……はっ……、はぁ……」
細身ながら、騎士団長であるドラコスに勝るとも劣らぬ膂力を持つオーランド王子である。
さしもの彼も、冷たく急激な川の流れを、一人と一匹を抱えて泳ぎ切るのは骨が折れた。
「リナ! リナ、しっかりしろ!」
リナの身体を岸に上げ、息を確認する。リナが確り抱えていた竜の幼生は、ぱちくり目を開いて水を吐き始める。
「リナ!」
オーランド王子は濡れた手袋を歯で噛んで強引に引き抜くと、リナの口元に手を当てた。
――息をしていない。
青ざめたリナの頬に、銀髪の中の一筋、金色の髪の毛が張り付いている。
オーランド王子は濡れたリナの首筋に指を当てる。脈はある。ならば。
「リナ……」
オーランド王子は、リナの唇に自分の唇を重ねた。冷たいリナの唇に、命を灯すように、息を吹き込む。
何度か繰り返すと、リナの胸が大きく膨らんで、びくりと身体が震えると、彼女は咳き込んで水を吐いた。
瞼を閉じたまま咳き込むリナ。
「……リナ、大丈夫だ」
オーランド王子はリナを抱き起こすと、自分の胸に抱きしめた。
リナの身体は濡れて冷たく、折れそうに儚い。
「ごほっ……うっ……」
「リナ、リナ……」
水を吐いたなら、もう息を吹き込む必要ではない。
しかし、名前を呼んでも、リナは明確に答えない。はっきりと意識を取り戻さないまま、再び息を失おうとでもするかのように。
オーランド王子は冷静沈着を常としている。時として剛胆でありながらも、滅多に自制心を失わない。
心よりも先に身体が動いた。
「リナ……!」
オーランドは咳き込むリナの頤を持ち上げると、戦慄く唇に唇を重ねた。
深く――激しく――。
「んっ……ふぅ……」
リナが苦しげにうめく。二人を濡らす水の匂いが、鼻孔を冷やし、反対に燃え上がりそうに熱い。頭の芯が。
キスの深さから逃れるように、リナの瞼が開く。
目を閉じもしなかったオーランドの青い瞳を、若葉色の瞳が映す。
「……オーリ、さま……?」
オーランドははっとしてリナの身体を離した。
リナはまたゆるゆると瞼を降ろして、オーランドにぐったりともたれかかる。
「何を……やってるんだ、俺は……」
オーランド王子は、リナの身体を抱き上げて、歩き出した。
『リナ……待っている……お前とまた……』
きっと、出会う。
ぱちぱちと弾ける音、赤い、温かさ。
リナはゆっくりと瞼を開けた。
暗闇の中に、炎が浮かび上がる。
炎の光を受けて、オーランド王子が座っているのが見えた。
(オーリさま……。あたし……川に、おちて……)
どうして落ちたのか。リナはぞくりとした。
「……リナ?」
「……あたし、誰かに、呼ばれて……。川に……」
がくがくと震えながらリナは起き上がった。
リナはオーランド王子のマントに包まれて、火の側に横にされていたのだ。不思議なことに服はひとつも濡れていなかった。
「リナ、どこか苦しいところでも……」
オーランド王子は遠慮げにリナに問いかける。
リナはぶるぶると頭を振った。
「誰かに呼ばれた気がしたの。……川に、引きずりこまれたみたいに……。あっ! きゅ、きゅーちゃんは!?」
オーランド王子は無言でリナの足下を指さした。
そこには竜の幼生が丸まって、安らかに寝息を立てている。
「その子も疲れたみたいだね。リナと一緒に寝ていたよ。安心していい、すぐに聖女達と合流できる……と、言いたいところだったけど」
突如、オーランド王子は立ち上がるとたき火を足で払った。その一蹴りで炎がかき消える。
「オーリさま?」
「しっ、リナ。――敵か味方か――サクヤたちではなかろうな」
オーランド王子は竜の幼生の後ろ首を掴んで持ち上げる。
「きゅ?」
寝ぼけて鳴く竜の幼生をリナに向かって投げる。リナがそれをキャッチすると同時に、オーランドは彼女を自分の背にかばった。
ざざざと梢の擦り合わさる音と、足音がリナの耳に届く。少なくない人数の気配。
「オーリさま! たくさん来る!」
「……リナに力を分けて貰ったから、安心して」
「……え?」
オーランドの背中は何も答えない。
『剣と魔法の始まりだよ、リナ』
(サクヤ~!? あたしのこと守るって言ったくせに!)
毒吐く相手は、今はリナの前にはいない。
オーランド王子が腰の剣をすらりと抜く音が冴え冴えと夜の森に響いた。
聖女サクヤ、リナ、オーランド王子、ドラコス、リーナスの四人は中の国を目指して、船で明けの川を渡ることになった
川の上流は竜の山である。急峻な山間を抜けてくる川も、朝の国に至る頃には、向こう岸が見えないくらいに川幅を広げている。
朝靄の中を、ドラコスが船頭になって船が進む。
リナは頭からすっぽりとマントのフードを被されている。尖った耳を隠すため。
髪の毛はきつく編み込んで、フードからはみ出ないようにされた。
それを指示した当のサクヤは、船首に立って川面を吹き抜ける風にポニーテールをたなびかせている。
あからさまに制服のまま。
「すっごい目立つと思うんだけど……あれでいいの!? きゅーちゃん」
「きゅー?」
リナは竜の幼生を抱いて座っている。隣にはリーナスが座っていた。
「聖女として旗印に……ということではないでしょうか。……言い伝えに則って聖女を召喚する儀式を執り行ったのは私ですが、彼女は召喚された時から、何もかもを知っていました。そして、強い意志でなすべきことをなそうとしている……というように私には感じられます」
リーナスの柔和な美貌は、リナからすれば「きれいなお姉さん」という印象だ。
(きれいなお姉さんは好きですか? ……大好きです!)
てかてか顔のリナに、リーナスははんなりと微笑む。
船首に立って前を見据えるサクヤと対照的に、オーランド王子は後方に目を配っていた。サクヤとオーランドは丁度背中合わせに立っているように見える。
オーランド王子の長いマントがはためいて、リナは気づく。
(オーリさまは、あたし達に風が来ないように立ってくれてるんだ……)
オーランドと目が合って彼はにこりと笑った。リナは慌てて小さく手を振ってから顔を伏せた。心なしか熱い。
(あのロイヤルスマイルはあかん……)
リーナスはリナの恥じらいを好ましく取ったようだ。
「オーランド王子は、公明正大な人柄で国中の民から慕われていますよ。もともと、朝の国の民は、王室が大好きですが」
「そうなの?」
「ええ、何と言っても、彼は当代の竜騎士ですからね」
オーランドの竜と、ドラコスのグリフィンは、ともに旅には目立ちすぎるとのことで同行していない。しかし、竜と幻獣であるグリフィンは、主の求めに応じて瞬時に移動することができるとのことだから、支障は無かった。
「お、そろそろ陸地だぞ。お嬢ちゃん、降船の準備はいいか!?」
すっかり船頭気取りのドラコスは、船尾からリナに呼びかける。
「うん!」
フードから仰ぎ見るドラコスは、逞しい筋肉を盛り上がらせて、櫓を操っている。しかし、ちっとも息を乱すことも、汗を浮かべることもない。
川面を見ると、表面はまるで凪いでいるかのように銀色だ。それでも船底はごうごうと水に撫でられている。
その不気味で重い振動が、川の流れが穏やかで無いことをリナに知らせる。
相当な力、知識と経験が船の操船には必要だ。ドラコスはやすやすと船を岸に運ぶ。
「明けの川には橋がかけられん。昔からこうして渡る。船屋は儲かる商売だ」
からからとドラコスが笑う。
ざあざあと川は流れ続けている。遠い河口へと向かって。
『……り……な……』
どこからか呼ばれた気がして、リナはあたりを見回す。
朝靄の立ち上る川の上。一行の他に誰かいようはずもない。
『……ぃ……なぁ……あ……』
(川……?)
やはり声がする。それは船べりの向こう。リナは船から身を乗り出した。
「リナ、危ないですよ」
「あ、あのね、誰かが呼んで……」
「リナ!」
鋭く叫んだのはサクヤだった。リナが振り向いた瞬間、リナの顔に水のしぶきが飛んだ。
『見つけた……リナ……』
どん、と波が船の橫腹に打ち付ける。船が大きく傾いだ拍子に、リナの身体が大きく前のめりになった。
水が笑った。
「フロリナ!」
「お嬢ちゃん!」
ドラコスが櫓を落とす。リーナスが捕まえたリナのマントの端が、彼の手から滑り抜けた。
「きゃ、きゃああっ!」
どぶん! と大きな音とともに、リナの身体が川面に落ちる。リナの背中に乗って同じように川面を覗き込んでいた竜の幼生も落水に巻き込まれた。
「わっ、ぷっ! う」
助けを呼ぼうとした口に水が入り込んでくる。
川の流れは上から見ていた時の想像よりも、遙かに荒々しかった。冷たい水にもみくちゃにされながら、リナは必死に手を伸ばして、同じようにもがく竜の幼生の尻尾を掴む。
「きゅーちゃ……! うぷっ!」
また水を飲む。
ばしゅん! と水を割って、オーランド王子が川に飛び込んだ。
「……くっ! リナ! こちらに、手を!」
オーランド王子は急な流れを掻き分けてリナに向かって泳ぐ。リナもオーランド王子に向かって手を伸ばした。
「オーリさ……っ!」
片手に竜の幼生を抱き、片手をオーランド王子に伸ばした瞬間、リナの足が渦に掴まる。
川底に向かって――。
(引きずり込まれる!)
リナの危惧はその通りになった。急速に肺がしぼみ、気泡が慌ただしくリナの口から出ていく。
(助けて……)
明るいはずの水面、下から見上げたリナの視界が徐々に暗くなる。
「リナ! 必ず助ける!」
薄くなる意識に、オーランド王子の声が響いた。
川下の岸に、オーランド王子はリナを抱えて泳ぎ着いた。
「……はっ……、はぁ……」
細身ながら、騎士団長であるドラコスに勝るとも劣らぬ膂力を持つオーランド王子である。
さしもの彼も、冷たく急激な川の流れを、一人と一匹を抱えて泳ぎ切るのは骨が折れた。
「リナ! リナ、しっかりしろ!」
リナの身体を岸に上げ、息を確認する。リナが確り抱えていた竜の幼生は、ぱちくり目を開いて水を吐き始める。
「リナ!」
オーランド王子は濡れた手袋を歯で噛んで強引に引き抜くと、リナの口元に手を当てた。
――息をしていない。
青ざめたリナの頬に、銀髪の中の一筋、金色の髪の毛が張り付いている。
オーランド王子は濡れたリナの首筋に指を当てる。脈はある。ならば。
「リナ……」
オーランド王子は、リナの唇に自分の唇を重ねた。冷たいリナの唇に、命を灯すように、息を吹き込む。
何度か繰り返すと、リナの胸が大きく膨らんで、びくりと身体が震えると、彼女は咳き込んで水を吐いた。
瞼を閉じたまま咳き込むリナ。
「……リナ、大丈夫だ」
オーランド王子はリナを抱き起こすと、自分の胸に抱きしめた。
リナの身体は濡れて冷たく、折れそうに儚い。
「ごほっ……うっ……」
「リナ、リナ……」
水を吐いたなら、もう息を吹き込む必要ではない。
しかし、名前を呼んでも、リナは明確に答えない。はっきりと意識を取り戻さないまま、再び息を失おうとでもするかのように。
オーランド王子は冷静沈着を常としている。時として剛胆でありながらも、滅多に自制心を失わない。
心よりも先に身体が動いた。
「リナ……!」
オーランドは咳き込むリナの頤を持ち上げると、戦慄く唇に唇を重ねた。
深く――激しく――。
「んっ……ふぅ……」
リナが苦しげにうめく。二人を濡らす水の匂いが、鼻孔を冷やし、反対に燃え上がりそうに熱い。頭の芯が。
キスの深さから逃れるように、リナの瞼が開く。
目を閉じもしなかったオーランドの青い瞳を、若葉色の瞳が映す。
「……オーリ、さま……?」
オーランドははっとしてリナの身体を離した。
リナはまたゆるゆると瞼を降ろして、オーランドにぐったりともたれかかる。
「何を……やってるんだ、俺は……」
オーランド王子は、リナの身体を抱き上げて、歩き出した。
『リナ……待っている……お前とまた……』
きっと、出会う。
ぱちぱちと弾ける音、赤い、温かさ。
リナはゆっくりと瞼を開けた。
暗闇の中に、炎が浮かび上がる。
炎の光を受けて、オーランド王子が座っているのが見えた。
(オーリさま……。あたし……川に、おちて……)
どうして落ちたのか。リナはぞくりとした。
「……リナ?」
「……あたし、誰かに、呼ばれて……。川に……」
がくがくと震えながらリナは起き上がった。
リナはオーランド王子のマントに包まれて、火の側に横にされていたのだ。不思議なことに服はひとつも濡れていなかった。
「リナ、どこか苦しいところでも……」
オーランド王子は遠慮げにリナに問いかける。
リナはぶるぶると頭を振った。
「誰かに呼ばれた気がしたの。……川に、引きずりこまれたみたいに……。あっ! きゅ、きゅーちゃんは!?」
オーランド王子は無言でリナの足下を指さした。
そこには竜の幼生が丸まって、安らかに寝息を立てている。
「その子も疲れたみたいだね。リナと一緒に寝ていたよ。安心していい、すぐに聖女達と合流できる……と、言いたいところだったけど」
突如、オーランド王子は立ち上がるとたき火を足で払った。その一蹴りで炎がかき消える。
「オーリさま?」
「しっ、リナ。――敵か味方か――サクヤたちではなかろうな」
オーランド王子は竜の幼生の後ろ首を掴んで持ち上げる。
「きゅ?」
寝ぼけて鳴く竜の幼生をリナに向かって投げる。リナがそれをキャッチすると同時に、オーランドは彼女を自分の背にかばった。
ざざざと梢の擦り合わさる音と、足音がリナの耳に届く。少なくない人数の気配。
「オーリさま! たくさん来る!」
「……リナに力を分けて貰ったから、安心して」
「……え?」
オーランドの背中は何も答えない。
『剣と魔法の始まりだよ、リナ』
(サクヤ~!? あたしのこと守るって言ったくせに!)
毒吐く相手は、今はリナの前にはいない。
オーランド王子が腰の剣をすらりと抜く音が冴え冴えと夜の森に響いた。
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