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リナ、聖女に騙される
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リナはサクヤのポニーテールの先っぽが、彼の白い肩を滑り落ちるのを呆然と見上げた。
神秘的とさえ言える美貌のエルフの娘リナは、潰れたあんパンみたいな顔をして、耳はすっかり寝ているし、瞳の色も青ざめている。
サクヤはリナの服の襟ぐりに指をあてて、彼女の細い鎖骨をすっと指でなぞった。
すうっと手足の先が冷える。リナは自分の置かれた状況を、理解、しなければ……。
上から、抑えつけられ……襲われ……。
『やめろ、ルシファー!』
『お前は俺のものだ、ミカエル」
『汚らわしい堕天使がっ! なぜ、神を、……私を裏切った!?』
『ミカエル、俺と一緒に、堕ちて……』
『ルシファー……!』
……あんなに……愛していたのに……。
リナはまた、若気の至りを思い出して、恥で二度目の瀕死状態となった。
黒背景・羽根、やたら改行&ポエムと並んで、天使・堕天使・悪魔は厨二病罹患における必須条件である。
リナの黒歴史は、自分でしたためた妄想ノートに収まらない。
当時巡ったWEBサイト(リナはホムペと呼んでいた)の数々。そこで知った神話伝説の織りなす妄想絵巻。
リナは天使・堕天使、聖書に書かれたことを知って、まんまと萌えた。
そもそも、天使・堕天使・悪魔を題材とした物語は溢れかえっていて、そのことごとくが中二マインドを狙い撃ち(ここから神話道を突き進む層も存在する)。
唯一神、神の御使いたる天使、堕天使、悪魔……魔王。
特に、魔王ルシフェル、ルシファーの設定はやばい。ン千年単位で公式なのがやばい。
暁の明星ルシファーという二つ名だとか連れのアスタロトとかベルゼバブとか、昔の相方の大天使ミカエルだとか、羽根が生えてるってだけで詰んでるのに、更に闇堕ちである。神に反逆して堕天する、純白から一転、漆黒へと転じるルシファー。ルシファーを慕い、彼に裏切られルシファーを討つ立場となるミカエル。
かつての蜜月と、今は引き裂かれた二人。
二人の間には光と闇という絶対的な超えられない壁があって、それを壊すには実力行使しかなかったりして。
リナの黒歴史は、まことに残念なことに、フロリナの魔王討伐物語だけではなかった。
妄想は激しいが、表現力が追いつかないから、設定だけとか台詞だけとかポエムだけ落書きだけとかになっちゃうんだよね!
学校の授業中も、自作ポエムを思い出して、ノートの端に拙い羽根(ダウン・羽毛)などシャーペンで舞わせていたリナである。
しかも、書きながら、勝手に盛り上がって「うっ、ミカエルつらい」などとぶつぶつ言いながら涙ぐんだりしていた。
しっかりしろ、つらいのは自分の痛さだ、リナ。
「ミカエルが実は腹黒設定のバージョンもあったよ……」
「アンタ、また口に出てるから」
びしっと額をでこぴんで弾かれ、リナは「いたっ!」と叫んだ。
「ほんとアンタってバカだな……萎える」
サクヤはリナを解放すると、ごろりと彼女の横に転がった。
「えっ、お、おそ、襲うんじゃないの」
「襲わねーよ」
「だ、だって、サクヤ、こ、股間がも、もっこり」
「ふざけんな、俺のマグナムの覚醒時はこんなもんじゃねえ」
「えーっ! そうなの!?」
「股間に向かって叫ぶな! バッカじゃねぇの。状況わかってる?」
リナとサクヤは寝台に転がったまま、顔を見合わせた。
「……えと」
「だから、体液摂取だけじゃなくて、お前とセッ」
「わーっ! わーっ! 言わないで! 口にしないで! 耳がもげる!」
「もげねーよ! 最後まで言わせろよ! アンタとセックスしたらそりゃエネルギーの摂取としては最高だけど、体液の摂取で構わねえっつってるし、俺はアンタを愛してる。
だから、アンタを傷つけるようなことはできない」
「じゃあ、な、何で脱いだのよ」
「女子の制服は、着心地が悪い。足開けないし」
「それだけ!? あんたがバカじゃない! プライベートは裸とかどこのセレブなのよ!?」
「聖女のセレブ様だ。アンタがここに来るまでずっと女のふりしてたんだからな。
あー、せいせいする。のんきなアンタのびびった顔も面白かったしな。すっげ不細工な顔」
「……何それ」
明らかにほっとした顔のリナを見て、サクヤはくっと喉を鳴らした。
それと同じくして、リナの腹がぐうと音を立てる。
「う……」
確かに森の木こり小屋から馬車で連れ去られたのが、まだ両親もリナも小屋にいた朝だった。まだ陽が高いとはいえ、まるまる昼飯は抜いたことになる。
「……今夜は多分、壮行会だから、ごちそうが食えるだろ。それまで我慢しろよ、リナ」
エルフの娘、フロリナ。平凡な日本人だった古居 莉名。
フロリナとしての記憶が消えたわけでは無い。けれど、古居 莉名の記憶も、確かにある。
異世界転生? 当事者はなかなか複雑だ。
フロリナは森の生活と父母しか知らない。古居 莉名は学校にも行っていたし、社会にも出た。友達も、家族も、フロリナよりも遙かに多くの関係を持って生きていた。
「……サクヤは、あたしのこと、リナって呼ぶんだね」
「古居 莉名の方がいいのか? それともフロリナ?」
サクヤはうーんと伸びをしてベッドに起き上がると、ポニーテールを解いた。頭皮を揉んで、おしぼりで顔を拭くおっさんのように爽快そうだ。
白い肩に黒髪が降りかかる。
(きれいな身体してんなあ……。女子校の憧れのお姉様……みたいな、顔もきれいだもんな……)
リナの夢見た天使達の無性、もしくは両性具有の美しさ。そういうものが、サクヤにはある。
しなやかに力強く、凜として美しい。
デッサンは崩れてたけれど、リナの目には充分きらきらしていた。
リナの黒歴史の天使たち。
リナは横になったまま、サクヤがパンツ一丁で胡座をかいて、髪を結い直すのを見つめた。
「おい、また妄想してんのか」
「……わかんない。よくわかんない……」
わからないけれど、脳裏には様々な記憶が蘇る。
かつて生きた騒々しくも平凡な日々。
料理上手だった母。餃子はいつも手作りしてくれた。
父は怒りっぽかったが、酒を飲むと上機嫌で、時々小遣いをくれた。
兄とも仲は悪くなかった。学生時代、二人で分担して買いあさった漫画やラノベ。
つい朝まで続いていた森の中の穏やかな日々。
文字を始め、様々な勉強を教えてくれた父。
このスカートのつぎをあててくれた母。
木漏れ日とせせらぎの音、フロリナの穏やかな毎日。
「パパ、ママ……お父さん、お母さん、お兄ちゃん……」
リナの目が紫色になり、ぶわっと涙が盛り上がる。頬に大粒の涙が、次から次へと、鼻を、頬を滑り、シーツにしみを作った。
「わかんないよぅ……」
「おい、アンタ」
サクヤはリナを起こすと、裸の胸に彼女を抱きしめた。
ぎゅっと強く腕を回されて、リナは身体を緊張させる。
しかし、伝わってくる温もりは――あたたかく、確かだ。
「アンタはバカだ。バカでいい。バカの……リナでいい」
「ひぃっ……くっ……。サクヤ、バカって言い過ぎ、だし……」
「バカにバカって言って何が悪い。バカだから、男に警戒心のひとつも持てない。俺に犯されてても文句言えねぇぞ」
「ひっ……う……お、おかす、の?」
「バカ。お前を愛してるよ、リナ。俺はお前を愛するためにここにいるんだ」
「なっ、なんでぇ? あ、愛してるとか言うのぉっ、おっ、おかしいよっ! サクヤのことなんか、あたし、設定してないよ……」
「設定も文章力も画力もお粗末だもんな。バカだから、俺が守ってやるよ。だから、アンタを守るための力を、俺に与えてくれればいい」
「与え……?」
サクヤはリナの身体をそっと直し、彼女の涙に濡れた顔に、自分の顔を傾けた。
唇が重なる。
(……にかいめ……)
熱い舌が入ってきて、一度目と同じように唾液をすくっていく。
一度目よりも、舌は長くリナの口の中にとどまった。
サクヤがこくりと喉を鳴らして、リナの唾液を飲み込む。
「……キスは拒むな。そうしたら、アンタを守ってやれる」
リナは泣き濡れた顔のまま、かろうじて小さく頷いた。
(要するに、キスはエネルギー補給だってことだから、割り切ればいい……ってこと?)
サクヤの言葉を安易に信じるのは恐い。
けれど、自分の存在が揺らいでいるような今は、今だけは、サクヤの言葉を信じたい。
リナはサクヤの真意を探ろうと、緑みを帯びた大きな瞳をサクヤに向けた。
「どうせ、勇者達全員にアンタの体液をくれてやらなきゃいけないんだし」
「……は?」
「だから、状況わかってんのかって」
サクヤは面倒くさそうにポニーテールを揺らして、顎が外れたように口をあんぐりさせたリナのおでこをもう一度はたいた。
それから壮行会までの時間を使って、リナとサクヤはルールを決めた。
リナはサクヤにキスを許すこと。これはリナが妥協した。
リナの瞳には彼女の感情が全て表れてしまう。
サクヤは、「アンタ素直過ぎんだよ。つけ込まれるぞ」と言って、世界樹の力を使って、彼女の瞳の色を若葉色に固定した。若葉色を保ち続けるためにも、リナは彼にキスを許さなければならなかった。
それ以外にも、サクヤは世界樹の力を使って、「バカな」リナのフォローをすることを彼女に誓った。
仲間達にキスをするかは、リナが決めること。最悪は血液を提供することで代替すること。これをしぶしぶサクヤは認めた。彼はリナが自分の身体を傷つける可能性に最後まで渋っていた。
話し合いが一段落して、リナはサクヤに着替えを命じられた。与えられた衣装を見て、リナは三度目の恥による瀕死状態を経験した。
(こういうの……こういう絵、描いたよ……!)
リナが思い描いたフロリナの衣装は、彼女が「エルフってこんな感じ」という淡いイメージでデッサン狂いで描いたもの。それをデッサンを直して具現化されて、ぐうの音も出ない。
両サイドに深くスリットの入った白い貫頭衣。サイドにおける露出度はむしろ高い方がスタイリッシュと思っていたあの頃が憎い。下着代わりに伸縮性の腹巻きに似たものをつけたが、胸上から尻の下まですっぽりと覆うこれは胸の膨らみもサポートして動きやすい。ショーツも同様で伸縮性がある。木こりの娘が著ていた、だぼっとしたズロースとは違う。
太いベルトをウエストに巻く。金の腕輪に額あて。編み上げのサンダル。上からマントを羽織った。
「おっ、超それっぽいじゃん。あんま耳動かすなよ。目の色固定しても、耳見たらアンタの考えてること丸わかりだからな」
「この服、どうしたの……」
「俺が世界樹の力で出した」
「ああああああああ」
サクヤ自身は再び制服を纏う。すーすーするところのない制服姿を、恨めしげに睨むリナ。
サクヤはそれに対して、婀娜っぽく微笑むと、
「いい? リナ。私が男ってことは二人だけの秘密よ」
と、がらりと口調を変えて言った。
神秘的とさえ言える美貌のエルフの娘リナは、潰れたあんパンみたいな顔をして、耳はすっかり寝ているし、瞳の色も青ざめている。
サクヤはリナの服の襟ぐりに指をあてて、彼女の細い鎖骨をすっと指でなぞった。
すうっと手足の先が冷える。リナは自分の置かれた状況を、理解、しなければ……。
上から、抑えつけられ……襲われ……。
『やめろ、ルシファー!』
『お前は俺のものだ、ミカエル」
『汚らわしい堕天使がっ! なぜ、神を、……私を裏切った!?』
『ミカエル、俺と一緒に、堕ちて……』
『ルシファー……!』
……あんなに……愛していたのに……。
リナはまた、若気の至りを思い出して、恥で二度目の瀕死状態となった。
黒背景・羽根、やたら改行&ポエムと並んで、天使・堕天使・悪魔は厨二病罹患における必須条件である。
リナの黒歴史は、自分でしたためた妄想ノートに収まらない。
当時巡ったWEBサイト(リナはホムペと呼んでいた)の数々。そこで知った神話伝説の織りなす妄想絵巻。
リナは天使・堕天使、聖書に書かれたことを知って、まんまと萌えた。
そもそも、天使・堕天使・悪魔を題材とした物語は溢れかえっていて、そのことごとくが中二マインドを狙い撃ち(ここから神話道を突き進む層も存在する)。
唯一神、神の御使いたる天使、堕天使、悪魔……魔王。
特に、魔王ルシフェル、ルシファーの設定はやばい。ン千年単位で公式なのがやばい。
暁の明星ルシファーという二つ名だとか連れのアスタロトとかベルゼバブとか、昔の相方の大天使ミカエルだとか、羽根が生えてるってだけで詰んでるのに、更に闇堕ちである。神に反逆して堕天する、純白から一転、漆黒へと転じるルシファー。ルシファーを慕い、彼に裏切られルシファーを討つ立場となるミカエル。
かつての蜜月と、今は引き裂かれた二人。
二人の間には光と闇という絶対的な超えられない壁があって、それを壊すには実力行使しかなかったりして。
リナの黒歴史は、まことに残念なことに、フロリナの魔王討伐物語だけではなかった。
妄想は激しいが、表現力が追いつかないから、設定だけとか台詞だけとかポエムだけ落書きだけとかになっちゃうんだよね!
学校の授業中も、自作ポエムを思い出して、ノートの端に拙い羽根(ダウン・羽毛)などシャーペンで舞わせていたリナである。
しかも、書きながら、勝手に盛り上がって「うっ、ミカエルつらい」などとぶつぶつ言いながら涙ぐんだりしていた。
しっかりしろ、つらいのは自分の痛さだ、リナ。
「ミカエルが実は腹黒設定のバージョンもあったよ……」
「アンタ、また口に出てるから」
びしっと額をでこぴんで弾かれ、リナは「いたっ!」と叫んだ。
「ほんとアンタってバカだな……萎える」
サクヤはリナを解放すると、ごろりと彼女の横に転がった。
「えっ、お、おそ、襲うんじゃないの」
「襲わねーよ」
「だ、だって、サクヤ、こ、股間がも、もっこり」
「ふざけんな、俺のマグナムの覚醒時はこんなもんじゃねえ」
「えーっ! そうなの!?」
「股間に向かって叫ぶな! バッカじゃねぇの。状況わかってる?」
リナとサクヤは寝台に転がったまま、顔を見合わせた。
「……えと」
「だから、体液摂取だけじゃなくて、お前とセッ」
「わーっ! わーっ! 言わないで! 口にしないで! 耳がもげる!」
「もげねーよ! 最後まで言わせろよ! アンタとセックスしたらそりゃエネルギーの摂取としては最高だけど、体液の摂取で構わねえっつってるし、俺はアンタを愛してる。
だから、アンタを傷つけるようなことはできない」
「じゃあ、な、何で脱いだのよ」
「女子の制服は、着心地が悪い。足開けないし」
「それだけ!? あんたがバカじゃない! プライベートは裸とかどこのセレブなのよ!?」
「聖女のセレブ様だ。アンタがここに来るまでずっと女のふりしてたんだからな。
あー、せいせいする。のんきなアンタのびびった顔も面白かったしな。すっげ不細工な顔」
「……何それ」
明らかにほっとした顔のリナを見て、サクヤはくっと喉を鳴らした。
それと同じくして、リナの腹がぐうと音を立てる。
「う……」
確かに森の木こり小屋から馬車で連れ去られたのが、まだ両親もリナも小屋にいた朝だった。まだ陽が高いとはいえ、まるまる昼飯は抜いたことになる。
「……今夜は多分、壮行会だから、ごちそうが食えるだろ。それまで我慢しろよ、リナ」
エルフの娘、フロリナ。平凡な日本人だった古居 莉名。
フロリナとしての記憶が消えたわけでは無い。けれど、古居 莉名の記憶も、確かにある。
異世界転生? 当事者はなかなか複雑だ。
フロリナは森の生活と父母しか知らない。古居 莉名は学校にも行っていたし、社会にも出た。友達も、家族も、フロリナよりも遙かに多くの関係を持って生きていた。
「……サクヤは、あたしのこと、リナって呼ぶんだね」
「古居 莉名の方がいいのか? それともフロリナ?」
サクヤはうーんと伸びをしてベッドに起き上がると、ポニーテールを解いた。頭皮を揉んで、おしぼりで顔を拭くおっさんのように爽快そうだ。
白い肩に黒髪が降りかかる。
(きれいな身体してんなあ……。女子校の憧れのお姉様……みたいな、顔もきれいだもんな……)
リナの夢見た天使達の無性、もしくは両性具有の美しさ。そういうものが、サクヤにはある。
しなやかに力強く、凜として美しい。
デッサンは崩れてたけれど、リナの目には充分きらきらしていた。
リナの黒歴史の天使たち。
リナは横になったまま、サクヤがパンツ一丁で胡座をかいて、髪を結い直すのを見つめた。
「おい、また妄想してんのか」
「……わかんない。よくわかんない……」
わからないけれど、脳裏には様々な記憶が蘇る。
かつて生きた騒々しくも平凡な日々。
料理上手だった母。餃子はいつも手作りしてくれた。
父は怒りっぽかったが、酒を飲むと上機嫌で、時々小遣いをくれた。
兄とも仲は悪くなかった。学生時代、二人で分担して買いあさった漫画やラノベ。
つい朝まで続いていた森の中の穏やかな日々。
文字を始め、様々な勉強を教えてくれた父。
このスカートのつぎをあててくれた母。
木漏れ日とせせらぎの音、フロリナの穏やかな毎日。
「パパ、ママ……お父さん、お母さん、お兄ちゃん……」
リナの目が紫色になり、ぶわっと涙が盛り上がる。頬に大粒の涙が、次から次へと、鼻を、頬を滑り、シーツにしみを作った。
「わかんないよぅ……」
「おい、アンタ」
サクヤはリナを起こすと、裸の胸に彼女を抱きしめた。
ぎゅっと強く腕を回されて、リナは身体を緊張させる。
しかし、伝わってくる温もりは――あたたかく、確かだ。
「アンタはバカだ。バカでいい。バカの……リナでいい」
「ひぃっ……くっ……。サクヤ、バカって言い過ぎ、だし……」
「バカにバカって言って何が悪い。バカだから、男に警戒心のひとつも持てない。俺に犯されてても文句言えねぇぞ」
「ひっ……う……お、おかす、の?」
「バカ。お前を愛してるよ、リナ。俺はお前を愛するためにここにいるんだ」
「なっ、なんでぇ? あ、愛してるとか言うのぉっ、おっ、おかしいよっ! サクヤのことなんか、あたし、設定してないよ……」
「設定も文章力も画力もお粗末だもんな。バカだから、俺が守ってやるよ。だから、アンタを守るための力を、俺に与えてくれればいい」
「与え……?」
サクヤはリナの身体をそっと直し、彼女の涙に濡れた顔に、自分の顔を傾けた。
唇が重なる。
(……にかいめ……)
熱い舌が入ってきて、一度目と同じように唾液をすくっていく。
一度目よりも、舌は長くリナの口の中にとどまった。
サクヤがこくりと喉を鳴らして、リナの唾液を飲み込む。
「……キスは拒むな。そうしたら、アンタを守ってやれる」
リナは泣き濡れた顔のまま、かろうじて小さく頷いた。
(要するに、キスはエネルギー補給だってことだから、割り切ればいい……ってこと?)
サクヤの言葉を安易に信じるのは恐い。
けれど、自分の存在が揺らいでいるような今は、今だけは、サクヤの言葉を信じたい。
リナはサクヤの真意を探ろうと、緑みを帯びた大きな瞳をサクヤに向けた。
「どうせ、勇者達全員にアンタの体液をくれてやらなきゃいけないんだし」
「……は?」
「だから、状況わかってんのかって」
サクヤは面倒くさそうにポニーテールを揺らして、顎が外れたように口をあんぐりさせたリナのおでこをもう一度はたいた。
それから壮行会までの時間を使って、リナとサクヤはルールを決めた。
リナはサクヤにキスを許すこと。これはリナが妥協した。
リナの瞳には彼女の感情が全て表れてしまう。
サクヤは、「アンタ素直過ぎんだよ。つけ込まれるぞ」と言って、世界樹の力を使って、彼女の瞳の色を若葉色に固定した。若葉色を保ち続けるためにも、リナは彼にキスを許さなければならなかった。
それ以外にも、サクヤは世界樹の力を使って、「バカな」リナのフォローをすることを彼女に誓った。
仲間達にキスをするかは、リナが決めること。最悪は血液を提供することで代替すること。これをしぶしぶサクヤは認めた。彼はリナが自分の身体を傷つける可能性に最後まで渋っていた。
話し合いが一段落して、リナはサクヤに着替えを命じられた。与えられた衣装を見て、リナは三度目の恥による瀕死状態を経験した。
(こういうの……こういう絵、描いたよ……!)
リナが思い描いたフロリナの衣装は、彼女が「エルフってこんな感じ」という淡いイメージでデッサン狂いで描いたもの。それをデッサンを直して具現化されて、ぐうの音も出ない。
両サイドに深くスリットの入った白い貫頭衣。サイドにおける露出度はむしろ高い方がスタイリッシュと思っていたあの頃が憎い。下着代わりに伸縮性の腹巻きに似たものをつけたが、胸上から尻の下まですっぽりと覆うこれは胸の膨らみもサポートして動きやすい。ショーツも同様で伸縮性がある。木こりの娘が著ていた、だぼっとしたズロースとは違う。
太いベルトをウエストに巻く。金の腕輪に額あて。編み上げのサンダル。上からマントを羽織った。
「おっ、超それっぽいじゃん。あんま耳動かすなよ。目の色固定しても、耳見たらアンタの考えてること丸わかりだからな」
「この服、どうしたの……」
「俺が世界樹の力で出した」
「ああああああああ」
サクヤ自身は再び制服を纏う。すーすーするところのない制服姿を、恨めしげに睨むリナ。
サクヤはそれに対して、婀娜っぽく微笑むと、
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