【完結】魔獣の公女様 

nao

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26] 再会

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ナディアの居場所を詳しく調べてもらい、ナディアが北の塔の貴族牢に入っている事を突き止めました。
北の塔は出入り口が1つしか無く、貴族牢となっている部屋は建物にすると五階の高さの場所に有り、飛び降りることも、ロープをたらすにも長さが足りなくなるような高い所に有ります。
北の塔は、一階の入口、2階の控室、3階の調理室、四階の拷問部屋、そして五階の貴族牢になっています。
脱出不可能と言われる牢でした。

夜も更けて、塔の前には見張りが1人だけ。
私達3人は見張りに見つからないように北の塔の裏側に転移しました。

「シルフィ、大丈夫か?疲れているなら少し休んでからでも…」

「大丈夫ですロイド殿下。このまま上に行きましょう。」

「シルフィ様、上に行くだけなら私が転移しましょう。あなたは少しでも魔力を温存した方が良い。」

「ギュンターク団長、ありがとうございます。」

私達は北の塔で見張りをしている兵士に念の為、隠蔽の魔法を掛けて、塔の貴族牢を目指して転移しました。

月明かりしか無い薄暗い部屋に私達3人は降り立ちました。
そっと静かに辺りを見回します。
ナディアは寝台でスヤスヤと寝息を立てていました。

「ナディア、起きて、ナディア…」

「う…ん…  だれ?…」

「ナディア、私よ、リディアよ。」

私の名を聞いた途端、ナディアは覚醒し、驚いて飛び起きました。

「リディア?!どうして?!なんで元に戻ってるの?!」

「久しぶりね、ナディア。」

ナディアはきつい眼差しで私を睨みつけています。

「リディア、私を笑いに来たの?どうやったのか知らないけれど、私からあのネックレスを盗んだのね?」

「運が良かったのよ。私の事を理解して手伝ってくれた方がいたから…」

「それが後ろの2人なの?女性の寝室に無断で上がり込むなんて礼儀知らずにも程があるわね。」

「彼らの事を悪く言うのは許さないわ。彼等のお陰で、私はこうしてもう一度あなたに会えたんだから。」

「お説教なら聞きたくないわ。私の惨めな姿を見て気が済んだでしょう。サッサと帰ればいいわ。それとも自分は生きているって何もかもぶちまける?それこそ皆んなが困った事になるわよね。あなたにお父様達を苦しめる事が出来るのかしら?」

「ナディア、お父様達が苦しむと分かっていてどうしてこんな事をしたの?」

「どうして?そんなの決まっているわ!アラン様が欲しかったからよ!私にはアラン様だけなの!あの方を手に入れる為なら何だってやるわ!」

「だからと言って、人を傷つけて良い訳無いでしょう!あなたのせいで、どれ程の人が苦しんでいるか分からないの?自分さえ良ければいいの?そんなの間違っているわ!」

「リディアには分からない!リディアには私の気持ちなんて分からないわ!私が今迄どんな思いで生きて来たか、全てを持っているあなたには分からないわよ!」

「ナディア、これからもそうやって人を傷つけて生きて行くつもりなの?」

「えぇそうよ!私は私のしたい様に生きるわ!アラン様の為なら私は何だって出来るもの!」

「そう…」

あぁ…ナディアはもう戻れないのね…
ナディアの血を吐くような叫びが私の耳にこびり着いて離れない。
ナディアはもう後戻り出来ない事を誰よりも自分が一番わかっているのね。

「ナディア、あなたの気持ちは分かったわ。」

「なら、サッサと今いる自分の場所に戻るのね。公国にも、マルコシアス帝国にもリディアの戻る場所なんてもう無いんだから!」

「そうね、これが最後よ。私があなたを自由にしてあげるわ。」

「どういう意味?」

私は首に掛けていたネックレスを外し、ナディアに向けて呪文を唱えた。

「小鳥になれ。」

「えっ?!嫌!!やめて!!」

ナディアの身体を虹色の光が包みます。
そして、光か消えると、ナディアは小さな小鳥になっていました。

「ピピピッ! ピピッ!ピ…!」

白銀色の文鳥に変身したナディアは、私達3人の頭上をグルグル飛び回り、まるで私に抗議するように鳴いています。
塔に1つしか無い窓の外が仄かに明るくなって来ました。
後、1時間もすれば夜が明けるでしょう。
私は窓を開けました。
冷たい風が部屋に流れ込んで、淀んだ空気を押し流してくれます。

「ナディア、あなたはもう自由よ。どこへでも行くといいわ。」

開け放たれた窓の格子をくぐり、ナディアは外に飛び出して行きました。
ナディアは夜明け前のほんのりオレンジを帯びて来た東の空に向かって飛んで行きました。


「シルフィ、これで良かったのか?」

ロイド殿下が私の手を取り、心配そうに私の瞳を覗き込みます。

「はい。これで良かったのです。あの姿ではもう悪さも出来ないでしょう。」

「そうか、良く頑張ったな…」

そう言って優しく抱き締めて下さいました。
まるで私の泣き顔を誰にも見せない様に…

「殿下、シルフィ様、そろそろ塔の見張りが…」

「あぁ…そうだな。シルフィ 帰ろうか。」

「ロイド殿下、帰る前にもう1つ寄りたい所があります。」



◇ ◇ ◇



北の塔から、私達はマルコシアス帝国大神殿へ転移して来ました。
ナディアのせいで重傷を負ったフォレスト嬢を治癒する為です。
夜明け前だと言うのに、フォレスト嬢の周りにも、大神殿に用意されたフォレスト嬢の部屋の中も外も沢山の人がいて、慌ただしく動いている気配がします。
ギュンターク団長が全ての人に『安眠』の魔法を掛け、フォレスト嬢の部屋に入りました。

フォレスト嬢は顔も、手足も、包帯でグルグルに巻かれていて、包帯の間から見える蜂蜜色の髪が短く切られていました。
苦しそうな寝息が彼女の怪我の重さを表しているようです。

「なんて酷い…可哀想に…」

「シルフィ…」

ロイド殿下が私の肩を抱き、支えて下さいます。

「大丈夫です。」

私はフォレスト嬢に向き合い彼女の頭に手をかざして治癒魔法を発動しました。
淡い金色の光が彼女の身体を包みます。
しばらくすると、光が収まり、苦しそうだった彼女の寝息も落ち着きました。

「ふう…これで大丈夫だと思います。」

「頑張ったね シルフィ。私は君を誇りに思うよ。きっと全て良い方に進むと私は信じてる。」

「はい、ロイド殿下。ありがとうございます。」

殿下が私の手をしっかりと握りしめて下さいます。

「さぁ、帰りましょうか、私達の国へ。」

私は殿下の手をしっかりと握り返してそう言いました。

「あぁ、帰ろう。私達の国へ。ギュンターク、帰りは頼んだぞ。私のシルフィはもうクタクタだからな。」

「お任せ下さい 殿下。すぐに帰りましょう!」

ギュンターク団長の転移魔法で私達は無事にケンウッド皇国へ帰って来ました。



その後の報告で、フォレスト公爵令嬢に奇跡が起きたと、マルコシアス帝国中が令嬢の回復を喜び、予定通り結婚式が行なわれると発表されました。
結婚式が行なわれる頃には短かった髪もきっと美しく元の長さになっているでしょう。
自治領であるイースデール公国もフォレスト嬢の回復に喜び、お祝いムード一色になっているようで、本当に良かったと、胸を撫で下ろしました。













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