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狂気
しおりを挟む最近、王様の様子が、おかしいのです。
何だか、いつもイライラして、余裕がありません。
私の姿が、少し見えないだけでも大騒ぎするし、トイレやお風呂の中まで付いて来ようとするのは、勘弁して欲しいです。
私が、他の人と喋るだけで、機嫌が悪くなるし、私を護衛してくれるシンロク様や、側近のカーシル様さえ、私に近付くのを嫌い、誰の事も信用しません。
それも、これも、私が誘拐されて、死にかけた事が原因だとわかっているけれど···
ちょっと、度が過ぎているのは、否めません。
それに前は、私が夢にうなされていたけれど、最近は王様の方が夢にうなされています。
夜中、何度も私の名を呼びながら飛び起きるので、毎日ビックリして、私まで飛び起きて、2人してちょっと寝不足気味になっています。
このままじゃいけないと思い、私は、お医者様に相談する事にしました。
2人でアルバ先生にカウンセリングしてもらいます。
どうすれば、王様の気持ちが落ち着くのか、2人で、真剣に話を聞きました。
そして、アルバ先生に、私達の話を聞いてもらいました。
先生によると、王様の不安は、やっぱり【番】が大きく関係していて、私が王様の竜心を受け入れて、結婚してしまえば、落ち着きますと言われました。
ただ、私はまだ5才なので、竜心を受け入れるには、器がまだ未熟だし、竜心を受ける事によって起こる、身体の成長、気持の変化、そういったものを、受け入れる覚悟が、私に必要らしいのです。
例えば、竜心を受け入れると、私の身体は一気に成人してしまうそうです。
身体が大きくなり、初潮も始まって、竜王を受け入れられる身体になるそうです。
それって、S○Xが出来るようになるって事ですよね·····
私の顔が青ざめました。
ちょっとまだ怖いです·····
自慢じゃありませんが、前世でも経験無しの私·····
大学出て、就職して、最初に、女たらしの節操無し社長に出会ったせいで 男性不信になってしまいましたから。
不安しかありません。
そして、心も共有するようになるのです。
お互いの気持ちがわかるようになるし、相手が今何処にいるかも感知出来るようになります。
魔力封じなんて、嵌められていようと、関係無いそうです。
お互いの全てを共有するようになるそうです。
喜びも、悲しみも、痛みも、寿命さえ同じになるそうです。
アルバ先生の説明を聞いているうちに、私は、どんどん怖じ気付いてしまうのでした。
どうすればいいのでしょう?
王様を助けたい。
でも、まだ、竜心を受けるのは怖い。
私は頭を抱えました。
◇ ◇ ◇
カウンセリングから数日がたちました。
王様は、
「無理しなくていい。」
と、言って、私の気持ちを一番に考えてくれます。
王様も苦しいだろうに·····
取り敢えず、私はなるべく、王様からはなれないように、毎日ベッタリと王様に張り付いていました。
少しでも、王様の気持ちが、落ち着きますように·····
その日も、王様の執務室で、
王様の膝の上に座って、仕事を見ていたのですが、昨夜も王様が夢にうなされて、何度も起きるので、その日、私はとっても眠かったのです。
で···ウトウトと、王様の膝の上で眠ってしまいました。
その時、
「キャーーーッ!!!」
マーサの叫び声が執務室に響いて、私は慌てて飛び起きました。
そこには、顔を真っ青にして、怒りで拳を握りしめている王様と、壁際にうずくまり、ガタガタと震えるマーサがいました。
「シェロン!」
カーシル様が慌てて王様の腕を押さえ付けて、必死に王様を止めています。
シンロク様がマーサに駆け寄り、王様の威圧から庇うようにマーサを守っているのが見えました。
一体、何が起きたの?
「王様!どうしたの?何があったの?」
私は執務机の上に乗り、王様の顔を両手で包み、こちらを向かせて、何とか王様に話しかけます。
「お願い、王様。私を見て!」
はぁはぁと息を荒げる王様。
私の呼びかけにはっとして、その大きな水色の瞳からポロポロと涙がこぼれました。
「ミラ·····」
1言そう呟いて、私を抱き締める王様。
私は王様を抱き締め返して、
「王様、私はここにいるよ。安心して。」
そう言って、何度も話しかけました。
しばらくすると、知らせを聞いたアルバ先生が、執事のジョナサンに案内されて、執務室にやって来ました。
先生は周りの状況をぐるっと一通り確かめると、シンロク様にマーサを医務室に連れて行くように指示を出し、王様をソファーに横たわらせて、鎮静効果のある薬を飲ませました。
やがて、王様は落ち着いて目を閉じ、そのまま眠ってしまいました。
王様が眠るまで私はずっと王様の手を握っていました。
「いよいよ限界が来ているようです。このままだと、ミラ様を囲って、誰の目にも触れさせないようにするのも、時間の問題でしょうね。」
カーシル様が小さな声でそう呟きました。
私は、眠っている王様の顔にかかる前髪をそっとはらいました。
「これ以上、王様が苦しむのは、見たくないです。」
私の口から思わず本心が漏れます。
「ミラ様··· 」
「だって、このままだと王様、いつか、誰かを殺しちゃうかもしれません···そんな事になったら王様の心が死んじゃう·····」
そんなのは嫌だ。
私は何時だって王様には笑っていて欲しい。
私に向ける、とろける笑顔が、私は大好きだから。
「アルバ先生。今の私の小さな身体でも、竜心は受けられるんですよね。」
アルバ先生の目を見て、問いかけました。
「はい··· ですが、急激に身体が成長する為激痛があります。ミラ様はまだ5才。最低でも10才から13才位の成長をすることになります。その分、痛みも酷く、長くなると思われます。ミラ様が、一晩、それに耐えられるのかどうか、もしかしたら目覚めなくなる可能性もあるのです。とても危険な行為には、違いありません。」
アルバ先生が、心配そうに答えました。
「一晩だけでしょう?これから何日も何年も苦しみ続ける王様に比べたら、一晩位、何てことありません。耐えてみせます。」
なんたって、心はアラサーですからね!
女は根性!
耐えてみせましょう!
そうして、私は、王様の竜心を受け入れる決心をしたのです。
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