私のかわいい婚約者【完結】

nao

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8 誘拐

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その日、私は いつものように図書館で本を借りて、帰宅の為に馬車停に向かっていました。すると 庭園の方から 女性の悲鳴が聞こえてきたのです。

オリバーとロティと3人で、慌てて声のした方に向かうと、庭園の奥にあるガゼボで 一人の令嬢が男性に覆いかぶされ、襲われていたのです。

オリバーが男を令嬢から引き剥がし、拘束しました。

私とロティは ガタガタと青ざめて震えている令嬢を抱きしめて、背中を撫で、「大丈夫、大丈夫ですよ」と声をかけながら 令嬢を慰めます。

オリバーに拘束され、地面に押さえつけられている男は、ツバを飛ばしながら離せと喚いています。

オリバーにうなづくと、オリバーは男を引き立てて警備室に向かいました。

私の腕の中で涙を流して振るえている令嬢はずっと「ごめんなさい」と私に謝っています。
私は「大丈夫ですよ」と令嬢を慰め続けました。

すると、茂みの奥から数人の男が現れ、瞬く間に私と令嬢とロティの3人を縄で縛り、大きな麻袋を頭からかぶせて担ぎ上げ、私達は連れ去られてしまいました。

(どうして?何が起きているの?)

頭が混乱して、どうすればいいか解りません。

「エリオス様!助けて!」

大きな声で叫んだ途端、強くお腹を殴られ、痛みでそのまま気絶してしまいました。


✢✢✢


寒い…
寒さに身震いし、目が覚めると そこは牢の中でした。

「ここは何処?」

声がかすれる… 

「お嬢様!目が覚めましたか?お怪我はありませんか?」

心配そうな顔ををしたロティが 私を覗き込んでいました。

「ロティ…」

身体を起こそうとして お腹に痛みが走ります。
物凄く痛い。
骨が折れているかもしれない…
幸い、拘束は解かれていました。
私はロティに手伝ってもらって身体を起こし、周りを覗いました。

石の床に鉄格子、高い位置に小さな明かり取りの窓が見えます。そこにも鉄柵がはまっていました。

あの時襲われていた令嬢も同じ牢に入れられていました。
まだ気を失っている令嬢に声をかけます。

「あなた!しっかりして、大丈夫?」

彼女の肩を叩きながら、「起きて」と必死に話しかけました。
やがて、彼女の瞳がうっすらと開いて…

「モルガン令嬢?」

「えっ? あなた私の事を知っているの?」

「あっ…いえ…あの………」

戸惑い、答えに詰まる彼女。
すると、鉄格子の向こうに見える階段から うっすらと明かりが差し、誰がが下りてきました。

「お目覚めですか?お嬢さん方。」

男が数人 私達に向かってニヤニヤと嫌な笑いをむけています。

「貴方達は誰です?私達をどうするつもりですか?」

「いやー チョットばかし依頼を受けましてね。お嬢さん方にはこれから天国へ行ってもらいます。あぁ、死んでもらうわけじゃありません。薬を飲んで いい気分になってもらうだけですよ。」

天国?

「私達をこのまま帰しなさい。何もしなければ このまま見逃してあげましょう。誰に頼まれたのかは知りませんが、その倍 支払う事を約束しましょう。これでもモルガン商会の一人娘です。お金はすぐにでも用意します。」

声が振るえないように お腹に力を込めて、毅然として、リーダーとおぼしき男の目を見て言いました。

「あーははははは… とても魅力的なお話ですが 相手の言いなりになってコロコロ依頼人を変えてたら 信用が無くなるのでね、お嬢さんには 悪いですが、諦めて下さい。」

そう言って、笑いながら 後ろにいた男達に目配せすると、おもむろに 男達が牢の中に入って来て、私達を次々と羽交い絞めにしていきます。

私達3人の抵抗も虚しく、私達は 男達に拘束され、跡が残りそうな程強く下顎をつかまれ、男がポケットから取り出した小瓶の蓋を開けて 私の口に無理矢理 謎の液体を流し込みました。

吐き出したいのに、口をしっかり押さえられ、喉があらわになる様に上を向かされます。そして、私は抵抗も虚しく、ゴクンと嚥下してしまいました。

「お嬢様!」

ロティの叫び声が聞こえます。

「いや!やめて!話が違うわ!私の事は逃がしてくれるはずだったでしょう!」

令嬢が何か喚いています。彼女は彼等の仲間だったの?

身体に力が入らなくなってきます。
何とかしなければ…
このままでは 私達は…
エリオス様…

私はドレスのポケットを探り、護身用のエリオス様から持たされていた 発煙筒を握り込みました。


「これはね、発煙筒と言って 危険が迫った時や 誰かに居場所を報せたい時に手軽に使える狼煙のような物です。この棒の先を硬い物に擦り付けると、大量の黄色い煙を出すんですよ。何処からでも見えますし、強烈に匂いが臭いんですが、相手も怯みますからね。」

エリオス様の言葉を思い出します。
持っている発煙筒は3本 
私はその全部を石床に擦り付けました。

「うわーーーーっ!」
「何だよ これ!」
「くせーーーーっ!」
「涙が……」


小窓から煙が外に流れて行くのが見えます。
お願い、誰か見つけて、エリオス様!



✢✢✢


袖口で鼻と口を押さえて 部屋の隅に小さくなって、ロティと身を寄せ合っていました。
男が喚きながら 私の腕を掴み、怒鳴り散らします。

「くそーーーっ!!何だ これは!!」
「お前!何をした?!」

そう言って 男が私を殴りました。
拳で顔を殴られて 頭がクラクラします。
口の中が切れたのか、血の味がしました。

さっき飲まされた薬のせいで、息が荒くなり、クラクラと目眩がして、何も考えられません。
お腹の奥がギュッと締め付けられるようでとても苦しくてたまりません。

エリオス様
エリオス様
エリオス様

助けて…



その時、ドーーーンッ!!!!!という大きな音と共に、何人もの人が、牢になだれ込んできました。

「カトリーヌ!!」

愛しい人の声がします。

「カトリーヌ!しっかり!」

あぁ…エリオス様…来てくれた…
彼の胸に縋りつき、私を抱き締めてくれる 力強い腕に身を委ねます。
息が上がります。
身体が熱い…心臓がうるさいくらいに脈打っています。

「エリオス様…私…薬を飲まされて…」

エリオス様は、全てを察したように私を抱え上げ、急いで 地下から出て、馬車に乗せてくれました。
すぐに扉に鍵をかけ、馬車を発車させると、強く強く私を抱き締めてくれました。

顎を掬われ 口づけられます。
強く 激しく 口内を貪られます。
でもまだ足りない。
もっと、もっと、もっと…
エリオス様が欲しい…

走り出した馬車の中、私はエリオス様に縋りつき、もっと、もっと激しくと はしたなく 口づけを強請りました。 
エリオス様は そんな私を力強く抱き締めて、私の求めるままに、口づけをしてくれました。

しばらくすると、馬車が止まりました。
エリオス様が御者に指示を出し、御者が何処かに走っていく気配がしました。

しばらくすると、小窓が開けられ、誰かが小瓶をエリオス様に渡しました。
ほんの少し離れる事も我慢できない私は、ずっと エリオス様に縋りつき、彼の名前を何度も呼び続けました。

「カトリーヌ、大丈夫です。ずっと側にいますから、大丈夫…大丈夫です。」

そう言いながら、エリオス様は 小瓶の中身を口に含むと、口移しでそれを私に飲ませてくれました。
私は貪るようにその薬を飲み干しました。
すると、少しづつ、少しづつ、私の中から熱が冷めてゆくのがわかりました。
そのうち、私は、エリオス様の腕の中で、気を失うように眠りにつきました。




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