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「令嬢たち」(S王妃 エリザベス)
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アルベルトはとても可哀相な子である。私は、一人しか子を産めなかった為 あの子一人に王家の重責を追わせる事になってしまった。
あの子を産む時、腹を切らねばならず、その時、病が見つかり、子宮を取り除いた為 二度と子の産めない体になってしまったのだ。私は王妃として、王に 側妃を娶り 第二子 第三子を設けるように進言したが、王は 「愛してもいない娘を抱く気は無い」そう言って私一人を愛して下さった。もちろん女としてこれ以上幸せな事はない。だが そのせいで あの子をたった一人の王子にしてしまった。
あの子が10歳の時、しっかりした後ろ盾を付けてやらねばと思い、筆頭公爵家の令嬢を婚約者とした。だが、長ずるにつれ 二人の仲はとても良好と言えるものではなくなっていった。良い関係を築けないまま、学園であの娘と出会ってしまう。あの頃のあの子は周りが何も見えなくなっていた。恋は盲目とはよく言ったものだ。そのせいで、あの子は最悪の選択をしてしまう。それから後は、あっという間だった。あの子の人生が壊れてゆくのを誰も止める事が出来なかった。傷つき、すっかり女性不信になり、執務室に引きこもってしまったあの子の評判は地に落ちた。社交に関わる全てを拒み、ひたすら仕事だけをこなす日々、顔色は悪く、眠る事も出来ない状態が何ヶ月も続いた。「女運最悪王子」「引きこもり王子」「やらかし王子」私の耳にも入るほど、社交の場での噂は酷いものだった。あの子が笑い者にされているこの最悪な状況をなんとかする為に色々と手を尽くしたが、どれも あの子の救いにはならなかった。王には再度、側妃を求める声が上がり、王子を廃太子にと言う声まで上がる始末。私達はただ、息をひそめて噂が忘れられる事を待つ事しか出来なかった。
あれから10年、いまだにあの子を揶揄するような言葉を聞く事もある。何も知らない若い令嬢か知ったかぶりであの子の事を噂しているのを聞くと、捻り潰してやりたい衝動に駆られる事もある。10年経ってやっとあの子も少し外に出て来るようになって、ほっとしていたが、王があの子を結婚させると宣言した。あの子は何も反抗する事なく受け入れた。この婚姻が吉と出るか?凶と出るか?私の心配は尽きない。遠い 小国メルディスから迎え入れた王女も決して評判の良い娘ではなかった。どうして陛下はあのような王女をあの子の相手に選んだのか?王女のお披露目の夜会で、本当に10年ぶりにあの子の着飾った姿を見た。思ったより元気そうにしている。王女をエスコートする様子も問題無いようだ。元々 見目良く、美形と評判のあの子だ。会場の者達、特に若い令嬢や、夫人の色めき立った様子は一際目立った。寄こされる色めいた視線を冷たく交わし、王女に笑みを向けてエスコートしている。王女もとても悪い噂が有るような少女には見えなかった。上手く行きそうな様子にほっと胸をなでおろす。全く、たった一度の夜会であの子の噂はひっくり返った。女運最悪王子から麗しい王子へ、やらかし王子から凛々しい王子へ、引きこもり王子から優秀で立派な王子へ、まったく現金なものね。あなた達がいくら持ち上げようと、私はあなた達があの子を悪く言っていたことを忘れないわよ。それからあの子はユリアーナと夜会に参加する事が増えた。そのたびに令嬢に囲まれて冷たい目をして嫌そうにしていたが、その対象がユリアーナに向けられる敵意に変わると、すぐさまあの子がユリアーナを守っていた。
あの子がたった一人でも女性に心を許している事がとても嬉しい。ユリアーナはとても可愛らしく、賢い王女だった。令嬢達の嫌味も軽くかわし、あの子と仲睦まじい様子を周りに見せている。今度こそ私はあの子を守ってみせる。あらゆる令嬢の毒牙から、あの子もユリアーナも守って見せるわ。まずはユリアーナの立場をもっと盤石なものにしなければ、この婚姻が私達 王家の総意であることを、あの馬鹿な娘達にしっかりとわかってもらわないと…そして 側妃や愛人の座を望む事が、どれ程愚かな事か思い知らせてやりましょう。今迄、あの子を馬鹿にしてきた事を後悔するといいわ…
あの子を産む時、腹を切らねばならず、その時、病が見つかり、子宮を取り除いた為 二度と子の産めない体になってしまったのだ。私は王妃として、王に 側妃を娶り 第二子 第三子を設けるように進言したが、王は 「愛してもいない娘を抱く気は無い」そう言って私一人を愛して下さった。もちろん女としてこれ以上幸せな事はない。だが そのせいで あの子をたった一人の王子にしてしまった。
あの子が10歳の時、しっかりした後ろ盾を付けてやらねばと思い、筆頭公爵家の令嬢を婚約者とした。だが、長ずるにつれ 二人の仲はとても良好と言えるものではなくなっていった。良い関係を築けないまま、学園であの娘と出会ってしまう。あの頃のあの子は周りが何も見えなくなっていた。恋は盲目とはよく言ったものだ。そのせいで、あの子は最悪の選択をしてしまう。それから後は、あっという間だった。あの子の人生が壊れてゆくのを誰も止める事が出来なかった。傷つき、すっかり女性不信になり、執務室に引きこもってしまったあの子の評判は地に落ちた。社交に関わる全てを拒み、ひたすら仕事だけをこなす日々、顔色は悪く、眠る事も出来ない状態が何ヶ月も続いた。「女運最悪王子」「引きこもり王子」「やらかし王子」私の耳にも入るほど、社交の場での噂は酷いものだった。あの子が笑い者にされているこの最悪な状況をなんとかする為に色々と手を尽くしたが、どれも あの子の救いにはならなかった。王には再度、側妃を求める声が上がり、王子を廃太子にと言う声まで上がる始末。私達はただ、息をひそめて噂が忘れられる事を待つ事しか出来なかった。
あれから10年、いまだにあの子を揶揄するような言葉を聞く事もある。何も知らない若い令嬢か知ったかぶりであの子の事を噂しているのを聞くと、捻り潰してやりたい衝動に駆られる事もある。10年経ってやっとあの子も少し外に出て来るようになって、ほっとしていたが、王があの子を結婚させると宣言した。あの子は何も反抗する事なく受け入れた。この婚姻が吉と出るか?凶と出るか?私の心配は尽きない。遠い 小国メルディスから迎え入れた王女も決して評判の良い娘ではなかった。どうして陛下はあのような王女をあの子の相手に選んだのか?王女のお披露目の夜会で、本当に10年ぶりにあの子の着飾った姿を見た。思ったより元気そうにしている。王女をエスコートする様子も問題無いようだ。元々 見目良く、美形と評判のあの子だ。会場の者達、特に若い令嬢や、夫人の色めき立った様子は一際目立った。寄こされる色めいた視線を冷たく交わし、王女に笑みを向けてエスコートしている。王女もとても悪い噂が有るような少女には見えなかった。上手く行きそうな様子にほっと胸をなでおろす。全く、たった一度の夜会であの子の噂はひっくり返った。女運最悪王子から麗しい王子へ、やらかし王子から凛々しい王子へ、引きこもり王子から優秀で立派な王子へ、まったく現金なものね。あなた達がいくら持ち上げようと、私はあなた達があの子を悪く言っていたことを忘れないわよ。それからあの子はユリアーナと夜会に参加する事が増えた。そのたびに令嬢に囲まれて冷たい目をして嫌そうにしていたが、その対象がユリアーナに向けられる敵意に変わると、すぐさまあの子がユリアーナを守っていた。
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