呪いの王女とやらかし王太子の結婚【完結】

「消滅」(Sアルベルト)

　彼女の瞳が、髪が、魔力が、彼女の全てが金色に輝いている。まるで希望の光だ。絶望的なこの状況で私達を救ってくれる希望の光。暗闇の中でうずくまる私を照らす光。私の胸の内に暖かいものが込み上げる。彼女はまるで女神だ。暗闇から私を引き上げてくれる女神。彼女の姿に心を奪われる。これは愛なんだろうか？私はもう一度人を愛することが出来るのだろうか…？
　あれほど大きかったダンジョンが空のブラックホールに全て吸い込まれ、役目を終えたかのように、それは小さくなって消えていった。ダンジョンのあった場所はただの広い平原となっていた。そこにいたすべての者達が呆然と、ダンジョン跡を見つめている。空にかざしていたユリアーナの手がゆっくりと降りる。そしてまるでスローモーションのようにユリアーナがその場に崩折れた。
「ユリアーナ！！」倒れ込む彼女の体を受け止め、そっと抱き上げる。ただ眠っているようにも見えるが体に魔力がほとんど残っていないようだ。すぐにでも彼女に魔力を与えないと。
「団長！私はこのままユリアーナを連れて城に戻る！魔導師団と、魔物討伐隊は残って後始末をするように！騎士団は護衛を！」
「殿下！すぐに馬へ！」
「後は頼んだぞ！」そう言ってユリアーナを抱いて馬に乗った。
「かしこまりました。殿下、お気を付けて。」皆に見送られて急ぎ私は城に向かった。腕の中のユリアーナは顔も真っ白で呼吸も少し浅い。体も冷たくなっている。このままではいけない、私はユリアーナの手に触れ自分の魔力を少しずつ流していった。ユリアーナに負担にならないよう少しずつ、少しずつ魔力を流してゆく。森を抜け、待たしていた馬車に乗り換え、王宮を目指す。その間にもユリアーナに私の魔力を与える。だが、なかなかユリアーナの中に魔力が吸収されずもどかしい。私は意を決して、ユリアーナの顎をすくい、小さな唇にそっとキスした。口移しで少しずつ、少しずつ魔力を流してゆく。口から喉へ、そして体内へ心臓へ、私の魔力がユリアーナの魔力と混じり合って体の中に広がってゆくのを感じる。ほんの少し、ユリアーナに体温が戻り、真っ白だった顔に赤みが指す。
「良かった…ユリアーナ。」耳元で小さくその名を呼ぶと、ユリアーナの瞼がフルリと震えたような気がした。そのまま私はユリアーナを抱きかかえ、時々魔力を流してやりながら王宮への道を急いだ。