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「討伐」(Sアルベルト)

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「討伐ですか?」不安な気持ちを隠そうともしないユリアーナに私は何でもない事のように説明してゆく。
「ああ、最近西の森で魔獣の発生が増えているようで近隣の街にも少なからず被害が出ていると報告があったのでね。調査も兼ねて、出かけることになったんだ。来週早々にも出発する予定だ。」
「大丈夫なのですか?」少し不安な様子でユリアーナが尋ねる。
「ああ、今回は私の第二騎士団、魔物討伐隊である第四騎士団、そして魔導師の第五魔導師団も参加する大掛かりなものだからむしろ安全なんだ。」私は彼女をなだめるように、彼女の手を取り 安心させるように説明する。すると、
「私も行きたいです。ダメですか?」彼女の手を取っていた私の手を逆に両手でしっかりと握りしめて、上目遣いで懇願される。潤んだ瞳で見つめられて、ダメだと言えなくなってしまう。
「絶対に私から離れないと約束出来るなら…」
「出来ます!くっついて離れません!」
そう言って私の手を握っていた手に更に力がこもる。(かわいい…)ハッとして空いているもう片方の手で口元を押さえて彼女から視線を外す。思わず口に出しそうになってしまった。少し顔が赤くなっているような気がする。落ち着け私…ゆっくりと深呼吸してもう一度彼女に向き合う。彼女と目が合う、うん、大丈夫、落ち着いている。私は年長者らしく大人の笑みを向け、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「それでは、来週頼んだよ。君が行ってくれるとこちらも助かる。詳しい日程は明日、ロイに持って行かせるから確認しておくように。」
「はい、殿下。」嬉しそうにそう答え、彼女が執務室から出ようとする。彼女の手がゆっくり離れていくのがなんだか名残惜しくてもう一度彼女の手を掴みこちらに引き止める。
「ユリアーナ、そろそろ私の事はアルベルトと呼んでくれないか?私達が夫婦になって一月になるし、いつまでも名前を呼んでもらえないのは寂しいから…」何を言っているんだ私は?!いや、でも、私は彼女を妻としてとても好ましく思っているし、名前で読んでもらうくらい夫婦として当たり前だよ…な?自分の中でなんとか正当化して彼女を見ると、恥ずかしそうに顔を真っ赤にして小さな声で「はい、アルベルト様」そう答えてくれた。嬉しい…彼女のやわらかい 優しい声が私の名を呼ぶ。とても心地よくて心の中に暖かい火が灯るような気がした。彼女を大切にしよう。この小さな女の子を私の持てる力の全てで守っていこう。そう思いながら、執務室を後にする彼女を見送った。
 そして討伐の日。今日は朝から馬で西の森に向かう、私と同じ馬でと思っていたのだが、ユリアーナに断られてしまった。今までも討伐に出ていたので一人で馬に乗れるそうだ、少し残念に思う…そう少しだけ…
 西の森はその名のとうり、王都の西の端に位置しており、普段は王族や貴族が狩りをしたり、散策をしたりしている小さな森だ。ところが最近ここから魔物が街の方にまでやって来ると、討伐依頼があった。最近 ホーンラビットや、ワイルドボアなどが現れて、畑や民家を荒らしに来るらしい。彼女に最近の森の様子を説明しながら森の奥へ進んでゆく。
「森にエサが無いのでしょうか?そうは見えませんが…」一見した感じ森の実りは豊かそうに見える。ユリアーナが周囲に検知魔法を張り巡らせ魔物がいないか索敵してゆく。
「500M先にワイルドボアの群れがいます。」ユリアーナの示した先に比較的小さなワイルドボアの群れが姿を現す。全員で次々と仕留めてゆく、全部で10頭程の群れを討伐し更に先に進む。時々 ホーンラビットや、ワイルドキャット、ブラックウルフなどが現れるが全て危なげなく討伐されてゆく。ユリアーナも自分にかかってくる魔獣を手際よく仕留めている。国でも討伐に出ていたというのは伊達ではないようだ。
「討伐に慣れているんだね。とても手際がいい。」そう言ってユリアーナを褒めると少しはにかんで、
「討伐の仕方や、素材の取り方、魔獣の癖や習慣など全て 祖父に教わりました。膨大な魔力を無駄遣いするなって…」
「素敵なお祖父様だね。」
「はい。尊敬しています。」そんな会話を交わしながら奥へ進むと、なんだか周りの空気が、重く嫌なものに変わってきた感じがする。妙に気持ちがザワザワして、居心地が悪い。他の者達も同じように感じているのか 皆警戒レベルを上げてゆくのがわかる。更に奥へ進んでゆくと、そこには、真っ黒で大きな穴のようなものが姿を現した。
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