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31、決着

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「やるじゃあねえかッ! いつまでもバカ正直なところが心配だったけど、こんな手段も使えるようになってたとはなッ!」
 オレの拘束から脱出した炎乃華は、地面にキレイに着地していた。
 仁王立ちのまま、動かない。
 風が吹いた。夕焼けの赤が染める世界で、ツーサイドアップの黒髪がなびく。
「……本当にもう、私の身体はボロボロよ」
 ふたりだけの、時間が流れた。
 お互いにオレたちは、正面から見つめ合っていた。
「次が、私の最後の一撃になるわ」
「……だろうな」
「たぶん、恐らく、マイティ・フレアとしてあなたに放つ……最後の技よ」
 ゼルネラ星人のオレには、地球人の感情がいまひとつ理解できないところがある。
 炎乃華は柔らかに微笑んでいた。きっと彼女は気付いている。自分が『正義のヒロイン』としていられる時間が、終わろうとしていることに。
 オレとのこれまでの関係を、炎乃華はもしかしたら感謝してくれているのかもしれなかった。
 それでいながらボロボロと、大粒の涙を流していた。
 なぜ笑いながら泣いているのか、どんな感情が彼女の胸に去来しているのか――。
 オレには最後までわからなかった。
「……さよなら、だね」
「そうだな」
「いくよ。これを耐え切ったのなら、あなたの勝ちだわ」
「……耐える、とは限らねえぞ。かわす可能性だってある」
「あなたは受け止めてくれるって……信じている」
 炎乃華は両腕を、胸の前でクロスさせた。
 シアンを倒した一撃の、態勢だった。フレアブラスターの3倍もの火力。炎乃華にとって、最大最高の威力を誇る必殺光線。
 あの技ならば、炎のマナゲージで相殺できない今のオレを、十分倒すことができるだろう。タフさには自信があるオレも、さすがにアレはキツイ。
 だがかわしてしまえば……それで終わりだ。
「3Fブラスタぁ――ぁぁぁッ‼」
 両腕とマナゲージ、3箇所から集結した業火の渦が、オレに向かって殺到してくる。
 炎乃華。やっぱりお前は、素直すぎるよ。オレを信じすぎている。
 喰らっちゃマズイとわかっている技を受け止めるほど、オレは甘くない。優しくもない。
 真っ直ぐに伸びてくる炎を、オレはギリギリで身を捻って避けた。
「っ……!」
「……悪いな」
 灼熱の塊が、オレの横を通り過ぎていく。高熱の余波が脇腹を叩く。
 ゆっくりとオレは歩を進めて、その場からピクリとも動かない深紅のヒロインの眼前に立った。
 全ての力を出し尽くした炎乃華は、大きく両肩で息をしている。
 まだ涙の乾いていない瞳で、じっとオレを見ていた。もう拳ひとつ、放つ余裕もないだろう。立っているだけでマイティ・フレアは限界だった。
「じゃあな、炎乃華」
 決着の一撃を打ち込むために、オレは拳を握りしめる。
 もうこれで、本当に終わりだ。炎乃華を失神させて、オレは終わらせるつもりだった。角度をつけて顎を跳ね上げ、意識を刈り取る。いくら根性のある『正義のヒロイン』でも、気絶すれば二度と立つことはできない。
 ジリ
 背中に違和感を覚えたのは、打撃を放つ寸前だった。
 いや、違う。これは違和感なんかじゃねえ。熱さだ。焦げているんだ、オレの背中が。
「なッ……!?」
 戦慄が背筋を駆け登るのと同時に、オレの全身を灼熱と衝撃が包み込んだ。
「ウオオッ……!? オオオオッ――ッ!」
 天地を揺るがすような絶叫が響く。叫んでいるのはオレだった。
 最強であるはずのオレが、薄れゆく意識のなかで痛々しい咆哮をあげていた。
 グラリと傾く視界のなかで、オレは反射的に背後を振り返る。炎が、飛んできた方向を。かわしたはずの炎乃華の必殺技が、なぜオレに当たるのか。
 オレの後ろに立っていたのは、岩石が合体したような黒い巨獣だった。
 〝漆黒のリベンジャー〟ゼネット。攻撃してきた相手に、カウンターを返す習性を持つ者。
 そうか。炎乃華の台詞が蘇る。『私は構わない』『複数の敵に襲われたって、卑怯だなんて言わない』……
 そういうことかよ。だから、1対1じゃなくてもいい、なんて言うわけだ。
 炎のマナゲージを持たないオレにとって、炎こそは唯一最大に威力を発揮する攻撃だった。
 ブスブスと焦熱に焼かれながら、オレの意識は深い虚無に飲み込まれていく。
 地球を守る巨大ヒロインが、宇宙最強のゼルネラ星人に勝った瞬間だった――。
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