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「第十話 桃子覚醒 ~怨念の呪縛~ 」
16章
しおりを挟む「ほう。どうやら、面白い趣向を思いついたようだな。やってやれ」
無言のジュバクの言葉が、青銅の魔人だけには聞こえるのだろうか。
光輪の回転が急に止まる。と同時に、桃色の天使から渦を巻いて天に伸びていた、光の放出も止む。あとに残るのは、破れ裂けた皮膚から血を流し、美貌を死者のように凍らせた瀕死の少女戦士。
しかし、逆転の可能性も、闘う力も皆無となったサクラへの暴虐は、これで終わりではなかった。
「ふぇぐ・・・ふぇあああッッ・・・・・・ひぐッ・・・ぐううッ~~・・・」
魔の光輪がアメーバのように分裂と再生を繰り返し、サクラの肢体に絡みながら変形する!
一文字に緊縛されていた愛らしい少女は、徐々に大の字に広げられていった。そのか細い腕にも、締まったウエストにも、プルンとした太腿にも・・・小型化した緑の光輪がビッシリと食い込み、呪縛をさらに緊密にしていく。
首から下、余すところなく光輪に締め付けられた桃色の虜囚は、ぐったりと弛緩した肢体を大の字に広げて、磔状態のまま宙に浮かんでいる。
「人類め、とくと見るがいい・・・ファントムガール・サクラの、無惨な最期を」
胡坐をかくミイラが念を込めた瞬間、サクラの手足の部分に食い込んだ光輪だけが、発光しながら回転を始める。
ギリ・・・ギリギリ・・・メチッ・・・・・・
両手両脚を凄まじい勢いで引っ張られる激痛に、たまらず端整な美貌がビクンと跳ね上がる。
「くあああッッ・・・ぐうッ・・・ま、まさ・・・かァァァ・・・・・・」
半分意識を失っているサクラの脳裏に、凄まじい恐怖が殺到する。千切れそうな四肢の痛み。まず間違いない、悪魔の思惑。己に近付く悲劇を前に、イマドキ美少女の心がボロボロと崩れ落ちていく。
「そ・・・んな・・・や・・・めてェ・・・・・・うああッッ?!!」
ビチイッ!・・・メチメチメチ・・・ゴキキッ・・・
肩の腱が悲鳴をあげ、股関節が不気味に鳴る。
抵抗するのが虚しいほどの、凄まじい力であった。魔の緊縛が、少女戦士の手足をもがんと強烈に引っ張る。体力、筋力、光の力、サイコのエネルギー、そして精神力・・・全てを奪われたファントムガール・サクラにできることは、ただ悲痛な声で泣き叫ぶのみ。
「ああッ・アアアッッ~~~ッッ・・・う、腕がァァッ~~~ッ! あ、足・・・がアァァッッ~~~ッ!! ちぎッ・・・れェッッ・・・へぐううッッ!!・・・ひゃッ・・・ひゃめッッ・・・ひゃめてェェェッッ~~~ッッッ!!!!」
「ハッハッハッハッハッ! 愚かな蛆虫め、喚けッサクラッ!!」
ゴキンッ!! ボギッ!! ブチチッ!! ボゴンッ!!
「いやああああああああアアアッッッ――――ッッッ!!!!」
サクラの両肩と両脚が、脱臼した。
手足をバラバラに切り離される、壮大な悶痛。肩関節ひとつ外れるだけでも失神しそうな激痛が襲うというのに、アイドル少女に執行された破壊劇は一度に4箇所、それも余程のことがないと外れない股関節を含めて、無理矢理に引き抜いたのだ。桃色天使の脳髄を直撃する極大の苦痛は、少女が正気で耐えるには凄惨すぎる。
それでもまだ、四肢を引っ張る力は止まない。骨格を引っこ抜いただけでは飽き足らず、肉や皮膚ごと千切りとってしまおうとでもいうのか。
「やめてええええェェェッッッ――――ッッッ!!!! 痛いィィィッッ―――ッッ!!! ダメェェ~~~ッッ、もうダメッッ!! あたし、もうダメェェェッッ~~~ッッッ!!!!」
「正義の戦士ともあろうものが、なんとも醜いな、サクラよ! やれジュバク、地獄を見せてやるのだ」
緑の光輪が、さらに新たに現れ、サクラの身体に食い込む。
だが今度の輪は、ぷるぷると柔らかいサクラの肉に食い込んだのではなかった。輪が締め付けたのは、胸でわずかに点滅している青い水晶体。光の貯蔵庫であるエナジー・クリスタルを魔の光輪は締め付けたのだ。
「ひああッッ?!! ひあああッッ・・・ああああァァァッッ~~ッ・・・・・・」
「どんな地獄が待つか・・・わかったようだな」
悲愴な表情を浮かべたまま、ブルブルとかぶりを振る可憐な美貌。
絶望的な美戦士の嘆きをBGMにして、ジュバクの光輪が発光しながら回転する。
光の生命エネルギーを、搾り出し、放出しながら。
「きゃあああああああうううううううッッッ―――――ッッッ!!!!」
夏の空にこだまする、永遠とも思える魂切る絶叫が、ファントムガール・サクラの壮絶な惨敗を地上で見守る人類に知らしめた。
ヴィ・・・・・・・・・ン・・・・・・・・・
緑の光輪に全身を締め付けられたまま、大の字で宙に晒された敗北少女の桃色の肢体が、消え入りそうな水晶の点滅音を発する。
なだらかに盛り上がったバストに食い込んだふたつの輪。その間に挟まった青色のエナジー・クリスタルは、まだ光を失ってはいなかった。残り火のような頼りない輝き。それはサクラに敢えて残されている、最後の生命の炎であった。
「貴様ごとき弱き蛆虫がこのオレを倒すなどと・・・身の程を知ったか、サクラよ?」
鮮やかなピンクのストレートを青銅の手が鷲掴み、可憐な美貌をグラグラと揺り動かす。苦痛に歪んだまま硬直した銀色のマスクは、なんの抵抗も示すことなく前後左右に揺れ、半開きになった果実のような唇から、吐血の破片がビチャビチャと大地に降っていく。
ギリギリの生を与えられ、死すら許されないまま責め続けられるファントムガール・サクラは、もはや被虐の人形に過ぎなかった。
「トドメだ。震えて声も出ない人間どもに、ありったけ酷い姿を見せてやるがいい」
反撃の力も満足な生命力もない、とうにトドメなど刺されたも同然のアイドル戦士に、三日月に笑う魔人が処刑宣告を下す。
掲げた右手。陽炎のように噴き出した漆黒がみるみる集結し、濃密な闇を形成していく。
一度は失敗したメフェレスの新たなる必殺技。一点に掻き集めた闇の力を、高出力で放つ暗黒の破壊弾。身動き不能、されるがままに暴虐を受けるしかない可憐な美少女戦士に、負のエネルギーを凝縮した強大な暗黒弾を撃ち込もうというのか。その気になれば敗北の虜囚の命など簡単に奪えるはずなのに、尊大な闇の王は無抵抗の少女戦士を、必要以上に破壊にかかる。
オオオオオオオオオオオオ・・・・・・
亡者の慟哭。怨念の魔弾。
憎悪、憤怒、嫉妬、肉欲、征服欲、嘆き、狂気・・・ありとあらゆる負のエネルギーに溢れた漆黒の闇が、青銅の右手の上で揺れ踊る。
「ハッハッハッハッハッ!! 弾け飛べッッ、ファントムガール・サクラッッ!!」
高密度の暗黒エネルギーが球体となり、至近距離から放たれた闇の砲弾が、唸りをあげてサクラの腹部に殺到する。
暴虐の嵐に沈み、呪縛に囚われた桃色の美少女戦士に、脅威を避ける手段など、あるはずはなかった。
ズズドボボボオオオオオオオッッッ!!!
「ごぶうううううううううッッッ―――ッッッ!!!! ぐうううッッッ・・・ウア・・・アアアアアッッ~~~ッッ!!・・・・・・」
大量の吐血が、サクラの唇を割って出る。
暗黒弾を受けたお腹にはクレーターのような真っ黒な窪み。闇によって腐敗した皮膚が、ボトボトと膿状になって落ちていく。光の肉体を滅ぼしていく暗黒の瘴気。砲弾の衝撃が銀の皮膚を、柔らかな肉を吹き飛ばし、侵食する闇が聖なる光を食い尽くしていく。
「ひッ・・・ヒイイッッ?!」
固唾を飲んで見守る人々の群れから、大パノラマで繰り広げられる衝撃の映像に悲鳴があがる。
暗黒弾を直撃されたファントムガール・サクラの腹部は、鳩尾からお臍の下辺りにかけて、銀とピンクの皮膚が弾け飛び、サーモンピンクの内肉がところどころ溶け落ちながら曝け出されていた。
神々しい5人のファントムガールのなかでも、美しさと可憐さを兼ね備え、最も愛らしいと評される桃色の守護天使が・・・ファントムガール・サクラが、腹部の皮膚を剥ぎ取られ、内肉を闇によってズルズルと溶かされている。無惨などという言葉では生易しい、あまりに凄惨な地獄の光景。
「ひくうッ!! ひぎッッ・・・!! ぎィッ・・・ぎあッ・・・アアアッッ・・・」
想像するだけでも発狂しそうな苦しみのなかで、哀れな美戦士は声にならぬ悲鳴を喘ぎ続けている。
ファントムガールのなかで、もっとも耐久力の低い少女、サクラ・・・その途絶えそうな意識は、洪水のごとき激痛に溺れ、埋め尽くされているはずだった。
「・・・おかしい。もっと破壊力があってもいいはずなのだがな」
腹部の内肉を剥き出しにした無惨なサクラを前にして、青銅の悪魔は再び右手に闇を凝縮し始めていた。
恐るべき悪魔は、痛切に流れる美少女戦士の苦悶の呻きを聞いて尚、その所業に満足していない。
「そういえば、こいつら忌々しいメスどもは、いつも技の名前を叫んでいるが・・・マネしてみるのも一興か」
サクラの惨状などまるで気にかけず、新たな技の開発にいそしむ魔人が、ひとつの実験を試みる。
技の名前を叫ぶ・・・それは一見無意味に見えて、『エデン』の戦士にとっては重要な意味を持つ行為。技に名前をつけることで、イメージは強固になり、破壊力は高まる。里美が発見したこの法則は、守護天使たちにとってはミュータント側には知られていない、ひとつの優位点であった。その秘密が、いま最大の敵に知られようとしている。それも、瀕死のサクラを実験台に使われて。
「ダッッ・・・・・・メッッ・・・・・・!!」
突然、悶絶地獄をさ迷うはずのアイドル少女が、意味のある言葉を発する。
「来ちゃ・・・ダッ・・・メェッ・・・・・・あたし・・・はッ・・・・・・もうッ・・・・・・」
「ククク・・・夢のなかでも責められているようだな。惨めなメスだ」
オオオオオオオオオッッッ・・・・・・
メフェレスの右手で瘴気のブラックホールが鳴動する。
ファントムガール・サクラ、処刑、執行。
容赦は、しなかった。華のように薫る美しき少女戦士に、再び濃密な闇の砲弾が逃げようのない距離から発射される―――
「食らえいッッ!! 『殲滅魔弾ッッ』!!!」
ドゴオオオオオオオッッッ!!!
蠢く魔の波動弾が、光輪の呪縛に動けぬサクラの右胸に炸裂する。
ブッパアアアアンンンッッ・・・・・・
銀色の胸の薄皮が、乳房の肉の一部とともに、鮮血にまみれて弾け飛ぶ。
ゴボオオオッッ・・・・・・・
瞳の光を失ったサクラの厚めの唇から、ヘドロのような血の塊が吐き出される。
ヒク!ヒクヒクヒクヒクッ・・・ビクビクッッ!!
小刻みに震える、変わり果てた美少女戦士。
光輪の締め付けから解放された桃色天使は、右胸と腹部の皮膚を剥がされ、血祭りにあげられた無惨な肉体を、ゆっくりと前のめりに傾けていく。
鮮やかなピンクの模様が乙女っぽさを演出していたサクラの身体は・・・いまや、流れ出る血と、剥き出しになった内側の肉の色で、ピンクに染め上げられていた。
大地に激突する寸前、破壊し尽くされた銀とピンクの肉体は、光の粒子となって八月の熱気に掻き消えた。
血臭漂う凄惨な処刑場に、勝者の三日月に歪んだ笑いが、いつまでも甲高く響き渡った。
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