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「第十話 桃子覚醒 ~怨念の呪縛~ 」
14章
しおりを挟む「ククク・・・処刑されると知りつつ、よく変身したものだな、サクラよ。正義を名乗る者の、哀しき宿命というところか。だがその愚かさのせいで、貴様は満天下に惨めな死に様を晒すことになるのだ」
傷だらけの肉体と足に力を込めて、銀とピンクの守護天使が震えながら構えを取る。
「壮絶に、散れ。そして貴様は、このメフェレス完全復活の贄となるがいい」
青銅の右腕が、満足に動けそうにない桃色の美戦士に突き出される。
正義の戦士ファントムガールが光を操るのならば、対となる闇の悪鬼が操るのは、暗黒の光線。
号砲が轟くとともに、漆黒の光弾が闇の霞を撒き散らしながら発射される。
世界に終末を引き寄せるような、恐怖と戦慄が濃縮した暗黒の光弾。
「フォ、フォース・シールド!」
咄嗟に両手を広げて突き出したサクラの前に、七色に輝く光の壁が現れる。
敵の攻撃から身を守る聖なるバリアは、五十嵐里美から教えられた技のひとつであった。あらゆる攻撃を跳ね返す、光の盾。エスパーの桃子にとっては、イメージで物質を創造するのは最も得意とするところだ。超能力戦士・サクラのフォース・シールドは、他の4人のものと比べても、その強度は段違いに高い。
しかし―――
「あッ!」
闇王の暗黒弾と桃色天使の光壁が激突した瞬間、果実のごとき唇から小さな叫びが洩れる。
最強の防御力を誇るはずのサクラのフォース・シールドは粉々に砕け散り、光膜を打ち破った黒弾が小柄な女神に直撃する。
全ての肉を粉砕するような、重々しい響きがこだました。
「きゃあああアアアぁぁぁぁッッ~~~ッッッ!!!」
甘みを帯びたサクラの声が、痛切に響き渡る。
負に満ちた漆黒で胸と腹とを焼け焦がされた肢体が、軽々と後方に吹き飛ばされていく。爆発のショックで青い瞳を点滅させた銀とピンクの戦士は、守るべき人類が造った家屋の群れに突っ込んでいった。
人々が避難した無人の住宅地、瓦礫のなかに埋まった巨大な美少女は、仰向けのままピクリとも動かない。ただ黒焦げになった胸と腹から生臭い煙が立ち昇り、青く光るエナジー・クリスタルから、ヴィーン・・・ヴィーン・・・という切ない点滅音が流れてくる。
超能力戦士の光の盾が、他の戦士より強度が高いのは確かであった。だが、それは万全の時に限っての話だ。いくら桃子の念動力が創った盾が強いといっても、リンチにより体力を消耗した今のサクラでは、満足な光の技を発動すること自体が難しい。屈辱の炎に燃え、聖戦士たちの破壊を渇望するメフェレスの闇に対するには、あまりに酷な状況なのだ。
「貴様ごとき弱者がこのオレに歯向かうこと自体が間違いだと悟ったか。だが、弱者を嬲るのは・・・愉快だな」
横たわる桃色の戦士に向かって、再び暗黒の光弾が号砲をあげる。
半失神においやられたサクラに、追撃を避けられるはずはなかった。
轟音。爆発と、噴煙。
「うあああああァァァッッ―――ッッッ!!!」
木の葉のように、銀とピンクの小さな身体が夏の空を舞う。
全身の傷口から新たな鮮血を迸らせ、輝く銀の肌を黒く焦げ付かせて。
大地が火花をあげ、粉砕された家屋の破片が八方に飛び散る。噴き上がる黒煙に高々と舞い上がったサクラの肢体は、深紅と汚泥で塗りつぶされていた。
「ああァァッ・・・・・・ああァァ~~・・・ぁぁぁッッ~~ッ・・・・・・」
キュルキュルと錐揉みしながら落下する美しき天使の口から、悲痛な呻きが振り撒かれる。
地獄に堕ちていく者の、哀れな訴えのように。
ろくに受身も取れないまま、血と焦げ跡と泥とにまみれた巨大なアイドル美少女は、頭からグシャリと住宅地に墜落していく。
手足がどこから生えているのかわからないほどに折り潰れた銀の天使と、無惨な美戦士を見下して哄笑する青銅の悪魔。
誰がどう見ても・・・この闘いの行く末は明らかだった。
「こ、殺される・・・あの桃色のファントムガールは殺されるぞ」
「ダメだ、弱すぎるぜ・・・」
「桃色のファントムガールじゃ、メフェレスには勝てない。早く他のファントムガールが来ないと」
遠巻きに巨大な闘いを見詰める人々の口から、絶望的な呟きが漏れ出す。
見守るしかない彼らの評価は、生活が懸かっているがゆえに切実であった。情報操作がなされ、一般人にはわずかな事実しか知らされていない守護天使たちの正体が、年端もいかぬ女子高生であるなどと知らぬ彼らは、ある意味ドライな視線で正邪の決戦を見ている。守護少女を応援しつつも、戦況の優劣には的確な判断を下していた。
巨大化変身する前に、卑劣な罠に堕ちたアイドル少女が蹂躙されているとは知らずとも・・・青銅の悪魔とピンクの天使、両者の間に大きな差が存在するのはハッキリ見えている。
ファントムガール・サクラはメフェレスには勝てない。
サクラを待ち受ける運命は・・・敗北、そして死。
闘いを見守る誰もが、超能力戦士の惨敗を確信していた。
ただひとりの例外を除いて。
"チャ、チャンスは・・・必ず・・・ある・・・ゼッタイ・・・諦めるもんかァ・・・"
サクラ=桜宮桃子、そのひと。
優しさゆえにもっとも戦士らしくない少女。度重なる残酷な仕打ちに、とっくに心折れ、跪いたとしてもおかしくない普通の女子高生。
しかし、この絶望的な状況のなかで、圧倒的な戦力の差のなかで、桃子だけはまだ勝利を諦めてはいなかった。許せない敵。許してはいけない相手を前に、戦士としてはあまりに未熟で甘すぎるはずの少女は、不屈の闘志をたぎらせて逆転のチャンスを窺っていた。
"あたしはもう・・・ボロボロ・・・フツウに考えたら・・・勝てっこ、ない・・・・・・でもォ・・・あいつらは・・・人質を、使えない・・・・・・チャンスは・・・ゼロじゃ、ない・・・・・・"
桃子が罠に嵌り、蹂躙を甘んじて受けねばならなかった理由。それは3人の強敵に囲まれたためではない。
養育施設の子供たちを、桃子を慕う愛らしい子供たち2人を、人質に取られたために反撃を封じられたのだ。仁義にもとる卑劣な策略こそが、桃子を窮地に貶めた。
もちろん現在でも2人の子供たちは悪鬼の仲間の手の内にある。生死の選択を悪魔どもに握られているのは確かだ。とはいえ、巨大化変身し、やや距離を置いた場所で闘っている現在、人質としての機能を果たしているかといえば疑問符が付く。久慈たちの狙いが桃子にあるのは言うまでもなく、いくら殺人に躊躇をしない神崎ちゆりであっても無意味に幼児を殺害するとは考えにくい。「闇豹」は残酷ではあるが快楽主義の殺人者ではないからだ。桃子を脅すことができない現状では、人質はその効力を完全に失っていると言っていい。
ならば・・・闘う自由がある以上、サクラにも逆転の可能性は残されている。
無論、たとえここでメフェレスに勝ったとしても、変身を解いた桃子には人質を取られた現実が再び突きつけられる。そうなれば恐らく、二度と逆襲に転じるチャンスなどなく、変態教師と女豹の手により、美しきエスパーは地獄の底へと葬られることだろう。
"それでも・・・・・・いいよ・・・この男・・・メフェレスさえ・・・倒せれば・・・"
心優しき少女が闘う理由を、敢えてひとつに限定するならば。
それは目の前で笑う、青銅の悪魔に言及できるはずだった。
頭から大地に落下し、身体を折り潰した桃色の天使を、嘲笑する悪魔が足蹴にする。
ぐったりと脱力したサクラの丸みを帯びた肢体は、大の字で仰向けに寝かされた。
「楽にはさせんぞ。たっぷりと喚き散らすがいい」
右手から放たれた暗黒光線が、細い一筋の線となって点滅する胸の水晶体を射る。
「きゃあアアッッッ・・・!!! うああッッ~~ッッ!!! ふぇあアアッッ――ッッ!!」
「ハハハハ、苦しかろう? 最大の弱点を対極の光線で射たれるのは。破壊などせんぞ、ジワジワと焼かれる苦痛に悶え踊るんだな」
聖なる光のエネルギーを貯蔵する胸の水晶体エナジー・クリスタルは、ファントムガールを動かす原子炉ともいえる場所。硬い水晶で守られているとはいえ、そこを攻撃されるのは、全細胞を、全神経を、いや魂自体すらも削られるのと同じ、激しい苦痛を生み出す。
"ああああッッ―――ッッ!!! か、身体がァァッ~~~ッッ!! あ、熱いィィッッ、と、溶けちゃうぅぅッ~~ッ!! 腐っていくぅぅぅッッ~~ッッ!!"
溶岩を臓腑に流し込まれ、ヘドロを血管に打ち込まれるがごとき苦痛。泥だらけの無数の腕で、内臓を掻き回される悪夢が桃子を襲う。四肢を、五臓六腑を、食い千切られ、焼き尽くされる煉獄。いっそ死ねたらいいのに、地獄の苦痛のみが永遠と続き、意識は解放されることはない。
「あくううッッ!! うぇああああ゛あ゛あ゛ッッ~~~ッッ・・・きゃうううッッ―――ッッッ!!!」
「悶えよッ! 這いつくばれッ! 聖少女とやらの無様な姿を愚民どもに見せるのだ!」
瓦礫の海で四肢を暴れさせ、背中を仰け反らせて巨大美少女が悶絶のダンスを踊る。腰を捻り、指を突っ張らせ、泥にまみれて這い回る美貌の女神。悪に弱点を射抜かれたまま、苦しみのたうつ天使の姿は、絶句する人類の目にはあまりに衝撃的なシーンであった。
「ククク、どうした? 貴様を裏切った憎いオレを倒すんじゃなかったのか? 身体を張って守ってくれた機械女の仇を取るんじゃなかったのか?」
足元で転がり回る桃色の天使を見下ろし、挑発的に悪鬼が叫ぶ。
錯乱しそうな苦痛に飲まれているはずのサクラの細い腕が、ブルブルと震えながら三日月に笑う黄金のマスクに向かって伸びていく。
その瞬間、勢いを増した漆黒の光線がクリスタルを穿ち、全身をビクンと波打たせたサクラの腕は、バタリと力なく茶色の大地に垂れ落ちた。
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