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「第九話 夕子抹殺 ~復讐の機龍~ 」
12章
しおりを挟む「ッッ?!! なッッ・・・・・・!!!」
信じられない光景をアリスは見た。
かつて黒魔術師マリーを両断した必殺の電磁剣。隠し技にして最強のアリスの切り札が、キリューの胸中央に生えた青い突起に吸収されていく。電撃を吸い取っていく悪魔の装置・・・ほどなくしてアリスの右肘から先は消失し、灰色の断面が剥き出しになる。
サイボーグ天使を分析し尽した鋼鉄のミュータントにとって、電磁ソードは脅威足り得る武器ではなかったのだ。
逆転を賭けた最大の必殺技をいともたやすく破られたアリスに、待ち受ける結末はただひとつ――
「ナゼ私ガ"キリュー"ト呼バレルカ、ワカルカ?」
機械兵士の尖った右手が、動きを止めたアリスの美仮面を鷲掴む。メシメシと悲鳴をあげる端整なマスク。小柄な天使の肉体が空中に浮かびあがる。
「"キリュー"ハ桐生ニアラズ・・・機龍ニアラズ・・・」
「はくッッ?!・・・あがッ!・・・・・・くはあッ!・・・」
「"キリュー"はKILL・ユー、KILL・夕子・・・ツマリ貴様ヲ殺スタメニ私ハ存在スルノダ」
"・・・私・・・を・・・殺す・・・・・・ため・・・の・・・そんざ・・・・・・い・・・・・・"
「処刑ノ時間ダ。有栖川邦彦ノ失敗作ヨ」
破壊の電撃が顔面からアリスの肢体を貫き刺す。
「うぎゃあああああああああッッッ――――ッッッ!!!!」
あられもない絶叫。クールな少女が許容を遥かに超えた高圧電流の注入に悶絶する。それは半分機械の肉体にとって、全身をなます切りにされるような壮絶苦。オレンジの戦士がビクビクと痙攣し、激痛の奔流に飲み込まれていく。仮面の表情は変わらぬまま、甘ったるい夕子の声が、獣のごとき悲鳴を天も割れる勢いで叫び続ける。
「ポンコツノ貴様ニハ、コノ電流地獄ハ大層堪エルヨウダナ?」
「フェアアッッ!!・・・ハアッッ!!・・・クア・ア・アッッ・・・・・・ハアッッ!!」
「貴様カラ借リテイタ電撃モ、マトメテ返シテヤルヨ」
顔面を鷲掴みにされたまま、右腕一本で空中に吊り上げられていたアリスの銀色の腹部に、キリューの胸から生えた青い突起が突き当てられる。
装甲天使からさんざん吸収した電撃が、一気にまとめて元の持ち主であるツインテールの女神に放出される。
バリバリバリバリッッ!!! バチンッッ!! バシュンッッ!!
「ああアアあああああああァァッッ~~~~~ッッッ!!!!」
オレンジの肢体が黄色に発光する。回路の千切れる音が響き、輝く銀の肌のあちこちが弾け飛ぶ。発狂しそうな苦痛のなかで、アリスは己の身体が爆破されていく音を聞いた。
"・・・・・・私・・・を・・・・・・殺す・・・・・・ため・・・に・・・・・・生まれ・・・・・・た・・・・・・"
キリューの右手がゆっくりと開かれる。
ドシャリ・・・糸が切れた操り人形のように鎧の女神が崩れ落ちる。瞳の光を失ったマスクの継ぎ目からはゴボゴボと白泡が溢れ出し、関節や弾けた皮膚からはシュウシュウと白煙が立ち昇る。天才と呼ばれる孤高の少女戦士にとって、その姿はあまりに無惨なものだった。
高圧電流に焼かれて昇天した装甲天使の脇腹に、ドリルと化したキリューの右手が突き刺さる。
ビクンと跳ね上がる、銀色の優雅な曲線。
弄ぶように・・・いや、実際にアリスを苦しませることだけが目的の破壊電流が、少女戦士の柔らかな肉の内に放電され、オレンジの女神は狂ったようにのたうちまわる。廃墟と化した無人の埋立地に、もんどりうつ女神の地響きと鈴のような絶叫がこだまする。
"・・・勝て・・・ないッ・・・・・・こいつには・・・私・・・は・・・・・・勝てないッ・・・・・・"
「苦シメ、苦シメ。コノ悶絶ブリヲ、アトデ父親ニタップリト見セテクレルワ」
綿密にデータを収集し、闘い方を研究し尽くした悪魔の機械兵士の前に、ファントムガール・アリスの攻撃も防御もまるで通用しなかった。電磁ソードすら容易く破られたサイボーグ少女に、もはや逆転の手段は残されていない。
ただひとつを除いては。
"・・・・・・あいつに・・・あの男に付けられた・・・・・・右腕の武器・・・を・・・・・・"
昨日、手術によって実の父より授けられた、新たな力。
機械兵士が、いや、アリス自身ですらいまだ知らぬ、右腕に仕込まれた新必殺技ならば、データを持たぬキリューに必ずや通用するはずであった。今までと同様の戦力では勝ち目がないことが明らかになった以上、サイボーグ少女が逆転を賭けるにはそこにしかない――
明晰な頭脳をフル回転させるアリス。だが天才少女が最後の作戦を企むのを阻むように、鋼鉄マシンの空いた左手が鎧女神のか細い首を鷲掴む。
「うぐッッ?!!」
「貴様ガコノ程度デクタバラヌ事ハワカッテイル。死ンダ振リナドサセンゾ」
右手のドリルが脇腹から抜かれ、無防備に広げられたアリスの股間を一気に突く。
カキーン・・・という金属音。貞操帯にも似た黄金のプロテクターが、装甲天使を最悪の危機から救う。だが、首と股間とを握り掴んだキリューには次なるアリス抹殺の一手が、十分な予想のもとにすでに準備されていた。
ズバババババババッッッ・・・!!!
機械人間・桐生がくノ一・相楽魅紀にトドメを刺した人体蛍光灯、再び。
サイボーグ少女の首から股間にかけて、極太の電磁の帯が橋を架ける。
食道を、胃を、肺を、肝臓を、小腸を、大腸を、子宮を、肛門を・・・灼熱の竜がとぐろを巻いて突き進み、容赦なくズタズタに焼け荒らしていく。埋め込まれた無数の精密な機械がエラーを起こし、激痛信号となって夕子の脳の扉をドンドンと激しく叩き打つ。
大地に押さえつけられた小柄な戦士が悶絶の痙攣で埋立地を揺らす。銀とオレンジの女性らしい肢体が、ビカビカと電撃の帯をその体内に透かして発光し続ける。
10分以上に渡る、放電と痙攣の時間。
やがて焦げ臭い煙を全身から立ち昇らせて、黄金のプロテクターを纏った女神はついにピクリとも動かなくなった。
海に沈みかけた夕陽が、大の字で横たわる銀色の守護天使を照らす。輝きを失ったツインテールの巨大少女は、オレンジと漆黒との陰影に塗りつぶされ、無言の世界に埋没していった―――。
湾口の埋立地にて、巨大な正邪の機械戦士が激突した数時間後――
遥か南方のリゾート地・天海島には夜のとばりが訪れていた。見上げれば頭上には宝石のごとき幾千もの星の煌き。頬を撫でる風は涼しく、繰り返す潮騒は穏やかに胸内に染み入る。
美しき空と海に愛された島は、夜になってもいささかもその魅力に翳りを知らない。壮観な蒼の景観に代わって、安らかな静寂が人々の心を癒してくれる。
白い砂浜を踏む、サクサクという足音が三種類。
青白い満月に照らされた海岸を歩くのは、それぞれタイプの異なる3人の美少女たちであった。
「都合よく、吼介が寝てくれてラッキーだったよねェ」
彼女たちがこれから行おうとすることとは対照的な、おっとりとした口調で桜宮桃子は言う。
「どうやってバレないようにトランスフォームするつもりなんだろ? って思ってたんだァ。タイミ
ングよく寝てくれたから、助かったよねェ」
「偶然じゃないわ。彼の食事に薬を混ぜたの」
「え?!」
先頭を歩く五十嵐里美の言葉に、桃子ばかりか藤木七菜江も思わず瞳を丸くする。
「通常の3倍以上の量だったのに、なかなか眠らないから少し焦ったけれど。これで島のなかで動けるのは私たちだけ。心置きなく闘えるわ」
慈愛の塊のような生徒会長が時に見せる、目的遂行のための容赦の無さに、5人の守護天使のなかでもっとも甘さが抜けないふたりは驚きの表情を隠せない。
「薬って、睡眠薬ですか? なにもそこまでしなくても・・・」
「ナナちゃん・・・私たちがこの島に来た目的を、忘れたわけじゃないでしょうね?」
元気を絵に描いたような少女の猫顔がグッと引き締まる。
3人がこの時間に砂浜をゆくのは・・・もっと言えば、この島にやってきたのは、伝説の怪物『ウミヌシ』を倒すためであった。
そのために"一般人"である工藤吼介を眠らせ、島の住民を避難させたのだ。躊躇なく巨大な姿に変身できるように。昼間、沖で七菜江と桃子が天に轟く叫びを聞いている以上、五百年に一度現れるという怪物が今宵出現する可能性は極めて高い。
「里美さん」
「なに? 桃子」
「あの・・・体調は、その・・・いいんですか?」
平然とした素振りをしてはいるが、リーダーである五十嵐里美の肉体がいまだ万全でないことは、彼女を気遣う少女たちには事実として認識されていた。
保養と称して訪れた伊賀の里で、反逆の邪忍に襲撃されたことは知らぬものの、戦闘のダメージが深く刻まれていることはともに死地を潜り抜けてきた少女たちにはすぐわかる。里美だけではない。つい先日まで藤木七菜江の身体は、怨念に燃える蜂女の拷問により瀕死の状態に陥っていたのだ。
いざ戦闘となったとき、最前線で闘わねばならないのは誰であるか、イマドキの美少女はハッキリと自覚していた。そしてそれは、今は遠く離れた場所にいる、霧澤夕子との約束でもある。
「心配?」
「そ、そりゃあもちろんそうですよォ・・・」
「ううん、私の身体のことではなくて、これから闘わねばならないことが、よ」
魅惑的な二重の瞳がピクリと動く。
5人いる『エデン』の少女戦士たちのなかで、もっとも闘いに慣れていないもの・・・それは誰が見ても明らかであった。天から才能を与えられたアスリート少女や、己の身体の機密を守る必要があるサイボーグ少女と違い、エスパー少女はその能力を戦闘に向けたことがほとんどない。
彼女本来の優しさを知る美しき令嬢は、桃子が望んで闘いに赴く少女ではないことを知っていた。
「・・・覚悟は、とっくに決めてます・・・」
星を宿した大きな瞳が満月を浴びて強く光る。
キュッと朱鷺色の唇が締まるのを見届け、無言のまま先頭の生徒会長は歩を先に進めた。
潮騒が遠く、近く、唸る。
心地よい湿気を含んだ夜の海風と、心和ませる穏やかな潮の音。靴底から伝わる柔らかな砂の感触も手伝って、少女たちは闘いとは掛け離れた趣へと誘われていく。無言のまま歩き続ける美少女3人。去来する多種多様な想いを秘めながら、本来の目的すら忘れたかのような面持ちで足を運ぶ。
行く手に現れた2mほどの高さの岩を、お転婆ぶりでは他の追随を許さない七菜江がタンと軽やかに駆け上がる。
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