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「第七話 七菜江死闘 ~重爆の肉弾~」

6章

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 「んぐッッ?!!」
 
 誰かの手が、下敷きになって動けぬ七菜江の口を塞ぐ。
 不意の出来事に事態が掴めぬ猫顔の美少女を、次の瞬間、激痛が捕らえた。
 
 ベキイッッ!
 
 右手の人差し指が、思いきり逆側に反り曲げられる。
 
 「!! ん―――ッッッ!!!」
 
 5人もの人間が重なって倒れているのだ、一番下の七菜江がどんな状況にあるか、外からではまったくわからない。
 言わば、肉の牢獄とでもいうべき処刑場に連れ込んだ七菜江を、外界から遮断して、リンチしてしまおうというのである。
 
 ベキィッッ!! ボキッッ! ブチイッッ!!
 
 「んんッッ!!! んんん――――ッッッッ!!!! ん―――――ッッッ!!!」

 “指がぁッッ!! ゆッ、指があああッッ―――ッッ!!!”
 
 「君たち、はやく立ちなさい」
 
 「すいません、ちょっと絡まっちゃって・・・もうすぐ解けますから」
 
 らしくない、すまなさそうな声を出しながら、4人の処刑者たちは審判に従順な様子を見せる。だがその裏では、審判の目を巧みに誤魔化しながら、リンチは着々と豊満な少女の肉体に刻まれていく。身体をもぞもぞと動かすフリをしながら、肘や膝に全体重を浴びせながら獲物の少女の後頭部、肋骨、腕といった部分を押し潰す。いくら「エデン」の戦士といえど、合計300kg以上の重量で潰されていくのだ。激痛に悶絶する七菜江の苦しみを、肌で感じ取りながら、尚「七菜江潰し」の責め手は激しさを増していく。
 
 ゴリゴリゴリ・・・メシイッ・・・ゴキゴキ・・・ブチブチブチ・・・
 
 「んッッ!! んッッ!! んッッ!! んんん―――ッッッッ!!!」
 “あああ――ッッ!! か、身体が潰されていくぅぅぅッッ―――ッッッ!!! くぅッ、苦しいッッ!!! 潰れちゃうッッッ――ッッッ!!!”
 
 「すいません、今立ちます」
 
 殊勝な顔を見せつつ、絡まった東亜大附属の選手がようやくひとりづつ立ち上がる。肌を伝わって聞こえてくる七菜江の骨、肉、皮膚が破壊されていく音が、敵のエースを潰した確信を彼女たちに与えていた。
 ぐったりとうつ伏せに倒れるショートカットの少女。立ち上がりかけるサリーが、最後のトドメを刺す。
 
 118kgの体重を全て右肘の関節にかけたまま、健康的な少女の小麦色の右腕を、逆に「くの字」に折り曲げる。
 
 ゴギイイイッッ!!! ブチブチブチッッッ!!!
 
 「ううあああああッッッ―――――ッッッ!!!!」
 
 脱力していた七菜江の肢体が、壮絶な激痛にのたうち回る。
 
 「ああああああッッッ――――ッッッ!!! 腕があああッッッ―――ッッッ!!! 腕があああああッッッ~~~ッッ!!!」
 
 「もう我慢できないッ!」
 
 叫んだ桃子が立ち上がり、観客席を飛び出して階下に降りていく。いてもたってもいられなかった。といって超能力を使うわけにはいかない。七菜江のためにもそれはできなかった。せめて近くで応援してあげたいという、必死の想いが美少女を動かしていた。

 「お前は行かないのか?」
 
 淡々とした工藤吼介の問いに、これも冷静な口調の霧澤夕子が答える。
 
 「あんたに答える必要はないわ」
 
 「そうかもしれないが、随分冷たいと思ってな」
 
 「私にはここを離れられない理由がある。冷たいと言われるのは慣れてるから構わないけど、そういうあんたは行かないの?」
 
 「行ってもなにもできないからな。あんだけガンバってるあいつに、これ以上、なんて言ってやれるってんだ」
 
 「そう。そう本当に思っているなら、私のことを冷たいなんて言って欲しくないわね」
 
 一本取られたことを自覚した吼介は黙り込む。
 じっと見詰めるコート上では、右肘を押さえた青いユニフォームの7番が、固いフローリングの上をゴロゴロと苦痛に呻きながら転がっていた。
 激しい体力の消耗と、右腕を破壊された痛みにより、遠目にもはっきりわかるほど、七菜江の全身には汗がビッショリと浮んでいる。歯を食い縛り、両目をキツク閉じた苦悶の表情で、獣のように唸っている超少女。普通の少女とは比較できないほど我慢強い彼女が、これほどまでに痛がっているのだ。押さえた右肘、そしてピクピクと痙攣させている右手の指が相当に破壊されたことは、七菜江をよく知る吼介が察知できないわけがない。それでも最強と噂される男は、まるで怒りも焦りもなく、平然とした様子で座っている。
 “こいつ、本当に七菜江のこと、好きなのかしら?”
 決して吼介に対して良い印象を持っていない夕子が、訝しげな視線を角張った横顔に向けても、その表情はなんら変化を見せなかった。
 
 「君、大丈夫かね?」
 
 「だ、大丈夫です・・・やれます」
 
 明らかに大丈夫でないショートカットの少女に、何度審判が尋ねても、帰ってくる返事は同じ。ベンチもまるで動こうとはしない。右肘を押さえながら立ち上がった少女を気にしながらも、審判は試合を再開せざるを得なかった。
 
 「ナナ――ッッ、ガンバッてッッ!!」
 
 フロアまで降りてきた桃子の、鈴のような声援が響き渡る。
 「おお、そうだ、ガンバレ7番!」
 「汚えぞ、東亜!」
 「審判ちゃんと見てろッ、反則じゃねえか!」
 つられたように、観衆が口々に七菜江への応援と東亜大附属への野次を飛ばす。うまく誤魔化しているとはいえ、立て続けに飛び抜けた能力を持つ選手が「アクシデント」に見舞われたのだ。偶然でないことは誰もがわかっている。高校生の試合とは思えない、殺伐とした空気が湧きあがっていた。
 だが、褒めるべきか厭うべきか、東亜大附属高校の選手たちは、この程度で遠慮するような、軟弱な鍛えられ方はしていなかった。
 
 声援に後押しされるように、右肘を押さえながらも全力でプレーする七菜江。
 健気なまでの少女に、これでもかとばかりに、死角をついた制裁が加えられていく。
 ガードするために伸ばされた右腕は捻られ、逆に折られ、密集に取り囲んでは腹部を殴り、カバーについているフリをしながら、肉弾で圧搾する。
 
 「ううッッ・・・ううッッ―――ッッ!!!」
 
 熱戦のコートに流れる、苦悶の呻き声。
 その度に館内の声援はボルテージをあげるが、本来ひまわりのように元気な少女が、徐々に崩壊の波に飲み込まれていっているのは、誰の目にも明らかだった。
 そして、七菜江が削られていくのとは反比例するように、両チームの点差はグングンと縮まっていた。
 
 「あんた、ホントに七菜江のこと心配してるの?!」
 
 あからさまに狙われ、コートの中でリンチされ続ける仲間の惨状に、クールが売りの夕子も、苛立ちを隠せなくなりつつあった。
 今までにも幾多の困難に直面してきた七菜江だ、この程度の苦しみは何度も味わってきたことだろう。それでも精神的ダメージを受け、体力をほとんど使い果たし、じわじわと苦痛を重ねられているのだ。信頼しつつも、込み上げる怒りと不安は抑え難い。
 夕子にしてそんな状態なのに、七菜江を好きなはずの男は、ずっとコートを見たまま、動かない。
 恋愛感情には、とんと疎い夕子でも、疑念を持つのは当然のことといえた。
 周囲の見知らぬ観客たちでさえ、七菜江にエールを送っているというのに、最も身近な存在であるはずの鎧武者は、夕子の言葉にも答えず、微動だにしない。
 
 メキョ・・・
 
 「・・・?」
 
 メシイッ・・・メシメシメシ・・・ミチミチィッ・・・
 
 突然、どこからか聞こえてくる、奇妙な音。
 虫の鳴き声のような、どこかおぞましくさえあるその音の正体を、夕子が気付くことはなかった。
 コートを見詰める太い眉の下の視線が、凄みを帯びてきていることも。
 
 「しぶとい女だ、まだ歯向かってきやがる」
 
 「フジキナナエめ、とどめを刺してくれる」
 
 取り合いになったボールが、弾かれてライン際へと飛んでいく。
 ワンバウンド、ツーバウンドして、ラインの外へと出ていこうとするボール。右肘を押さえたまま、今にも倒れこみそうな身体を支えていた青いユニフォームの7番が、反射的にボールを取りにダッシュする。
 ボールが飛んだ方向に七菜江がいたのは、偶然だったか、計算通りだったか――
 それまでの疲労ぶりが嘘のような速度で、ボールに七菜江が追いついた瞬間。
 
 ドゴオオオオオッッッ!!!
 
 肉感的な肢体が、ぐにゃりと強烈に反り曲がる。
 同じようにボールを追ってきたサリーとビッキーのダブルのタックルが、無防備な美少女の背中を粉砕したのだ。
 ダンプカーに撥ねられた衝撃。ベキベキと、背骨が軋む音をこぼしながら、白目を剥いたショートカットのスポーツ少女が、反り返った姿勢のままで吹っ飛んでいく。
 
 観客席のパイプ椅子の海に、けたたましい音ともに突っ込んでいく七菜江の肉体。
 グワッシャアアアアンンン・・・・・・10mの距離を吹っ飛ばされて、壁と激突する派手な破壊音が鳴り響く。血の飛沫が、あちこちに点々と降っている。
 青い果実を彷彿とさせる肉体は、パイプ椅子の瓦礫に埋まり、唯一覗いている左手だけが、ピクリとも動かず瓦礫の中から生えている。
 
 ガタン! 2階観覧席で座っていた夕子の身体が、思わず立ちあがる。
 そして聞こえてくる、あの不可思議な音。
 
 メキョオッッ・・・メキメキメキッッ・・・メチメチメリメリメキイッッ!!
 
 それは、虫の鳴き声などではない、肉の摩擦する音。
 正体に気付いた夕子が横を見た時には、すでに工藤吼介の肉体は姿を消していた。
 
 「ナナッッ!!」
 
 崩れたパイプ椅子の山に、桜宮桃子は駆け寄っていた。遅れて聖愛ベンチから、一年生数人が救護のために走ってくる。
 あちこちで飛んでいた東亜大附属へのブーイングは、あまりに凄惨な事態に消え去ってしまっていた。静まり返った場内に、桃子たちの駆ける足音だけがこだまする。わざと七菜江を吹き飛ばしたのは、誰もが理解していた。だが、試合に勝つためにここまでやる東亜大の“真剣さ”が、観客達を圧倒し、飲み込み、声を奪ってしまったのだ。
 
 親友のもとへ辿りついた桃子が、思わず息を飲む。
 パイプ椅子に沈んだ元気な少女は、ピクリとも動かず、薄く開いた瞳に、無機質な光を灯していた。
 どこかで強く打ったのだろう、小さな鼻と桃色の唇からは鮮血が迸り、周囲に深紅の花を咲かせている。
 静寂に包まれた試合場の隅に、文字通り潰されてしまったスポーツ少女が、積み重なった仕打ちに限界を迎えて転がっている。つい先程まで、観衆の歓声を集め、ヒロインとして縦横無尽にコートを駆けていた少女の、無惨な姿。
 
 「選手交代。7番藤木に変えて、11番柴崎」
 
 無情な監督の声が、シンとした館内に、やけに大きく響く。
 ウェーブのかかった長い髪を揺らして、青いユニフォームの11番がコートに向かう。全ての視線が崩れたまま動かないパイプ椅子の山に集中する中、悠然と歩く柴崎香は口元を大きく歪ませていた。
 
 今更試合に出られる喜びなどなかった。
 後輩の七菜江にレギュラーの座を奪われ、しかも校内での隠れ人気が自分よりも上であることを知って、香の嫉妬は頂点を迎えた。ズタズタにされたプライドを治すには、身体だけは発達した憎い女を、心身ともにボロボロにしなければ気が済まなかった。
 試合に出ればわざと負けることは、カズマイヤー姉妹との間で約束していることだ。香にとって、自分を認めなかったハンド部など、どうでもよかった。それよりも、自分が潰されたことがきっかけで逆転負けしたとなれば、脆い七菜江の心はどれだけ傷付くことか。
 殺しても殺し足らぬ藤木七菜江抹殺の第一弾作戦が、青写真通りに進んでいることが、香の大きめの唇を歪ませる。
 
 一年生部員たちが、椅子の山に近付く。身動きひとつしないショートカットの先輩を、救い出さなくてはならなかった。憧れていた先輩の惨めな姿に、自然涙が浮んでくる。途中退場しなければならなくなった七菜江の無念さを思えば、哀しみは少女たちの胸に一層去来した。
 近付こうとする足は、止まっていた。
 不意に横から伸びてきた丸太が、少女たちの足を止めたのだ。いや、それは丸太ではなかった。少女たちが想像したこともない規格外の太さの腕が、真横に伸びて動きを制したのだ。
 「うッ」という呻きを漏らし、桃子の身体は一歩後退っていた。
 
 工藤吼介。
 筋肉の鎧を纏った肉食獣が、物静かな表情で立っている。
 桃子には精神感応、いわゆるテレパシーの能力はない。あるのは念動力やせいぜい透視、瞬間移動が少しできるだけで、物理系の超能力に限られている。それでも桃子には、今の吼介から発散される、怒りでもない、哀しみでもない、ただ圧倒的に熱い感情の波が、戦慄するまでに伝わってくる。
 
 「聞こえるか、七菜江?」
 
 気絶しているとしか思えない少女に、低い口調で男は話す。
 突然現れた巨大な男に混乱しつつも、観衆は静まり返っていた。目の前で起こる出来事に凌駕され、ただ彼らは見守ることしかできない。応援にきた聖愛学院の生徒たちは、男の正体が工藤吼介であることはわかったが、言葉が出ないのは一緒のことだった。
 
 「立て」
 
 静かに、しかし力強く吼介は言う。
 
 「立ちあがれ、七菜江。自分の力で」
 
 ふふふ。
 心の奥で柴崎香は嘲笑する。
 立てるわけがないわ、あのタックルを受けて。
 体力を枯らし、右腕を破壊された上で、トドメを食らったのだ。
 明らかに限界を迎えた七菜江が、愛の力などで、それもただ声を掛けられただけで蘇ったなら、まるでマンガだ。そんな都合のいい話など、あるわけがない。
 そのまま医務室のベッドで寝てるがいい、起きた時には自分のせいでチームが負けたことを知り、絶望に打ちひしがれて・・・
 
 ウオオオオオオンンンン!!!
 
 静寂が破裂し、怒号のような歓声が爆発する。
 
 「まッ、まさかッ?!!」
 
 血走った瞳を、パイプ椅子の山に向ける香。
 立っていた。
 右肘を押さえたショートカットの少女が、瓦礫から這い出し立ちあがっていた。
 
 「あ、有り得ない・・・」
 
 茫然とする香の呟きが、沸騰した大歓声に掻き消える。
 ふらふらと覚束ない足取りで数歩進む七菜江。朱色に染まった口元を、左手で拭う。
 幽霊でも見たように丸い目を見開いた巨大な肉団子の姉妹に、敢えて痛めた右手を伸ばす。背筋をピンと張り、人差し指を突き向けた美少女は、それまでのダメージも消し去ったかのように咆哮した。
 
 「卑怯者が・・・あたしを潰せるもんかぁッッ!!」
 
 再び爆発する歓声。
 熱狂する雄叫びが、「7番」コールを、「藤木」コールを、「聖愛」コールを、次々に轟かせていく。
 
 「審判、さっきの選手交代は取り消しだ。7番藤木のままで」
 
 どこか興奮した聖愛学院監督の声を、渦巻く歓声のなかで主審はなんとか聞き分けた。
 試合が再開されるべく、選手たちがポジションについていく。コートに戻る青い7番の背中を、頼もしそうに鎧武者は見送った。
 
 「全く、お前ってやつは」
 
 ホイッスルが鳴り響く。後半残り8分が始まった。
 
 「グッとさせてくれる女だぜ」
 
 
 
 「いつもながら、心配させてくれるわ」
 
 これまでに幾度か七菜江の窮地に立ち会った経験のある霧澤夕子は、実感の篭った口調で呟くと、ようやく腰を観覧席の粗末な椅子に降ろした。
 周囲の熱狂は凄まじかった。どうやら七菜江は、一般の観客たちの心を虜にしてしまったようだ。わかりやすい言葉でいえば、カリスマというものなんだろうが、明るく純粋な少女は、ひとを惹き付けるなにかを生まれ持っているのだろう。
 
 恐らく大部分の観衆は、七菜江が復活した理由を、吼介の愛のパワーだとか(夕子にすれば、それはおぞましいまでの考えだったが)、不屈の根性のおかげだとか、考えていることだろう。だが、闘いには素人でも、天才と呼ばれる少女は合理的で現実的な判断から、七菜江復活のカラクリをほぼ正確に見抜いていた。
 確かに七菜江は、背後からの強烈なタックルを浴びて失神してしまったのは間違いない。軽い脳震盪を起こした少女は、いわゆるKO状態だったのだ。薄く開いた眼球の揺れ具合を見て、格闘の専門家である吼介は、すぐにそのことに気付いたに違いない。体力の限界が来たわけではないので、時間が経てば復活はできる。七菜江が立ち上がったのは、奇跡でもなんでもない、当然のことだったのだ。
 もちろん、失神するまでに強い衝撃を受けた人間に、再び試合をさせるなど、安全性の観点からいえば、実に危険な判断だ。それでも吼介が七菜江を送ったのは、まだ幼さをどこかに残した少女が、尋常でないタフネスの持ち主であることを知り抜いているからであろう。
 時間が経てば復活する七菜江に、意味ありげにエールを送ったのは、いわば吼介の演出だ。作戦は見事に決まり、不可思議な力で死の淵から蘇ったかのような七菜江に対し、巨肉の姉妹をはじめ東亜大附属のメンバーは明らかな動揺を暴露している。
 すでに試合の結果は見えたも同然だった。
 
 「さて・・・あとはあの女が、なぜこんなとこにいるか、ね」
 
 無意識のうちに左足をさすりながら、夕子は観覧席の一角に、鋭い視線を飛ばす。
 彼女が七菜江を気遣いながらも、2階席を離れるわけにはいかなかった理由。
 館内の全体を見渡しやすいこの場所で、監視し続ける必要があった人物が、視線の先にはいた。
 一輪の赤い薔薇。
 場違いな艶やかさを、遠目にもはっきりと噴霧しながら、生物学の権威にして、冷酷魔女シヴァの正体・片倉響子は、じっと若さ溢れる決勝の様子を見物しているのだった。
 
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