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「第四話 邪悪哄笑 ~魔呪の虜囚~
20章
しおりを挟む「ユリアッッ―――ッッ!!! もうやめてぇぇッッ―――ッッ!!! ユリアが死んでしまうッッッ!!!」
ガクガクと震える膝を伸ばし、必死で立ち上がるファントムガール。彼女の切ない願いは、悪魔どもにとっては、心地良いBGMだ。
「マリーよ、ユリアくんは私の獲物です。トドメは任せてもらいましょう」
血祭りにあげられた少女戦士を、無造作に巨大な手は投げ捨てる。
待っていたクトルの触手が、両手足を捕らえるや、大の字に固定し、天高く掲げる。残った触手は、口腔へ、秘裂へ、肛門へ・・・そして最後の一本は、あろうことかメフェレスが貫いた、傷口へと入っていく。
ドスッ! ドスッ! ドスッ! ドスッ!
ピクン・・・ピクン・・・ピクン・・・・・・
断末魔に震える黄色の天使。瞳の青も、水晶体の青も、消え入りそうに薄く、エナジー・クリスタルの点滅音は、鳴っているかどうか、微妙なほどにか細い。
「快楽と激痛の海に・・・溺れなさい」
体内に潜入した四本の触手から、大量の濃緑の粘液が発射される。
「!!! んああああああああああッッッ――――ッッッ!!!!!」
ゴボゴボゴボゴボ・・・・・
穴という穴に、媚薬と毒液の作用を持つ腐敗液が注入される。
一声高く絶叫したユリアの身体は、叫び終わると同時に弛緩し、ズルリと触手から抜け落ちて、地面に激突する。
ベチャッ・・・という落下音。
目から、耳から、鼻から、口から、秘所から、菊門から、傷口から・・・ありとあらゆる穴から、濃緑の魔液を垂れ流した武道少女は、もはや、ピクリとも動かなくなっていた。
「いやああああッッッ―――ッッッ!!!!! ユリアああああッッッ―――ッッッ!!!!!」
ファントムガールの無情な叫びがこだまする。
目の前で、仲間を・・・ユリアを惨殺されてしまった。
己の無力が、弱い心が、憎い。決死の思いでユリアは戒めを解いてくれたのに、その気持ちに応えることができなかったのだ。
“ユリアは・・・・・ユリちゃんは、わずかな可能性に賭けて、闘ったのよ・・・・・それなのに、私は・・・・・・私は・・・・・・・・・・・・”
恐らく里美を責めるものなど、誰ひとりとしていないだろう。
気力だとか、根性だとか、そんなものが通用するレベルではないまでに、里美は傷付いていた。ユリアを助けることなど、最初からできるわけはなかった。
それでも里美は自分自身を叱責した。許せなかった。
諦めていた自分が、悔しかった。
「ウオオオオオオオオッッッ――――ッッッ!!!!」
琴の声が、吼える。里美らしからぬ、野獣の咆哮。
勝利の可能性など、1%も見えなかった。だが、里美は闘う。自分より幼い少女が見せてくれた、ガムシャラな姿に応えるために。
「ファントム・クラブ!!」
全エネルギーを両手に集中させる。枯れ尽くしたと思われた聖なる力は、まだ美しき戦士に奇跡を与えた。白銀の棍棒が、しなやかな指先に出現する。
「なにイッッ?!! こいつ、まだこんな力がッ?!!」
もつれる足で駆けつける。狙いは、青銅の悪魔、ただひとり。
“メフェレスッッ!!・・・・・あなただけは・・・・・私が刺し違えても、倒すッッ!!”
残された最後のエネルギーを振り絞り、渾身の力でクラブを振るファントムガール。
「ククク・・・・アハハ、ワハハハハハハ!」
三日月の哄笑が、夏の夜に響き渡る。
白銀の棍棒は、止まっていた。
「・・・メフェレ・・・ス・・・・・・あなたって・・・・・ひと・・・は・・・・・・」
「フワハハハハ! どうした、ファントムガール? オレを倒す最後のチャンス、みすみす逃していいのか?!」
ファントムガール・里美に、棍棒を振ることができるはずはなかった。
青銅の悪魔が差し出した盾。それは粘液まみれの、ファントムガール・ユリアだった。ボロボロになった黄色の少女を盾にすいることで、青銅の悪魔は銀の女神の攻撃を止めていた。
「ほら、ユリアもろとも、オレを砕くがいい。ほれ、どうした?」
「・・・・・ひきょう・・・もの・・・・・・・・・卑怯者ッッ―――ッッ!!」
ドシュウウウウウウウッッッ!!!
ビデオを見るように、ユリアと同じく、魔剣に貫かれる、ファントムガール。
「ガフウッッ!! ・・・・・・ゴボ・・・ゴホッ・・・ゴホッ・・・・ア・・・アア・・・」
ガラン・・・とクラブが地に落ちるや、掻き消すように消滅する。ドクドクと流れ落ちる、鮮血。剣を引きぬかれた守護天使は、もはや、一歩たりとも動くことはできなかった。
「ワハハハハハハ! 順番こそユリアの後になったが、今度こそ最後だ、ファントムガール!」
ヴィーン・・・・・・・・・ヴィーン・・・・・・・・・・・
ダラリと両手を垂らし、たち尽くす美しき女神。胸の水晶体が、ゆっくりと、鳴る。
正面にメフェレス、背後にマヴェル、右にマリー、左にクトル。先と同じフォーメーション。どうやらメフェレスは、ファントムガール処刑専用の隊形を考えてきたようだった。
「ウワハハハハ! 貴様の負けだッ――ッ、ファントムガールッ!!」
メフェレスが黒い破壊光線を、エナジー・クリスタルに照射する。
マヴェルが破壊の超音波を、背中に直撃する。
マリーが魔法陣から放った地獄の業火で、銀の皮膚を焼く。
クトルが8本の触手から、濃緑の魔液を噴射する。
四体の悪魔、それぞれの必殺技が、中央の瀕死の女神に食らわせる。四方向からの破壊に、ファントムガールは倒れることすら許されず、煉獄の苦痛に悶絶する。
「きゃあああああああああああッッッッ―――――ッッッッ!!!!」
背中が破裂し、皮膚が焼け溶ける。毒により、煙があがり、美しき肢体が破壊されていく。そして、ついに胸の水晶体に、亀裂が入る・・・
ピシイッッ・・・
ヴィ・・・・・・・・・ン・・・・・・・・・・・・・・ヴィ・・・・・・・・・・・・・
“・・・・・・・も・・・・・・・う・・・・・・・ダ・・・・・・・メ・・・・・・・・・・・”
里美の意識が闇に飲み込まれていく。
正義の戦士、ファントムガールの最後。悪鬼にいいように蹂躙され、無惨な最後を遂げようとする、守護天使。
だが―――
ドズウウウウンンン・・・・・
何者かが体当たりをかまし、十字の中央で死滅しかけた銀の戦士を弾き飛ばす。
皮膚は爛れビリビリに裂け、濃緑の液体にまみれて、血に染まった少女戦士が大地に倒れる。その瞬間、光の粒子と化した正義の使者は、巨大な姿を処刑の大地から消していた。
「・・・まったく・・・・・・貴様ら、光の戦士とやらは・・・・・・・どこまでしぶといのだッッッ!!!」
奇怪な笑みを浮かべた黄金のマスクの下で、驚愕していた瞳は、やがて憤怒に燃える。メフェレスの怒号は、達成しかけた計画を邪魔した、眼前の巨大な影に向けられた。
ガクガクと震える細身の身体。陵辱を示す濃緑と、圧搾を示す深紅とで、元の銀と黄色がわからぬほど、汚れきった皮膚。あちこちがほつれ、水分を失ったかのような、緑の髪。
悪鬼どもの猛攻に散ったはずの、ファントムガール・ユリアが、蹂躙され尽くしたその肉体を支え、紫の女神の代わりにミュータントたちの中央に立っている。
それは奇跡であった。ユリアの肉体はとうに崩壊し、精神も敗北している。それでも少女は、里美を助けたい、ただその一心で、立ち上がってきたのだ。
しかし、奇跡はそこまでだった。
「とっくに力は尽きているはずなのに・・・・・・どうやら、貴様らには、不思議な底力のようなものがあるようだ。だが」
魔豹と黒衣の魔女の姿が霞みとなって消えていく。すでに彼女たちが登場して、1時間ほどが経っていた。取り返しのつかない事態に陥る前に、自らの変身を解いたのだ。そして、もうひとつ、変身している意味も、もはやなかった。
「このオレ様の計画を邪魔した罪、償ってもらうぞ、ファントムガール・ユリア」
淡々とした口調とは裏腹に、凄まじい勢いと量で発射された闇の暗黒光線が、ユリアの全身を撃つ。
光にとって対極の闇の光線は、ファントムガールを死滅させる最悪の技。悪の権化・メフェレスが放つ光線は、高密度の闇で、瀕死のユリアを朽ち滅ぼしていく。
「うわあああああああああッッッ――――ッッッ!!!!」
皮膚がズブズブと溶解していく。黒い炎に包まれ、全身から真っ黒な煙を立ち昇らせるユリア。骨が崩れ、細胞が腐り、内臓器官が滅んでいく。
かすかに鳴っているエナジー・クリスタルの点滅音が、死が近付くたびに遅くなっていく。
ヴィ・・・・・・・ン・・・・・・・ヴィ・・・・・・・・ン・・・・・・・・・・・
グラアアアア・・・・・・・
死滅していく肉体を硬直させたユリアが、そのままの姿勢で前方に倒れていく。
大地には、激突しなかった。
クトルの触手が華奢な肢体に絡まり、少女を楽にはさせなかった。
「ユリアくん、君には存分に楽しませてもらいました。さあ、死の瞬間に・・・・・・・震えなさい」
一本の触手が、がんじがらめに捕らわれた聖戦士の胸の中央、エナジー・クリスタルに吸いつく。
蛍の灯火のようにかすかに揺れる命の炎を、タコの怪物は思いきり吸い上げた。
ゴキュウウウッッッ!!!
「はひゅううううッッッ―――ッッッ?!!」
満足に残っているわけがないユリアのエナジーを、容赦なくクトルは吸収する。触手の内部を大きな玉が通るように、膨らんでいく。蛇がネズミを飲み込むように、巨大なエネルギーを、嚥下していく魔の触手。
ゴキュウウッッッ!!! ゴキュウウッッ!!! ゴキュウウッッ!!!
「ふへあッッ・・・・・・・あッッ・・・・・・・・・ああ・・・・・・・・・ぁぁぁ・・・・・」
ヴィ・・・・・・・・・・・・・・ン・・・・・・・・・・・・・・ヴィ・・・・・・・・・・・・・
大きくふくらんでいた触手が、やがて膨らみが小さくなっていく。そしてついに、ジュースを飲むように、エナジーを吸収する音はジュルジュルという響きに変わっていった。
「あ・・・・・・・・・・・あ・・・・・・・・・・・・」
ヴィ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「クトル、残りのエネルギー、全て吸い取ってやれ」
ゴキュウウウッッッ!!!!
「あッ!!!」
身体の隅々から集められた光のエナジーを、一気に吸い尽くされ、ビクンッッと大きく仰け反るユリア。
ヴィンッッ!!!
胸の水晶体が、消える。
「とどめだッ、死ねイッッ、ファントムガール・ユリアッッッ!!!」
全ての力を失い、触手に絡め取られた少女戦士に、青銅の魔人が突進する。
青銅の刀が鳩尾から背中へ抜け、それと同時に闇のエネルギーが、爆流となって天使の骸に叩き込まれる。
「きゃああああああああ―――ッッッ・・・・・・・・・・・」
死に絶えたはずの少女が、闇に食われる極限の苦痛に、糸引く絶叫をあげる。
そして、あとには、全ての光を失い、悲しみと苦痛に可愛らしい顔をゆがませ、脱力した肢体を刀にぶら下げた、黄色の少女の亡骸だけが残った。
「ワハハハハハ! まずは一匹! 見よ、これがファントムガールどもの末路だ!」
高々と刀が掲げられ、ボロ雑巾と化したユリアの死体が満天下に晒される。
哀れな少女に浴びせられるのは、心底愉快そうな、悪鬼の笑い声だけであった。
その後、抹殺の余韻に酔ったメフェレスが消えたあと、変身時間が残ったクトルによって、冷たくなったユリアはオモチャとなって死姦された。最も大事な秘所で、アナルで、口で、それぞれ2回づつ。敗北者の証明として、タコの熱い迸りを満身に浴び、汚された被虐の天使は、ファントムガール・五十嵐里美が叩きつけられていた、漆黒のビルに仰向けに放置された。
黒ずみ、穴だらけにされ、濃緑の汚液に埋め尽くされたユリアの骸は、正義敗北の象徴となった。
「いたぞ、あそこだ」
「よし、早く、保護するんだ」
ファントムガールの正体はバックについている政府にも、秘密にされていたが、激闘後の彼女たちを保護するための特殊部隊に対しては、最低限必要な情報だけが与えられていた。
五十嵐里美という名こそ教えてもらっていないが、その憂いを帯びた美しい少女が、ファントムガールの正体であることは知っていた。
トランスフォームを解いたあとの肉体は、ダメージがなければある程度思う場所に移動することができた。距離も比較的遠くまでいける。逆に、激しいダメージを受けたあとは、距離も短く、どこに現れるかのコントロールはできない。
ユリアに助けられた里美の身体は、ファントムガールが消えた位置から、ほとんど変わらない場所にあった。そのことが、彼女に刻まれた負傷の深さを雄弁に語る。
自衛隊の特殊部隊にあってもエリート中のエリートたちは、五人で行動し、ビリビリに破れた青いセーラー服に身を包んだ美少女を回収しようとする。
風が唸る。
5人の保護部隊員は、己の動きにどこか違和感があることに気付いた。
その原因を悟ったとき、彼らの意識は暗い闇へと飲み込まれ、二度と戻ることはなかった。
キレイに切断された5つの首は、バランスを崩して胴体が転倒すると、赤い切断面を見せて、コロコロとアスファルトを転がった。
「これが私の役目なの、悪く思わないでね」
うっすらと笑いをたたえた美貌が、倒壊したビルの影から現れる。
死の大地にはあまりにも不釣合いな、赤のスーツ。それに合わせたような紅色のマニキュアを塗った指が、目には見えない極細の妖糸を巻き戻す。
戦地に妖艶なフェロモンを振り撒く美貌の女、片倉響子は、赤いハイヒールを踏み鳴らして、うつ伏せで深い眠りにつく、少女くノ一に近付いていく。
「逃がしはしないわ、五十嵐里美」
鋭利なヒールが、茶色の混ざった長い髪を踏みつける。
ゴツ、という鈍い音が響く。ボロボロの制服を着た美少女は、目を覚ますことなく、正義が敗北した大地に眠り続けていた―――
《ファントムガール 第四話 ー完ー 》
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