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23、絞首刑

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「きゃああ”あ”ッ――ッ!! あッ、ああ”ッ~~ッ!! うああ”ッ~~ッ!!」

 蛙男が手を離した瞬間、もんどりうって大地に転がる白黒コーデの乙女。
 顏と胸とを、交互に左手で抑える。脱臼した右腕は、使いたくても動かない。
 メリーゴーランドによる擦り潰し刑に処された美女は、白のスーツが汚れるのも構わず転がり続けた。
 
「いくら変身前といっても、これだけ弱いのはおかしいなぁ。お前、何者だ? オメガヴィーナスがこんなに脆いわけないもんなぁ」

「くッ・・・ううぅ”ッ~~!! ・・・あぁ”・・・」

「まぁ、オレたち妖化屍やオメガスレイヤーの存在を知っているんだ。『水辺の者』には違いないだろうさ。破妖師一族のひとりなんだろう、お前?」

「ッ・・・あなたにはッ・・・関係ないことだわッ・・・!」

 地を這いずり回っていた乙女が、キッと顏をあげる。
 輝くような素肌が鮮血で汚れていた。美女が受けるにはあまりに酷い仕打ち・・・でありながら、血染めにされて尚、この乙女の美はいささかも翳ってはいない。むしろ凄惨さの中に、美形が凄みを増したかのようだ。
 腰が引きかけた己に気付き、我磨ガマは苛立った。
 たかが人間に妖化屍の自分がビビるなど・・・あってはならない恥辱。子鹿に怯えるライオンがどこにいるのか。ましてや相手は、人生経験も少なそうな小娘――。
 
「まさかお前、オメガヴィーナスの代わりに、両親の恨みを果たそうとでもしているのか?」

「違うわ。あなたたちは私にとっても仇だからッ・・・許せないだけよッ!」

「ほほう。ということはお前は・・・」

 蛙男の脳裏で、天啓のように閃きが奔った。
 四乃宮天音そっくりの特徴を持つ乙女。天音の両親が、妖化屍に殺されたという事実。眼の前の美女もまた、妖化屍を親の仇と呼ぶのなら・・・導かれる答えはひとつだ。
 
「そうかそうか! オメガヴィーナスに姉妹がいたとは、知らなかったぞ」

「・・・四乃宮郁美。天音は、私の姉よ」

 女子大生になった郁美は、4年前に姉がスーパーヒロインになった時とそっくりの、美しき淑女に成長していた。

「妹か、道理で脆いわけだぁ。クヒュッ、クヒュヒュ! で、無力極まりないお前が、このオレに勝てるとでも思っているのかぁ?」

「勝つなんて言わないわ・・・どんなに頑張っても、私があなたに勝てるとは限らないもの。でも、ゼッタイにあなたに屈したりなんかしないッ! 私の心次第で、屈しないことはできるからッ!」

 蛙男の針目が、さらに細まる。
 とびきりの大殊勲をあげられる、そんなチャンスが消え失せた残念さはある。だが、我磨の怒りを湧き立たせるのは、そんなことではなかった。
 醒めるような美人だけに・・・郁美の言葉は、よけいに癪に障った。頑として抵抗を続けようとする瞳が、〝大蟇おおびき”の醜さを嘲笑っているようにさえ見えてくる。
 
「小娘・・・四乃宮郁美といったか。お前、よっぽどチヤホヤされてきたんだろうなぁ」

 クワッと蛙の口が大きく開く。真っ赤な舌が、一直線に吐き出される。
 長く伸びた我磨の舌は、女子大生の細首に巻き付いた。気管と食道を一気に締め上げる。
 
「ううッ!? ううう”ッ・・・!!」

「容姿に恵まれたヤツは、なんでも思い通りに運ぶと勘違いしているから大嫌いだ。お前らが大事にされるのは、所詮平和なときだけだぁ! いざとなれば、力の前にはなんの意味もないんだよ!」

 郁美の首に絡みついた舌を、〝大蟇”がブンブンと振り回す。
 容易く白スーツの肢体が宙に浮く。妖化屍の怪力によって、プロペラのごとくグルングルンと旋回する。
 遠心力によって、真っ赤な舌はさらに咽喉に食い込んでくる。酸素を求めて、郁美の唇は開閉した。
 
「うあ”ッ・・・!! はぁぐッ!! ・・・うあああ”あ”ッ――ッ!!」

 頭上を走るジェットコースターの線路に、我磨は舌を通した。
 白スーツの乙女が空中に吊り下げられる。西部劇で見るような、ブルロープを使った絞首刑の構図が、蛙の赤いベロによって完成していた。
 
「ぐうッ、う”ぅ”ッ・・・!! い、息がッ・・・く、くるし・・・い”ッ・・・!!」

 動く左手の指を必死に咽喉と舌との間に滑り込ませ、バタバタと宙空を蹴って足掻く血染めの女子大生。
 ゲラゲラと笑う蛙男は、白のスラックスから伸びた両足首を、左右の手でガシリと掴む。そのまま力任せに、下へと引っ張る。
 
「ぐええ”ッ――ッ!! おぼオ”ッ・・・こふッ・・・!! ご、ゴボボッ・・・!!」

 咽喉元の赤い舌が、グイと食い込む。ヒクヒクと郁美の肢体が揺れた。
 首に巻き付いたベロと、足首を掴む両手によって、白黒コーデの身体が縦に長く伸ばされる。乙女の柔肉が、ミシミシと嫌な音色を奏でている。
 パクパクと震える口からは、唾液と白い泡が次々に溢れていく。酸素の供給が途絶寸前の脳で、ぼんやりと郁美は死を覚悟した。
 
(くるしッ・・・い”ッ・・・!! 首ぃ・・・しま・・・るッ・・・・・・もぉ・・・ダ、メ・・・意識・・・・・・が・・・・・・)

「まさか、簡単に死ねるなんて、思ってないだろうなぁ?」

 ドボオオオオッ!!
 
 〝大蟇”の巨大な拳が、宙吊り乙女の鳩尾に深々と抉り埋まっていた。
 
「ごぼオ”オ”オ”ッ――ッ!?」

 秀麗な美貌から漏れ出たとは思えぬ、獣のような悲鳴。
 胃の中身を全て、郁美は吐き出していた。黄色の胃液まで、全て。
 その気になれば、我磨は女子大生の腹部に風穴を開けることも可能だった。しかし、敢えて加減をする。内臓がひしゃげる程度で許してやる。少しでも長く、生意気な小娘に制裁を加えるために。
 
「ひぐう”ッ・・・!! かはア”ッ・・・!! あ、ああ”ァ”ッ~~ッ・・・!!」

「ほう。見た目からは意外なまでに、なかなか鍛えているなぁ。この腹筋の堅さはアスリート並ではないか。とはいえ、このオレの打撃に耐えるには脆弱すぎるがね」

 乙女の腹部に埋まった拳を、〝大蟇”がグボリと引き抜く。
 涙を浮かべた魅惑的な瞳に、わずかな安堵がよぎる。だが、激痛からの解放はほんの数秒もなかった。
 今度は、桃をふたつ埋めたように膨らんだ胸へ。
 蛙の拳が突き刺さる。斜め下から抉り込むや、左の乳房の内部でぐにゃぐにゃとこね回す。
 
「ひぎイ”ッ・・・!? きゃああああ”あ”ア”ッ~~~ッ!!」

「クヒュヒュヒュ! いい鳴き声だぁ! 胸を揉み潰されるのは、そんなに痛いか? 苦しいかね?」

 絞首刑状態の白スーツの美女を、半人半蛙の妖化屍は責め続ける。胸の果実に突き入れた手で、内部の肉を思うがままに掻き混ぜる。
 窒息で思考もままならない郁美は、激痛と恥辱のなかで、涙を撒き散らして悶え踊るしかなかった。
 華やかな記者会見が続く会場の隣で、妖魔による蹂躙は続けられた。
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