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第一章 ハッピー婚約破棄ライス
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「やっぱりこれは間違いなく、お米ですわーッ!!」
「おお、ライスラのことを言ってんのかい、お嬢ちゃん」
「はいっ!! わたし! これを! 生まれてからずううううっと!! 食べたかったんですの!!」
「ははは。大袈裟だなあ。だがその勢いに免じてまけてあげよう」
「やりましたわーっ!!」
拳を天に突き上げると、クマのようなおっちゃんが笑います。
どちらかというとおっちゃんのようなクマ、というべきかしら。
多分、獣人の方なのでしょう。獣人という存在もリーンバルト王国を出て初めて見ました。
リーンバルトのヒューマンは帝国最弱種族のくせに、獣人を見下しているところがあるのです。
どの面下げて見下しているのでしょうね。
「あっはっはっはっは。しかし、お嬢ちゃんの期待を挫くようで申し訳ないんだが、こいつはそんなに美味くはないぞ?」
「それはおじさんの舌がちょっとおかしいだけだと思いますわ」
お米がまずいわけがないのです。
日本人は全員賛同してくれると信じていますわ。
「わーっはっはっは! 食べたことがないのにそこまで言うとはとんだエルフフリークだな!!」
「エルフ?」
「なんだ、知らないわけじゃないよな? こいつがエルフの国の穀物だから食ってみたいんだろう?」
「へえ~。そうだったんですの。いえ、全然知りませんでしたわ」
エルフの国というのは、この国とはまた違う、大森林の奥にあるというエルフリーフという国のことでしょう。
帝国もエルフが治めていますが、こちらはある種の選挙制を取っているのでエルフリーフとはまた別なのです。
「そうかそうか。まあ、エルフに憧れるやつは多いからな。恥ずかしがることはない」
何やら誤解をされたようだけれども、訂正する時間がもったいないので気にしません。
早く、早くお米が食べたい。実に十六年ぶりの米。転生ぶりのお米ですわ!
「ハアッ、早く、おじさん……っ! 早くお米を売ってくださいませぇ……!」
「わかったからヤク中みたいな顔をしないでくれ。どれくらい欲しいんだ?」
「全部! と言いたいところですけれど、我慢して我慢して我慢の限りを尽くして、この一袋で手を打ちますわ」
「銀貨1枚だな」
「はいですわ」
貴族の娘だからってお金の価値がわからないとか、そんな大ボケをかますようなわたしではありませんの。
流石に前世日本人の記憶がありますものね!
「それじゃ、こいつをどうぞ」
「ありがとうござ――ぴっ」
おじさんに手渡されたお米の袋がわたしの足の爪先に落ちましたわ。とっても痛い。
あと全然動きませんわ。
何ですのこれ? 鉛でも入っているんですの??
「うっ……うぐぐっ……! ぴぎぃい……っ!!」
「お嬢ちゃん……まさか持てないのかい……? それなら量を減らすかい?」
「っ!?」
「そんな悲壮な顔をされてもね。誰か運んでくれる人はいないのかい?」
「うっ……ううっ……! ぐすっ」
「そうかあ。いないのかい。だがおれもここを離れられんし。おーい!」
おじさんが手を振ると、子どもが二人駆けてきました。
薄汚い身なりの男の子と女の子の二人組ですわ。お風呂に最後に入ったの、いつ?
「なんだよおっさん。いつもは店に近づくだけで追い払うくせに」
「このお嬢さんがな、荷物が重くて持てないらしい。運んでやったら駄賃をくれるかもしれんぞ。どうだねお嬢さん?」
「……っ!」
「そうかそうか。払ってくれるそうだぞ」
「ならおれたちの客だな。さて、荷物ってのはどんだけ重いのかな……と……」
わたしの爪先に落ちていた袋を拾い上げた男の子の言葉が口の中に消えていきましたわ。とっても重かった、そういうこと?
「……お姉さん……あんた……これ持てないの……?」
「ミリにも持たせて。……えっ。お姉ちゃん、どうやって生きてきたの……?」
怪訝な眼差しが、痛いですわ。
だけどこれにはちゃんとした正当なる理由があるのですわ!
「故国でガリガリ大好きな元婚約者に餓死させられそうになっていたから、お米の一袋も持てない身体になってしまったんですの!」
「何だよそれ、ひどいな」
「お姉ちゃん、可哀想」
「そうでしょうそうでしょう。わたし、逃げてきたんですの! でもこれからは大丈夫。ちゃんとご飯をいっぱい食べて、健康的に長生きして見せますわ!!」
この筋力の衰えきった身体はわたしのせいじゃないんですの。
リーンバルト王国のエルフ媚び媚び大作戦により、女の子には生まれながらに様々な制約が課せられるのです。
コルセットしかり、運動制限しかり、食事制限しかり。
棒のように細く、太陽の光にも当たったことがないような抜けるような白い肌を持つ、菜食主義の弱々しい女の子。
それが三百十年前から今に至るまで、未だに帝国の頂点に君臨しているヘンリク大帝の好みなのですわ。気持ち悪。
「おお、ライスラのことを言ってんのかい、お嬢ちゃん」
「はいっ!! わたし! これを! 生まれてからずううううっと!! 食べたかったんですの!!」
「ははは。大袈裟だなあ。だがその勢いに免じてまけてあげよう」
「やりましたわーっ!!」
拳を天に突き上げると、クマのようなおっちゃんが笑います。
どちらかというとおっちゃんのようなクマ、というべきかしら。
多分、獣人の方なのでしょう。獣人という存在もリーンバルト王国を出て初めて見ました。
リーンバルトのヒューマンは帝国最弱種族のくせに、獣人を見下しているところがあるのです。
どの面下げて見下しているのでしょうね。
「あっはっはっはっは。しかし、お嬢ちゃんの期待を挫くようで申し訳ないんだが、こいつはそんなに美味くはないぞ?」
「それはおじさんの舌がちょっとおかしいだけだと思いますわ」
お米がまずいわけがないのです。
日本人は全員賛同してくれると信じていますわ。
「わーっはっはっは! 食べたことがないのにそこまで言うとはとんだエルフフリークだな!!」
「エルフ?」
「なんだ、知らないわけじゃないよな? こいつがエルフの国の穀物だから食ってみたいんだろう?」
「へえ~。そうだったんですの。いえ、全然知りませんでしたわ」
エルフの国というのは、この国とはまた違う、大森林の奥にあるというエルフリーフという国のことでしょう。
帝国もエルフが治めていますが、こちらはある種の選挙制を取っているのでエルフリーフとはまた別なのです。
「そうかそうか。まあ、エルフに憧れるやつは多いからな。恥ずかしがることはない」
何やら誤解をされたようだけれども、訂正する時間がもったいないので気にしません。
早く、早くお米が食べたい。実に十六年ぶりの米。転生ぶりのお米ですわ!
「ハアッ、早く、おじさん……っ! 早くお米を売ってくださいませぇ……!」
「わかったからヤク中みたいな顔をしないでくれ。どれくらい欲しいんだ?」
「全部! と言いたいところですけれど、我慢して我慢して我慢の限りを尽くして、この一袋で手を打ちますわ」
「銀貨1枚だな」
「はいですわ」
貴族の娘だからってお金の価値がわからないとか、そんな大ボケをかますようなわたしではありませんの。
流石に前世日本人の記憶がありますものね!
「それじゃ、こいつをどうぞ」
「ありがとうござ――ぴっ」
おじさんに手渡されたお米の袋がわたしの足の爪先に落ちましたわ。とっても痛い。
あと全然動きませんわ。
何ですのこれ? 鉛でも入っているんですの??
「うっ……うぐぐっ……! ぴぎぃい……っ!!」
「お嬢ちゃん……まさか持てないのかい……? それなら量を減らすかい?」
「っ!?」
「そんな悲壮な顔をされてもね。誰か運んでくれる人はいないのかい?」
「うっ……ううっ……! ぐすっ」
「そうかあ。いないのかい。だがおれもここを離れられんし。おーい!」
おじさんが手を振ると、子どもが二人駆けてきました。
薄汚い身なりの男の子と女の子の二人組ですわ。お風呂に最後に入ったの、いつ?
「なんだよおっさん。いつもは店に近づくだけで追い払うくせに」
「このお嬢さんがな、荷物が重くて持てないらしい。運んでやったら駄賃をくれるかもしれんぞ。どうだねお嬢さん?」
「……っ!」
「そうかそうか。払ってくれるそうだぞ」
「ならおれたちの客だな。さて、荷物ってのはどんだけ重いのかな……と……」
わたしの爪先に落ちていた袋を拾い上げた男の子の言葉が口の中に消えていきましたわ。とっても重かった、そういうこと?
「……お姉さん……あんた……これ持てないの……?」
「ミリにも持たせて。……えっ。お姉ちゃん、どうやって生きてきたの……?」
怪訝な眼差しが、痛いですわ。
だけどこれにはちゃんとした正当なる理由があるのですわ!
「故国でガリガリ大好きな元婚約者に餓死させられそうになっていたから、お米の一袋も持てない身体になってしまったんですの!」
「何だよそれ、ひどいな」
「お姉ちゃん、可哀想」
「そうでしょうそうでしょう。わたし、逃げてきたんですの! でもこれからは大丈夫。ちゃんとご飯をいっぱい食べて、健康的に長生きして見せますわ!!」
この筋力の衰えきった身体はわたしのせいじゃないんですの。
リーンバルト王国のエルフ媚び媚び大作戦により、女の子には生まれながらに様々な制約が課せられるのです。
コルセットしかり、運動制限しかり、食事制限しかり。
棒のように細く、太陽の光にも当たったことがないような抜けるような白い肌を持つ、菜食主義の弱々しい女の子。
それが三百十年前から今に至るまで、未だに帝国の頂点に君臨しているヘンリク大帝の好みなのですわ。気持ち悪。
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