好きになれない

木原あざみ

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好きになれない3

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 バスケットボール大会と銘打っているが、参加者はスタッフを合わせて二十名弱だ。おまけに経験年数も性別も年齢もばらばら。学人のように負けん気をむき出しにしている生徒もいなくはないが、それは少数派。残りの大多数はスリー・オン・スリーを和気あいあいと楽しんでいる。
 お、また、入った。歓声に沸くコートを微笑ましく見つめながら、日和は得点板の点数を捲る。五対二。雪人も運動は嫌いだと言っていた割には楽しそうにはしゃいでいて、安心する。
 上手かろうが下手だろうが、楽しんでいるなら、それが一番だ。

「あらあら。恵麻ちゃんたちのチームが善戦してるじゃない」
「お帰り、優海さん。先生さん、帰ったの?」

 いきなり隣から聞こえた声に日和は内心ぎょっとしたのだが、羽山は気が付いていたらしい。愛想の良い声が会話を受ける。

「仕事終わりに様子を見に来ただけだから、ゲームはご勘弁をって断られちゃったわ」

 コートから視線を入口のほうにそっと飛ばす。そこにはたしかに誰の姿も残っていなかった。

 ――あれ。

「そうなんだ。基生は?」
「その先生と、外で少しお話してくるって言ってたから。しばらくは戻ってこないかも」

 学人の目の届かないところで引き継ぎたい話でもあったのだろうか、と考えながら、得点を変える。七対二。ツー・ポイント・ラインの外側から決めたのは学人だ。この試合が終わるまでくらい、見てあげてもいいだろうにとも思いながら。

「世間は狭いわね。真木くんの知り合いだったんですって、その先生。羽山くんも知ってる? 高校の同級生だって言ってたけど」
「あー、どうっすかね。うちの高校、八クラスはあったからなぁ。俺もあいつとばっかりつるんでたわけでもないんで」
「それもそうね。お友達なら羽山くんもお話がしたかったかしらと思っただけよ。違うならいいの」

 あっさりと笑って、優海は応援している凛音たちの方へと足を向けた。その背を、首を傾げたい心境で見送って、それから誰もいないとわかり切っている入口へともう一回、視線を送る。
 高校の同級生って、なんで、また。

「ぴよちゃんさぁ。気になるなら、見に行ってもいいよ。得点係は俺ひとりでもできるから」

 ぼそりと届いた声に、日和は羽山の顔を見た。

「俺が行って、問題大きくしても困るからさ」
「……お知り合い」
「知り合いって言いたくないレベルの知り合いだけどね。まったく、妙なところで縁が繋がるから人間関係って本当に面倒」

 コートを見つめたまま、口元だけで羽山が笑う。

「まぁ、地元から遠く離れた場所ってわけでもないからね。そう意味では仕方ないんだろうけど。あいつは引きが悪いから」

 ぴよちゃんの大学にもさ、いたでしょ。俺らの後輩。そういう意味でも、繋がっていても、ちっともおかしくないんだろうけどね。なんでもないことのように羽山は続けた。コートの中で、また歓声。学人だ。日和が捲るべく担当のチームの得点だったが、伸びてきた羽山の手が無造作に捲り上げる。
 バスケットボールを追いかける生徒たちと、閉まったままの入口とをもう一度見比べる。結局、日和は小さく頭を下げた。そしてそっと外に続くドアを押した。
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