11 / 72
第一章:ようこそ「あやかしよろず相談課」
山での初仕事⑤
しおりを挟む
カラスがどこかで鳴いている。おばあさんが貸してくれた軍手で雑草を引き抜きながら、あたしは夕闇に染まり出した空を仰いだ。
そのままぐるりと周囲を見渡せば、山もりのごみ袋が四つ。五つ目がちょうど八割ほど草で埋まったところだった。
――こ、腰が痛い。
慣れない態勢で長時間かがんでいたのだ。明日は筋肉痛になること間違いなしだ。憂鬱を覚えながら、ぷつりと草を抜く。雑草を抜くときは根っこから。かつてのおばあちゃんの教えを忠実に守りながら、あたしはもくもくと作業に取り掛かる。
もれそうになった溜息は寸前のところで呑み込んだ。
溜息のひとつくらい許されたい気もするけれど、あの先輩が文句ひとつなく雑草をぶちぶち引っこ抜いているのだ。あたしが愚痴なんぞ言えるわけがない。
そんなわけで、あたしは無言で草むしりをしている先輩の近くで、ずっと草をむしり続けていたのだった。
五個目の袋が満杯になったところで、やっと先輩が立ち上がった。つなぎをぱんぱんと払っている。
「お、終わり、ですか?」
「おお」
あたしを見ようともせず、先輩が膨らんだごみ袋を四つ持って歩き出す。終わりだと確信して、あたしも放置されたラストひとつのごみ袋を手に追いかける。
というか、一個でもそれなりに重いのに、すごいな。先輩。
三対二でもなく四対一の割合にしてくれるあたり、女の子扱いしてくれているのだろうか。
いや、ないな。一瞬であたしは自分の考えを否定した。ない。自分で持てる限界が四つだっただけだ。
「おい、ばあさん。終わったから帰るからな」
先輩が開いたままの玄関から室内へと声をかけた。返事はない。けれど、先輩は気にした様子もなく踵を返そうとする。
「あ、あの。先輩」
「なんだよ」
「これ、どうしましょう。中にいらっしゃるなら、ちょっとあたしご挨拶してきてもいいですか?」
外したばかりの軍手を掲げると、先輩が面倒くさそうに唸った。それから溜息。
なんだか申し訳なくなって謝ろうとしたのだが、それより先に軍手を取り上げられてしまった。先輩が框の上に投げ置く。
「せ、先輩……」
「おい、ばあさん。ここに軍手も置いてくからな!」
やはり中からの返事はない。けれど、先輩はこれでいいだろと言わんばかりだった。玄関を閉めて歩き出す。
「あ、あの」
「あのばあさんの家に入るのは駄目なんだ。まぁ、声は届いてるから問題ねぇよ」
「……そうですか」
先輩が言うのだから、その判断が正しいのだと納得することにした。求められているのは常識的な判断ではなく、その人に合わせた対応ということなのだ、きっと。
獣道を下って、公用車の後部座席にごみ袋を詰め込む。これで運転席から後ろがちゃんと見えるのか不安になって、最後に思い切り押し込んだ。
「おい、こら、新人。袋が破れたら面倒なんだ。やめろ」
「さては先輩、前にやらかしましたね」
「……」
「すみません。気をつけます」
無言の圧力にあっさりとあたしは屈した。押し込むのを諦めて、なるべく高くならないよう工夫して詰め込んでいく。気分はテトリスだ。
どうですかと振り返ると、満足そうに先輩が頷いた。よしと内心でガッツポーズをして助手席に滑り込む。
そのままぐるりと周囲を見渡せば、山もりのごみ袋が四つ。五つ目がちょうど八割ほど草で埋まったところだった。
――こ、腰が痛い。
慣れない態勢で長時間かがんでいたのだ。明日は筋肉痛になること間違いなしだ。憂鬱を覚えながら、ぷつりと草を抜く。雑草を抜くときは根っこから。かつてのおばあちゃんの教えを忠実に守りながら、あたしはもくもくと作業に取り掛かる。
もれそうになった溜息は寸前のところで呑み込んだ。
溜息のひとつくらい許されたい気もするけれど、あの先輩が文句ひとつなく雑草をぶちぶち引っこ抜いているのだ。あたしが愚痴なんぞ言えるわけがない。
そんなわけで、あたしは無言で草むしりをしている先輩の近くで、ずっと草をむしり続けていたのだった。
五個目の袋が満杯になったところで、やっと先輩が立ち上がった。つなぎをぱんぱんと払っている。
「お、終わり、ですか?」
「おお」
あたしを見ようともせず、先輩が膨らんだごみ袋を四つ持って歩き出す。終わりだと確信して、あたしも放置されたラストひとつのごみ袋を手に追いかける。
というか、一個でもそれなりに重いのに、すごいな。先輩。
三対二でもなく四対一の割合にしてくれるあたり、女の子扱いしてくれているのだろうか。
いや、ないな。一瞬であたしは自分の考えを否定した。ない。自分で持てる限界が四つだっただけだ。
「おい、ばあさん。終わったから帰るからな」
先輩が開いたままの玄関から室内へと声をかけた。返事はない。けれど、先輩は気にした様子もなく踵を返そうとする。
「あ、あの。先輩」
「なんだよ」
「これ、どうしましょう。中にいらっしゃるなら、ちょっとあたしご挨拶してきてもいいですか?」
外したばかりの軍手を掲げると、先輩が面倒くさそうに唸った。それから溜息。
なんだか申し訳なくなって謝ろうとしたのだが、それより先に軍手を取り上げられてしまった。先輩が框の上に投げ置く。
「せ、先輩……」
「おい、ばあさん。ここに軍手も置いてくからな!」
やはり中からの返事はない。けれど、先輩はこれでいいだろと言わんばかりだった。玄関を閉めて歩き出す。
「あ、あの」
「あのばあさんの家に入るのは駄目なんだ。まぁ、声は届いてるから問題ねぇよ」
「……そうですか」
先輩が言うのだから、その判断が正しいのだと納得することにした。求められているのは常識的な判断ではなく、その人に合わせた対応ということなのだ、きっと。
獣道を下って、公用車の後部座席にごみ袋を詰め込む。これで運転席から後ろがちゃんと見えるのか不安になって、最後に思い切り押し込んだ。
「おい、こら、新人。袋が破れたら面倒なんだ。やめろ」
「さては先輩、前にやらかしましたね」
「……」
「すみません。気をつけます」
無言の圧力にあっさりとあたしは屈した。押し込むのを諦めて、なるべく高くならないよう工夫して詰め込んでいく。気分はテトリスだ。
どうですかと振り返ると、満足そうに先輩が頷いた。よしと内心でガッツポーズをして助手席に滑り込む。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる