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縁とは異なもの味なもの

4:時東はるか 11月24日10時46分 ①

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 古今東西、同じ名称の食べ物も、地域が変われば味も変わる。日本の最たる例は雑煮だろうが、おでんもそうであったらしい。
 つまるところ、生まれも育ちも関東で、近しい親戚もみな関東の時東にとって、南の家で食べたおでんは、ちょっとした新世界だったのだ。

「どうしよう、これ」
「いや、全部、こっちで処理してもいいんですよ? 基本的に皆さんそうしてらっしゃるんですから。変なところでマメですよねぇ、悠さん」

 段ボール箱の山を前に唸った時東の隣で、台車にせっせと段ボール箱を積み上げていた岩見が笑う。

「まぁ、悠さん、あのラジオ、テンション高かったですもんねぇ。あちらさんとしては嬉しい宣伝だったんでしょう。はい、一箱どうぞ。お好きなら、もう一箱持って帰ります?」
「いや、……一箱でいい。大丈夫。岩見ちゃん、悪いけど残りは処理しといてくれる?」

 ご当地おでんセットの詰まった箱を手に、時東はへらりとほほえんだ。
 南が作ったものであればいざ知らず、味のない食べ物を二箱は厳しい。そもそもとして、譲り渡すような知人もいない身だ。

「もちろんです。お疲れさまでした、悠さん。今日はこのあとオフなんですから、ゆっくりしてくださいね」
「うん。そのつもり。岩見ちゃんもお疲れさま」

 もう一度にこりと笑って、事務所の駐車場に向かう。
 助手席に置いた箱の側面を、時東は運転席から一瞥した。記載されているのは、先だって聞いたばかりの南の母親の出身地だ。

 ――うーん、どうしようかな、これ。
 
 いかんせん、味のわかるものを食べたのが優に二週間ぶりだったので、あの日の自分のテンションは突き抜けていたのだ。
 それでもって、未知なる体験だった生姜醤油の効いたおでんも、想像以上においしかった。おまけにビール付き。味のある晩酌も大変ひさしぶりで、繰り返しになるが、時東のテンションは高かった。
 その勢いのまま、出演したラジオの生放送で熱くおでんの魅力を語った。結果がこれである。

「置いといてもいいけど、そのまま忘れそうだしなぁ、俺」

 関係者から「宣伝ありがとうございます、お礼に……」と言って事務所宛てに配送されたご当地おでんセット。一箱貰い受けたのは、時東なりの誠意だ。だが、しかし。

「あ」

 そこまで考えて、時東はそうだと思いついた。時刻は十時五十分。木曜日は南食堂の定休日だが、今の自分は南の家を知っている。
 くわえて、オフである本日の、このあとの予定はないときた。

「結局、このあいだのお礼も言えてないし」

 言い訳がましく呟いて、ひとまず自宅に向かうべく、時東はシートベルトを締めた。家に戻って、バイクに乗り換えて、またすぐに出かけよう。あの家にお裾分けを届けに。



[4:時東はるか 11月24日10時46分]
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