隣のチャラ男くん

木原あざみ

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隣が痴話げんか①

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 外に出た瞬間に襲ってきた寒風に、真白はうへと首をすくめた。覚悟はしていたものの、すこぶる寒い。夏の暑さにも弱いが、冬の寒さにもほとほと弱くできているのだ。
 徒歩五分のアルバイト先に行く決心をつけるのも、一苦労なほどに。
 ダウンジャケットのファスナーを極限まで引き上げて、部屋の鍵をかける。ポケットに両手を突っ込んだまま、くるりと向きを変えたところで、「あ」と真白は声を漏らした。
 夢見荘の階段が軋む音とともに、聞き覚えのある話し声が近づいてきたからである。

 ……もっと早く出てりゃよかった。

 ギリギリまで引きこもっていた自身の無駄な抵抗を、真白は悔やんだ。間違いなく、もっと早くに出かけるべきだった。



  【隣が痴話げんか】



「あれ、しろだ」

 薄暗がりから顔を出した幼馴染みが、へらりと相好を崩した。ひらひらと振っている手の反対側には、ぴとりと男がくっついている。

「うん」

 視線のやりどころに困って、真白は曖昧に頷いた。いったいなにが悲しくて、男連れの幼馴染みと遭遇しなければならないのか。そうして、なんで恋敵よろしく睨みつけられないといけないのか。
 まったくもって意味がわからない。

「どうしたの。今日、バイトじゃなかったっけ?」

 愛想の良さをいかんなく発揮されて、「まぁ、そうだけど」ともごもごと呟く。俺なんて放っておいてくれていいから、さっさと家に入ってほしいというのが偽らざる本音であった。

「どうせギリギリまで引きこもってたんでしょ。早く行かないと遅刻するよ」

 対身内用の呆れたふうでいて、甘い声。真白にとってはいつものものだったのに、刺さる視線はどんどんと鋭くなっていく。
 なんだ、この理不尽。俺がいったいなにをした。心情としてはその一言に尽きたが、真白は平和主義者だった。争うための高エネルギーは所持していないし、人生平穏がなによりだ。

「うん」

 行ってくる、と当たり障りのない返事を残して、脇を通り過ぎる。部屋を出た瞬間も寒かったが、外付けの階段を下りるときが一番寒い。風当たりがきついのだ。慎吾を壁にしたかったが、どだい無理な話である。
 頭上からは、なにやら話し声が響いていた。男のくせに、やたら鼻につく高い声。
 なんだかなぁ、と首を捻りつつ、スマホで時間を確かめる。十八時ジャスト。アルバイト先のコンビニエンスストアの交代時間は十八時。

「……まぁ、いいだろ」

 ちょっとくらい。そう決めて、心持ち足を速めて歩き出す。寒い。
 急いで走るという選択肢は、大変残念なことに真白の頭に存在してはいなかった。
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