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4:魔法使いと弟子の永遠

99.冬の最果て ①

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 北に進めば進むほど、当然と寒さは厳しくなっていく。手袋をこすり合わせて、テオバルドは冴え冴えとした月を見上げた。

 ――エンバレーはもっと寒かったんだろうな。

 ここよりもさらに果ての、未踏だった北の大地だ。娯楽もなにもない場所だとアシュレイはあっさり笑っていたけれど、そのとおりであったのであろう。
 その空白の地で、四年。長い時間だとテオバルドは思う。けれど、それだけの時間を過ごしても、あの人はいっさいなにも変わらなかったのだ。
 ぶれのないあの人らしいと言えば、そうであるのだろう。アシュレイにはぶれがなく、凜としている。幼いころから、ずっと思っていたことだ。だから、自分がなにを尋ねても彼は変わらなかった。

 ――でも、やっぱり、余計なことだったな。

 なにも気にしていない顔で会いに行けば、同じ顔で迎え入れてくれると知っている。だからこそ、罪悪感とも虚しさとも言えないものが腹の底で渦巻くのだ。
 言わないと決めていたはずの片鱗をこぼした自分に対する苛立ちもあって、テオバルドの心は、あの日以来、中途半端に揺らぎ続けている。

「あー、寒い、寒い」
「ジェイデン」

 防寒具を押さえながらテントに戻ってきたジェイデンの肩には、うっすらと雪が積もっていた。

「おつかれ。なにごともなく?」
「なにごともないが、特研の連中はあいかわらずピリピリとしてはいるな」

 夜の見回りよりも、そちらでよほど気を使った、と。茶色い髪を苛々と掻きやりつつ、ジェイデンが隣に腰を下ろした。
 想像がついて、はは、と笑う。吐く息が白い。

「今日の昼の中型への実験が、いまひとつだったみたいだからね」

 焦ってもいるし、苛立ちもあるのだろう。

「そのおかげで、うちの隊員の腕が一本飛ばされかけたんだがな。あいつら、気づいてもいなかったぞ。いや、気づいていても、気遣う気がなかったのか。とりあえず、感謝のひとつも聞いちゃいない」
「フィールドが違うからと思うしかないよ」

 特殊任務ということで、矛を収めるしかない。なにせ、上が了承していることだ。静かに笑ったテオバルドに、ジェイデンも諦めたように溜息を吐いた。

「あの薬草学オタクども。正直、あそこまでひどいとは思ってなかったぜ」

 遠征隊に彼らが帯同すると知ったときから、常より気を使う任務になるだろうなと予想はしていたし、覚悟もしていた。
 けれど、一週間が経った今、当初の読みは甘かったと認めざるを得なくなっている。

 ――向こうは向こうで、上層部からかなりせっつかれてたみたいだし、苛々してるのも多少はしかたないと思うけど。でも、もう少し、協力体制を取ってくれないと。
 
 この一週間を振り返って、テオバルドも内心で長々と息を吐き出した。
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