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4:魔法使いと弟子の永遠

92.誰も知らない ⑤

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 国と民のために使うべき力を悪用した魔法使いに対する刑罰として、魔力を奪うことは有用ではないか。
 そういった案が、一部では浮上しているのだそうだ。きな臭い話だとテオバルドは思う。

 ――宮廷に呼ばれた、か。

 本意の結果ではなかったかもしれないが、この研究の大本に関わっていたのは、母だ。
 母はなぜ、あの研究に没頭していたのだろう。アイラが言うとおり、女性の魔法使いの能力の向上を目指していたというのなら、それはそれでいい。素晴らしいことだ。でも――。

「なんだ。言いたいことがあるのなら、はっきりと言え」
「……え」
「おまえは昔から、なにか言いたいことがあるときに、そういう顔をする」

 黙っていてもわからんと昔から言っているだろう、と目を伏せたまま、アシュレイが笑う。この場所で何度も聞いた、師匠の柔らかな声だった。自分だけを特別に愛してくれているのだ、と。傲慢に、無邪気に信じていた。
 なにも言えないでいると、アシュレイが静かに言葉を続けた。 

「だが、おまえはもう子どもではない。言わなくとも構いはしないが」

 予想もしないところから、研究が成功することはある。けれど、それは、たいていにおいて、どこかで繋がっているものだ。
 魔力をゼロにする、の対極は、ゼロになった魔力を復活させる。
 母は、父の魔力を取り戻そうとしていたのではないだろうか。相談すれば、一番の力になるはずのこの人に頼る道を放棄して、ひとりで、意地らしく。

「師匠」

 こんなことを尋ねても、なんの意味もない。すべて、いまさらだ。そうわかっていたのに、テオバルドの口からは問いかけがこぼれ落ちていた。

「あなたは、私の父のことを愛していたのですか」

 伏せられていた緑の瞳が、テオバルドを捉える。こぼれ落ちたものを誤魔化そうという考えは湧かなかった。その瞳を見つめたまま、はっきりと問い重ねる。

「父は、あなたのことを愛していたのですか」

 十八のときから、胸のどこかで抱え続けていた問いだった。
 だって、そうでなければ、命を賭けることなどできないだろう。禁術は、時として簡単に人の命を奪い去っていく。だから、禁じられているのだ。
 魔法使いとして研鑽を積み、禁じられた術の重みを知ったからこそ、より強く思うようになった。
 
 ……まぁ、そうだったとしても、裏切りだなんて、俺には言えないけど。

 無意識に指先を握りしめていたことに気がついて、テオバルドは指を解いた。緊張しているときの癖だと、きっとこの人は知っている。
 けれど、自分を見据える緑の瞳からは、なにも読み取ることはできなかった。

 裏切りだと糾弾できないのは、父の子どもとしての感情より、この人を好きだという感情のほうが大きいと承知していたからだ。
 そんなもの、ただの妬心でしかないとわかる。母に対しての申し訳なさは、理性の縁に残っていたけれど。
 しかたないのよ、と笑っていた母は、父たちのことをどう思っていたのだろう。どう思って、自分をこの人に預けたのだろう。
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