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4:魔法使いと弟子の永遠
74.秘密ごと ⑤
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「俺のたったひとりの、師匠です」
「そうだったな、テオバルド」
テオバルドの考えていることをどこまで承知しているのか、師であるアシュレイの声は静かだった。
「そうだった」
わけもなく鼻の奥が痛んで、そっと目を伏せる。好きだ、と。また唐突に思い知った気分だった。
この人が、好きだ。もうずっと、あの森でふたりきりだったころから。ひとりになっても、大人になっても、今も、ずっと。
たとえおかしかったとしても、テオバルドは好きだった。
抑えようと思っているのに、弟子でいようと努めているのに、ふとした瞬間に顔を出す。こんな巨大な感情には、たしかに制約が必要なのかもしれない。
「どうかしたか」
「……いえ」
なんでもありません、とうつむいたままテオバルドは応じた。酒の入ったグラスに映る自分の顔はやたらと思い詰めているふうで、とてもではないが上げることができなかったのだ。
王都では好き放題に変人だのなんだのと言われているけれど、アシュレイは聡い人だ。テオバルドのことを、いつも見てくれている。
――でも、それは、保護者としての愛でしかないんだよな。
自分に対する、それ以外の愛はない。この人が好きなのは、父だ。そのことを、テオバルドは知っていた。だから、言わない。恋心を自覚した直後に、アシュレイの思いに気がついて、アシュレイがいなくなって、ひとりで大人になるあいだに、自分自身にそう誓ったのだ。
この感情の蓋は閉じていよう、と。自分のために。そして、ほかでもないアシュレイのために。
あの森にふたりで暮らし、この人と世界にふたりでもいい、と。願うことのできる子どもでなくなったからこそ、決めたのだ。
――だから、これでいいんだ。
魔法使いとして邁進することのできる仕事を得、国に忠誠を誓う代わりに、安定した衣食住を得ている。友人もいる。この人と穏やかな時間を過ごすこともできる。
そのいずれも、テオバルドにとって大切なものだ。もちろん、父と母もそうだ。
この世界で誰かひとりを選べと言われたら、テオバルドは間違いなくアシュレイを取るけれど、そんな選択を強いられない世界であるよう努めたいと願う。
それが、この人のためだと思うから。
魔獣の魔力を限りなくゼロにする薬についてアシュレイに尋ねることを、テオバルドは選ばなかった。
だから、アシュレイがその件を知っていたのか、テオバルドは知らない。
じっと考え込んでいるあいだ、アシュレイの緑の瞳が静かに自分を見つめていたことも、なにも知らない。
「そうだったな、テオバルド」
テオバルドの考えていることをどこまで承知しているのか、師であるアシュレイの声は静かだった。
「そうだった」
わけもなく鼻の奥が痛んで、そっと目を伏せる。好きだ、と。また唐突に思い知った気分だった。
この人が、好きだ。もうずっと、あの森でふたりきりだったころから。ひとりになっても、大人になっても、今も、ずっと。
たとえおかしかったとしても、テオバルドは好きだった。
抑えようと思っているのに、弟子でいようと努めているのに、ふとした瞬間に顔を出す。こんな巨大な感情には、たしかに制約が必要なのかもしれない。
「どうかしたか」
「……いえ」
なんでもありません、とうつむいたままテオバルドは応じた。酒の入ったグラスに映る自分の顔はやたらと思い詰めているふうで、とてもではないが上げることができなかったのだ。
王都では好き放題に変人だのなんだのと言われているけれど、アシュレイは聡い人だ。テオバルドのことを、いつも見てくれている。
――でも、それは、保護者としての愛でしかないんだよな。
自分に対する、それ以外の愛はない。この人が好きなのは、父だ。そのことを、テオバルドは知っていた。だから、言わない。恋心を自覚した直後に、アシュレイの思いに気がついて、アシュレイがいなくなって、ひとりで大人になるあいだに、自分自身にそう誓ったのだ。
この感情の蓋は閉じていよう、と。自分のために。そして、ほかでもないアシュレイのために。
あの森にふたりで暮らし、この人と世界にふたりでもいい、と。願うことのできる子どもでなくなったからこそ、決めたのだ。
――だから、これでいいんだ。
魔法使いとして邁進することのできる仕事を得、国に忠誠を誓う代わりに、安定した衣食住を得ている。友人もいる。この人と穏やかな時間を過ごすこともできる。
そのいずれも、テオバルドにとって大切なものだ。もちろん、父と母もそうだ。
この世界で誰かひとりを選べと言われたら、テオバルドは間違いなくアシュレイを取るけれど、そんな選択を強いられない世界であるよう努めたいと願う。
それが、この人のためだと思うから。
魔獣の魔力を限りなくゼロにする薬についてアシュレイに尋ねることを、テオバルドは選ばなかった。
だから、アシュレイがその件を知っていたのか、テオバルドは知らない。
じっと考え込んでいるあいだ、アシュレイの緑の瞳が静かに自分を見つめていたことも、なにも知らない。
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