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3:不老の魔法使い

51.帰郷 ①

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 だから王都も宮廷も嫌なんだ、という悪態を呑み込み続ける日々を過ごすこと、約十日。
 帰還に伴った諸々の手続きを終えグリットンに戻ったアシュレイは、ぐるりと町並みを見渡した。フードの下でほっと息を吐く。

 この町も四年ぶりだが、あまり大きく変わっていない。変化の目まぐるしい王都とは大違いで、そのことに密かに安堵した。発展の証と承知していても、感情の部分で落ち着かないものがあるのだ。
 置いて行かれる、と感じているのかもしれない。

 ――それにしても、ルカが面倒なことを言ったせいで、余計な面倒ごとが増えた。

 まったく、なにが、そうやっていつまでフードで顔を隠しているつもりかな、だ。我が師匠ながらお節介この上ない。
 せめてルカくらいの年で止まっていればよかったのだろうが、こちらは子どものようにしか見えないのだ。生じる面倒ごとの質が桁違いである。

 だから一生このままで問題ないと言ったのに、いかにも悲しそうに「大事に育てたかわいい弟子が、同じ轍を踏むとは思わなかった」、「一報が入ったときの私の心痛はいかばかりか」、「それなのに、また、きみは師匠心をわかってくれないわけだ」と返された。
 そうなると折れざるを得ないのは、自分である。昔からそうだ。口の達者な師匠に、アシュレイは勝てたためしがない。
 だから、謁見の場で求められたらフードを外してもいいと約束した。した以上は、実行もした。その結果、好奇の視線に十日間さらされたのだから、多少の文句くらい許されるだろう。

 本当に、王都も宮廷もろくなものではない、とアシュレイは思う。無駄に形式ばった宮廷仕事も面倒極まりないが、余計な人間関係というものが、どうも自分の性に合わない。
 だが、これでようやく少し森に引き籠ることができる。静かな空気を吸いながら大通りを歩いていると、小さな子どもふたりとすれ違った。
 目の前の友人にしか意識が向いていないのであろう。こちらの正体に気づくことなく、楽しそうに笑い合って歩き去っていく。出会ったばかりのころの、テオバルドくらいの年だ。

 ――あのころは、テオバルドも、よく喋っていたな。

 口数も少なく、とっつきづらかっただろう自分相手に、物怖じすることなくにこにこと話しかけていた。少しでも離れた日々があると、師匠、師匠、といっそうまとわりついてきたものだったが。

「……」

 きっと、大人になったということなのだろう。そうアシュレイはおのれを納得させた。
 自分にまとわりついていたころはとうに過ぎて、長い手紙を頻繁に送ってきた時期も過ぎた。ごくごく当然の正しい成長の結果である。
 それだけのことだと内心で再度呟いて、アシュレイは四年ぶりにイーサンの店の扉を押した。
 
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