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2:魔法使いの弟子
30.冬の月のような人 ②
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「昨日の議論は有意義だったが、少々白熱しすぎたな……」
欠伸を噛み殺しながらのジェイデンの台詞に、「だね」とテオバルドは同意を示した。
「寮長殿にも、俺たちの部屋は蝋燭の消費が激しいと言われてしまったから。せめて今日の夜は明かりを消そう」
「そうだな、今夜くらいはな」
気落ちした声音をくつくつと笑って、ジェイデンがまたひとつ欠伸をする。行儀がどうのと言われることのない寮暮らしが性に合うと笑っていたけれど、それでも所作の節々に品がある感じがするから、少し不思議だ。これが育ちというものなのかもしれない。
苦笑で応じて、寮の扉を閉める。教室のある建物から移動しただけで、すっかり身体が冷えてしまった。ローブの上から腕をさすって、白い息をこぼす。テオバルドにとっては、王都で過ごすはじめての冬だ。
――俺もだよ、かわいいテオ。
ふいに、あの森の一軒家で過ごした日々をテオバルドは思い出した。
自分が育てた唯一の弟子なのだから、なにも恐れることはないと言って送り出してくれた師匠。あの家で、今、彼はなにをしているのだろうか。
――師匠のことだから、新しい研究に没頭されているのかもしれないな。
あるいは、手に入れた魔法書に夢中になっているかもしれない。大魔法使いと呼ばれる存在となっても研鑽を怠ることのない師匠を尊敬しているが、それとはまったくべつのところで、もう少しきちんと生活してほしいとも思う。
――だいたい、師匠は、俺がいないと、いくらでも起きてるし、ごはんも食べないし。
弟子に大魔法使いの心配をする資格があるのかと言われると黙るほかなかったし、父にも呆れた顔をされてしまったけれど。離れた今も、たまにこうしてテオバルドは心配になる。
悶々としそうになった感情を呑み込んで、廊下の窓にちらりと目を向ける。グリットンの町の方角だ。
「あ……」
降り始めていた細かな雪に、テオバルドは小さな声をもらした。王都や、王都の南方に位置するグリットンの町に雪が深く積もることはめったとないけれど、大丈夫だろうか。
片方の手で足りる回数であるものの、アシュレイと森で過ごした八年のあいだに雪で難儀をしたことはある。あのあたりは町の中心部に比べると雪が深いのだ。
「積もらないといいけど」
ぽつりと呟いたテオバルドに、「ん?」とジェイデンが窓に目を向ける。
「あぁ、雪になったのか。今年は早いな」
「うん。だから、ちょっと心配で」
「心配? おまえの実家はグリットンの中心部だと言っていなかったか? あのあたりはそう積もらないだろう――って、あぁ、お師匠のところか」
察せられてしまったバツの悪さに、テオバルドは口早に言い足した。
「師匠はなんでもできる人だけど、生活全般のことに興味がないんだ。だから、雪かきとかも俺がしないとやろうとしなくて」
だらしないという表現を最大限柔らかくした言い換えに、ジェイデンが遠慮なく笑い声を立てた。
欠伸を噛み殺しながらのジェイデンの台詞に、「だね」とテオバルドは同意を示した。
「寮長殿にも、俺たちの部屋は蝋燭の消費が激しいと言われてしまったから。せめて今日の夜は明かりを消そう」
「そうだな、今夜くらいはな」
気落ちした声音をくつくつと笑って、ジェイデンがまたひとつ欠伸をする。行儀がどうのと言われることのない寮暮らしが性に合うと笑っていたけれど、それでも所作の節々に品がある感じがするから、少し不思議だ。これが育ちというものなのかもしれない。
苦笑で応じて、寮の扉を閉める。教室のある建物から移動しただけで、すっかり身体が冷えてしまった。ローブの上から腕をさすって、白い息をこぼす。テオバルドにとっては、王都で過ごすはじめての冬だ。
――俺もだよ、かわいいテオ。
ふいに、あの森の一軒家で過ごした日々をテオバルドは思い出した。
自分が育てた唯一の弟子なのだから、なにも恐れることはないと言って送り出してくれた師匠。あの家で、今、彼はなにをしているのだろうか。
――師匠のことだから、新しい研究に没頭されているのかもしれないな。
あるいは、手に入れた魔法書に夢中になっているかもしれない。大魔法使いと呼ばれる存在となっても研鑽を怠ることのない師匠を尊敬しているが、それとはまったくべつのところで、もう少しきちんと生活してほしいとも思う。
――だいたい、師匠は、俺がいないと、いくらでも起きてるし、ごはんも食べないし。
弟子に大魔法使いの心配をする資格があるのかと言われると黙るほかなかったし、父にも呆れた顔をされてしまったけれど。離れた今も、たまにこうしてテオバルドは心配になる。
悶々としそうになった感情を呑み込んで、廊下の窓にちらりと目を向ける。グリットンの町の方角だ。
「あ……」
降り始めていた細かな雪に、テオバルドは小さな声をもらした。王都や、王都の南方に位置するグリットンの町に雪が深く積もることはめったとないけれど、大丈夫だろうか。
片方の手で足りる回数であるものの、アシュレイと森で過ごした八年のあいだに雪で難儀をしたことはある。あのあたりは町の中心部に比べると雪が深いのだ。
「積もらないといいけど」
ぽつりと呟いたテオバルドに、「ん?」とジェイデンが窓に目を向ける。
「あぁ、雪になったのか。今年は早いな」
「うん。だから、ちょっと心配で」
「心配? おまえの実家はグリットンの中心部だと言っていなかったか? あのあたりはそう積もらないだろう――って、あぁ、お師匠のところか」
察せられてしまったバツの悪さに、テオバルドは口早に言い足した。
「師匠はなんでもできる人だけど、生活全般のことに興味がないんだ。だから、雪かきとかも俺がしないとやろうとしなくて」
だらしないという表現を最大限柔らかくした言い換えに、ジェイデンが遠慮なく笑い声を立てた。
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